遺跡の男
遺跡を囲むように並ぶ影達。その数は十を超えていた。黄色い雷が身体を走り、暗闇の中で不気味に揺らめいている。
その奥、崩れた石柱の上に黒衣の男が立っていた。
「ようやく来たか」
低い声だった。
剣硝が静かに刀へ手を掛ける。
「何者だ」
「名乗るほどでもない。だが確認したかった」
「何をだ」
男の視線がこちらへ向く。
「雷山鷲津」
心臓が跳ねた。
本物の鷲津なら知られていても不思議ではない。だが、なぜだろう。こいつの視線には妙な違和感があった。
「なるほど」
男が小さく笑う。
「確かに面影はある」
意味深な言葉だった。
だが聞き返す暇はなかった。
次の瞬間、影達が一斉に動いた。
「来るぞ!」
ギンの声と同時に、影の群れが襲い掛かってくる。
「――炎牙」
シエルの炎が夜を裂いた。赤い炎が先頭の影を飲み込み、轟音と共に吹き飛ばす。だが後続は止まらない。
「邪魔だ」
剣硝が前へ出る。
刀が抜かれた瞬間、三体の影がまとめて崩れ落ちた。
速すぎて見えなかった。
だが数が多い。
左右から次々と影が迫る。
「鷲津様!」
凜の声が飛ぶ。
右側から影が飛び込んできていた。
反射的に雷を纏う。
「――雷走」
身体が弾けるように加速する。
一瞬で間合いを詰め、そのまま拳を叩き込んだ。
「――雷牙!」
轟音。
黄色い雷が炸裂し、影の身体を吹き飛ばす。
だが、その瞬間だった。
影の身体から同じ黄色い雷が弾けた。
「っ!?」
肩に衝撃が走る。
避けきれなかった。
ギンの鎖が飛び、影を引き裂く。
「大丈夫ですか!?」
「ああ……」
だが違和感が残った。
今の雷。
俺の雷と妙に似ていた。
「気付いたか」
男の声が響く。
石柱の上で男は笑っていた。
「その影達は相手の力を模倣する」
空気が変わる。
ギンが眉をひそめた。
「模倣?」
「そうだ。炎を受ければ炎を学ぶ。雷を受ければ雷を学ぶ」
嫌な予感がした。
「つまり戦えば戦うほど強くなる」
その瞬間だった。
ゴロゴロ、と大地を震わせるような雷鳴が響く。
全員が空を見上げる。
黒雲の中心から巨大な雷柱が天へ伸びていた。
風の国の方角。
明らかに異常だった。
今まで黙っていた剣硝が口を開く。
「目的は何だ」
男は笑みを消した。
「始まりだ」
その一言だけだった。
次の瞬間、男の姿が掻き消える。
影達も同時に崩れ落ち、黒い粒子となって夜風へ消えていった。
静寂だけが残る。
だが空に伸びる巨大な雷柱は消えない。
剣硝がその光を見つめる。
「風の国で何かが始まる」
誰も否定しなかった。
そして俺は思う。
あの男は、なぜ俺を見て笑ったんだ――。




