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森の中の追跡



 森の奥に現れた影は、動かなかった。


 ただこちらを見ている。


 黄色い雷が身体の周囲を静かに走り、輪郭が揺らいでいる。


 不気味だった。


 だが次の瞬間だった。


 影が後ろへ跳んだ。


 まるで最初から戦うつもりなどなかったかのように。


「逃げた!?」


 俺が声を上げる。


 ギンの表情が険しくなる。


「違います。誘ってます」


 その言葉に空気が変わった。


 確かにそうだった。


 こちらに姿を見せておいて、そのまま森の奥へ消える。


 偶然とは思えない。


 剣硝が静かに森を見る。


「追う」


 短かった。


 だが誰も反対しない。


 凜が即座に使用人達へ指示を飛ばす。


「馬車の警戒を強化してください。朝までここで待機です」


「はっ!」


 そして俺達は森へ入った。


 夜の森は暗い。


 だが完全な闇ではなかった。


 遠くで雷が光るたび、木々の輪郭が浮かび上がる。


 パチ。


 また黄色い雷が見えた。


「いた」


 ギンが低く呟く。


 かなり先だ。


 だが確かに影だった。


 追えば追うほど、一定の距離を保ちながら逃げていく。


 まるでこちらを導いているように。


「気に入らないわね」


 シエルが舌打ちする。


「罠なら分かりやすすぎる」


「でも無視もできない」


 凜が答える。


 そのまま十分ほど進んだ時だった。


 不意に森が開けた。


 そこには小さな石造りの遺跡があった。


 半分以上崩れている。


 苔に覆われ、人の手が入った形跡もない。


「遺跡……?」


 俺が呟く。


 ギンが辺りを見回した。


「地図にはないですね」


「風の国の遺跡か?」


「分かりません」


 その時だった。


 剣硝が足を止める。


「静かすぎる」


 全員が動きを止めた。


 確かにそうだった。


 虫の声もない。


 風の音もない。


 森全体が息を止めたような静けさだった。


 そして。


 遺跡の中央に立っていた。


 あの影が。


 黄色い雷を纏いながら。


 だが今度は一体ではない。


 二体。


 三体。


 四体。


 暗闇の中から次々と現れる。


「……おい」


 思わず声が漏れた。


 ギンが苦笑する。


「これはちょっと多いですねぇ」


「ちょっとか?」


 シエルが呆れる。


 影達は動かない。


 ただこちらを見ている。


 だが、その数だけは増えていく。


 五体。


 六体。


 七体。


 そして。


 遺跡の奥。


 崩れた石柱の上に、ひとつの人影が立っていた。


 黒い外套。


 顔は見えない。


 人間だった。


 少なくとも影ではない。


「……誰だ」


 俺が呟く。


 その瞬間。


 外套の人物がこちらへ視線を向けた。


 そして。


 笑った気がした。


「ようやく来たか」


 低い声が夜の森へ響く。


 次の瞬間、遺跡を囲む影達が一斉に雷を纏った。


 バチバチと黄色い雷が弾ける。


 空気が震える。


 剣硝が静かに刀へ手を掛けた。


 シエルの周囲に熱気が広がる。


 ギンが鎖を握り直し、凜も刀を抜く。


 そして俺は右手に雷を集めた。


 風の国へ向かう旅は。


 思ったより早く、戦場へ変わろうとしていた

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