寝室に行こう
「こちらに戻って来てから、渡す機会を探していたんだ……」
ここでドルチェは大きくため息をつき、
手にしたぺしゃんこのサンドイッチをフィーネに向ける。
「フィーネ、ここに書いてあることを読めるか?」
フィーネは袖で涙を拭うと、ドルチェににじり寄った。
サンドイッチを包む紙に何かが書いてある。
紙は汚れているし、
目の見えないドルチェが書いた字だからか、よく読めない。
「Vi……vi……?」
「待て、声に出すなよ!言葉で死ぬかもしれない、だから……」
「分かった。」
「読めたか?」
「待て。」
「……お、おい、読めたか?」
「ちょっと黙れよ!読もうとしてんだろ!」
フィーネはサンドイッチに顔を寄せて、紙を伸ばす。
(Vivia……mo……insie……me……)
フィーネはハッと顔を上げた。
Viviamo
――insieme, tu ed io
(共に生きよう、貴様と私で……)
心の中で呟くと、抑えようもなくフィーネの口は戦慄く。
「読めたか?おい、何か言え!き、緊張で私が倒れる前に!」
「お……おん。」
「何が『おん』だ、貴様は!クソ!
ああ、見えないと不便だな!」
「え?……嵌めてくんねェの?それ……」
「何が嵌めてだ、この……え?」
ドルチェは急に姿勢を正した。
「あ、ちょっと待て。
整理しよう。
――貴様はサンドイッチの紙に書かれた、私の文字を解読したな?」
「おん。」
ドルチェは少し咳払いした。
「こういう場合のリングは、だ。
その文字が指すような申出を承諾するとき、リングを受け取る行為が承諾とみなされる。
ここまではいいか?」
「お、おん。」
「よし。」
フィーネは、ポカンとしている。
「貴様は今、嵌めてくれと言ったな?私に。」
「言った……言いました。」
「指輪を嵌めてもらうことと、受け取ることは同義だな?
そう思うな?」
「おお、思う。」
「よし、じゃあ……
じゃあ……
あれ、サンドイッチはどこだ……」
「オメェ、何やってんの!?!?」
とうとうフィーネが爆発した。
床にあるサンドイッチをとると、袋のままドルチェの口にぐいぐい押し付ける。
「台無しじゃねェか!なんかよォ、全体的に!!!」
ドルチェがサンドイッチを奪おうともがく。
「貸せ!リングを貸せ!」
「テメェ!今さら申出を引っ込めンのか!?」
フィーネはサンドイッチを抱え込む。
「バーカ!バーカ!
このリングは俺のモンだ!デベソ!」
ドルチェは、ダンゴムシのように丸まっているフィーネの腕を引っ張る。
「私が、貴様に嵌めようとしてるんだ!貸せ!」
「え?」
パッとフィーネが上体を起こすと、ドルチェの顎とフィーネの頭が思い切りぶつかった。
「何をする!」
フィーネは、尻もちをついて怒声を発するドルチェの右手をぐいと取ると、
リングを手のひらに押し付けた。
そして、自分の左手の薬指を、ドルチェの指になぞらせる。
「ここだ。
――嵌めてくれ。オメェの手で。」
ドルチェの顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。
が、すぐに、美しい仕草で片膝をつく。
そして、手探りでフィーネの左手の薬指にリングを嵌めた。
「ちゃんと……嵌められたか?」
見えないドルチェは、少し不安げにフィーネの指を撫でる。
フィーネは左手の薬指を、ドルチェの口に持って行った。
「ほれ、完璧だ。」
ドルチェは、照れ臭そうな微笑みを浮かべると、
リングを嵌めたフィーネの薬指に口づけした。
目の前のこの男の、あまりに美しいこの仕草に、フィーネはほとんど茫然としている。
(夢か?――目ェ覚ましたら、ドルチェはまだ首都とか、ねェよな。)
黙り込んで身動きしないフィーネに気付いたドルチェが顔を上げる。
「どうした?フィーネ?」
なんて美しくて、なんて優しい声だろう。
――夢のような声だ。
「なあ、夢じゃないよな?」
「何を言ってるんだ、夢なわけ……」
フィーネはその声を遮り、ドルチェの手を握りしめて言った。
「寝室に行こう、ドルチェ。」
『【BL】終局の悪魔―俺を利用するはずの白髪高官が、なぜか俺の目を美しいと言ってくる―』
ドルチェ×フィーネ(左右固定)、明日からいよいよ、二人が二人の到達点に向かいます。
全51話、9月16日完結予定。
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