終局の悪魔―エンデ・トイフェル―
その夕方、土気色のラルゴ課長が転がり込んできた。
「皆さん……クララさんが――
列車に轢かれて、重症です――!」
ラルゴ課長はそのまま顔を覆う。
ガシャン!!!
ドルチェが、椅子を蹴倒して立ち上がった。
――なぜ、そんなことが言える?
そう言ったときのフィーネの青い瞳が一瞬でドルチェを包み、
顔面が蒼白になっていく。
「クララさんが運ばれた病院は、どこですか!?」
「アマデウス中央病院です!」
「庁舎の馬を使わせろ!
近くの病院に良い外科医を知っている。
私が首に縄を付けて連れて行く。
中央病院に連絡しろ!」
三十分後には、外科医のヴィータ医師を乗せた馬車が、アマデウス中央病院に到着した。
「ヴィータ先生、クララ嬢は?」
ドルチェに尋ねられた医師はしばらく黙っていたが、低い声で答えた。
「やらねば、分かりません。厳しいとだけ言っておきましょう。」
ドルチェは病院の廊下をよろめくように歩くと、近くの事務員に、役所への言付けを依頼した。
***
病院の門を出ると、ドルチェは、最初はつまずくように、
次第に全速力で走り出した。
まだ日暮れには遠い時間なのに、
曇天の空は薄暗い。
(貴様か?
――これが、貴様の力なのか?)
フィーネの土気色の顔、青い炎のような瞳が目の前をちらつく。
(私はこんな力を貸せと……アイツに言ったのか。)
落ち葉を集める後ろ姿、
うまそうにマカロニを口に運ぶ顔が遠くに去って行く。
(普通の人間じゃないか……
地方の小役人で、
住民をよく見て動き、
職員にも慕われて……)
ゼェゼェと息が上がり、途中の小川で立ち止まる。
水に頭を突っ込み、口をゆすぐと、また走り出す。
(アイツの力かもしれないが、
アイツの本意じゃない――
「なぜ、今、そんなことが言える。」と、
あんな目で、あんなに怒って……)
林を抜けた、白い家。
庭に人影はない。
「おい、小役人!」
家の扉には鍵がかかっていない。
「赤犬!」
家の中にもいない。
「赤鬼!」
庭に出る。
「鈍感災害!!どこだ!!」
目を庭の奥に向けた瞬間、ドルチェは身震いをして、立ちすくんだ。
***
フィーネは、小さなスコップを手に、ドルチェに背を向けて土を掘っていた。
辺りは、フィーネが掘ったらしい、柔らかい黒い土と深く掘られた穴がいくつもある。
ただそれだけだ。
――それが、身の毛もよだつほど恐ろしい。
「おい……」
かすれた声で呼びかける。
フィーネは振り返らずに静かに言う。
「――クララは……死んだか?」
「列車に飛び込んだようだが、まだ死んでいない。
知り合いの外科医を連れて行った。」
「テメェが自分で?ハハハッ!」
少しだけフィーネは振り返る。
「クララと寝たのか?」
「クソが!貴様の力を止めようとしたんだろうが!!」
「なんで?」
フィーネは背を向けたまま立ち上がる。
「テメェも利用しようとしてんじゃねェか――
――俺を」
首だけ回してドルチェを刺すように見る。
赤い髪と青い瞳が炎のように燃え上がっている。
「――【終局の悪魔】を。」




