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雷を纏う影

応接室の空気が凍りついた。


「――影の中に、“雷”を纏った個体が確認されたと」


 凜の言葉が静かに響く。一瞬、誰も喋らなかった。


 雷を纏う影。


 嫌な予感しかしない。


「場所は?」


 剣硝が短く問う。


 凜は書状へ視線を落としたまま答える。


「風の国北部、山岳地帯です。現在、周辺一帯で異常な雷雲が発生しているとのこと」


「雷雲?」


 俺が聞き返すと、ギンが説明を続けた。


「数日前から空が動いてないらしいですよ。同じ場所に雷雲が停滞してるとか」


 それは確かに異常だった。自然現象じゃない。


「加えて、周辺の霊脈――大地を流れる魔力の流れにも乱れが確認されています」


 凜が静かに続ける。


 また霊脈か。


 影と霊脈。ここ最近ずっと繋がっている。


「風の国側は既に調査へ入っています」


「誰が向かってる?」


 できるだけ自然に聞く。


「特臣、“斬寺”と“ミスト”です」


 凜が答えると、シエルが紅茶を飲みながら口を開いた。


「斬寺は真正面から叩き潰すタイプね。ミストは逆。幻術と風術で撹乱するタイプ」


 ギンが苦笑する。


「あの二人が組むと厄介なんですよねぇ。正面から逃げ場なく潰されるというか」


 同じ特臣でも国によってかなり違うらしい。


 その時だった。


 剣硝が静かに口を開く。


「問題は、雷を纏っている点だ」


 赤い瞳がこちらを見る。


「偶然とは思えん」


 部屋が静まり返る。


 確かにそうだ。影が雷を纏っている。しかも霊脈異常まで起きている。雷山家と無関係とは思えなかった。


「風の国からは、雷山家にも協力要請が来ています」


 凜が言う。


「異変の規模が大きくなる前に、原因を突き止めたいとのことです」


 ギンが軽く肩をすくめた。


「まあ、雷が絡むならこっちに話来ますよね」


 俺は黙って窓の外を見る。黒い雲。霧葉村で見た影。あの不気味な感覚が蘇る。


 正直、怖い。


 でも。


 ここで逃げたら、多分ずっと逃げ続ける。


「……行く」


 気付けば口に出していた。


 凜が静かにこちらを見る。剣硝は短く頷いた。


「出発は明朝だ」


「そんな急ぐのか?」


「雷雲の範囲が拡大している」


 シエルが続ける。


「今はまだ山岳部だけ。でも、このままだと麓の集落まで飲み込む可能性があるわ」


 つまり、まだ間に合う。だから今動く必要がある。


「なるほどな……」


 するとカナが勢いよく立ち上がった。


「わたしも行く!」


「ダメだ」


 全員一致だった。


「なんで!?」


「危険だからです」


 凜が即答する。


「えぇ〜……」


 カナが頬を膨らませる。その様子を見ながら、シエルが少し笑った。


「子供ってどこも同じね」


「シエルも大差ないだろ」


 ギンが言う。


「何か言った?」


「別に?」


 少しだけ空気が和らぐ。でも剣硝だけは、ずっと静かなままだった。


 その時、不意に窓の外で雷が鳴った。


 ゴロ、と低い音が空に響く。反射的に視線を向ける。遠くの空が、黒く曇っていた。


 嫌な空だった。


 まるで何かが始まる前みたいに。

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