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暗殺計画は笑って聞いて

「オメェ……どんだけもらってンだよ。」


フィーネはアマーロを瓶のまま口に傾けながら、

膝に置いたドルチェの鞄から、次々と菓子を取り出す。


ドルチェは半分に切ったザクロの赤い粒を、器用にスプーンですくって食べている。


「よく声を掛けられたから、そのときかもしれない。

盲目の私を憐れんでくれたんだろう。」


少し自嘲気味の声に、呆れるフィーネ。


「供物だろ!」


「なぜ?」


目の前に座るドルチェは、白いアイマスクをしている。

白い目を美しいと言ってしまったのが逆効果だったか……とフィーネは思う。


それにしても、この姿で街角を歩けば誰だって声を掛けるだろう。


何せ、目の見えないこの美青年を助けるという立派な口実が人々に与えられたのだから。


フィーネは、あの紫水晶の瞳に焼かれていた。

あんなに美しいものはこの世にないと思えるほど。

手放したくないと心が千切れそうになるほど。


でも、この目の前のドルチェを見ていると、否応なく気付かされる。


あの瞳は、ドルチェの美しさの一つに過ぎなかったと。

目を失っても、この男の美しさは失われない。

別の美しさが備わるだけだ。


触れられないような高嶺に咲く美しさが、

一度見ると目を離せない気高い美になって……


――アマーロの瓶を空けたフィーネは、

ドルチェの鞄から取り出した焼き栗を口に放り込みながら、

シードルの瓶を開ける。


「おい、貴様は酒を飲んでいるのか?」


「おん?ああ、昼間から酒を飲むのが、正しい休日の過ごし方だろ。」


「私にもくれ。」


「アァ?下戸のエリートが何言ってんだ!」


「昼間から酒を飲むのが、正しいんだろう?」


「オメェには間違いだ!

坊主は、ほれ、おとなしく焼き栗食ってな!」


ドルチェは、手探りで炭酸水のグラスを押し出す。


「これに少し入れてくれ。」


「目が見えねェのに……酔っ払ったら危ねェ……」


言い掛けて、フィーネは口をつぐんだ。


――目が見えていたら?


きっと、ドルチェはちまちまと飲んで、

「貴様の目は美しい」を繰り返して笑っていただろう。

自分は、笑い上戸の可愛いご主人様(マイン・ヘア)を、

困った困ったと苦笑いしながら見ていただろう。


フィーネは唇を噛んで少しうつむいたが、

すぐにドルチェのグラスに数滴垂らしてやった。


「おい、4滴は少なすぎるだろう。」


「どんな耳だよ!」


もう少しだけ足そうと思ったが、うっかりトトトと注いでしまう。


「待て待て、入れ過ぎた……ああ!」


ドルチェは上品に、一気に飲み干す。

フィーネは口を開けたままその様子を見ていたが、

グラスを傾けるドルチェの上下する喉は、ムズムズするほど艶っぽい。


「ああ、美味い。搾りたての果汁のようだな。」


グラスを置いたドルチェは頬杖をついて、焼き栗を指先でつつく。


「大丈夫か?」


「貴様はかなり酒が強いようだな……羨ましいよ。」


ドルチェは微笑みながら、拗ねたように言う。


「まあ、悪魔だからな……」


「もっとくれ。」


「あと一杯だけにしとけよ?」


少し頬を赤らめて、気を緩めているドルチェの姿を横目で見ながら、

フィーネは炭酸水にシードルを足して、指に触れるようにして渡す。


「ああ、いい気持ちだ。」


ドルチェは、ファルファッレをつまんで口に入れながら、

グラスに口をつける。


フィーネはドルチェに見とれながら、ぼんやりと洋ナシをかじる。


(こういうのを幸せっていうのか……?

こういう……)


「フィーネ……フィーネ?」


フィーネはハッとして、「なんだ?」と返す。


「貴様は、暴漢どもにどこまで聞いたんだ?

――私のことを。」


フィーネは一気に、胸の温かさが消えて行く気がした。


「そろそろ聞かねばと……思うんだ……フフフ……」


「酔っ払って笑いながら聞くことか?」


「フフフ……笑って聞きたいんだ。」


ドルチェは手探りでブドウの房から粒を引っ張る。

フィーネは、黙って煙草に火を付けた。


「早く話してくれ……黙られると……不安なんだ。」


「笑って聞くんじゃねェのかよ!」


フィーネは、瓶に残ったシードルをドルチェのグラスに足し、

自分はまたアマーロの瓶を開ける。


「オメェは……例の団体が、数年前から、

今の首相を暗殺する計画を立てていることを掴んでいた。

――その団体と裏で手を組んで、その計画を手助けして、

首相を暗殺しようとしているって……」


フィーネはアマーロを口に流し込み、煙草を咥える。


「暴漢ども……つっても、俺の部下だけどな。アイツらは中央から指示を受けて、

オメェにその計画をバラさせようとした。

――クソみてェな拷問をしてな。」


「フフフ……」


「ここは笑うとこじゃねェだろ!」


ドルチェはグラスを手にしたまま、静かに微笑んだ。


「いや、笑うところさ。

――首相を暗殺しようとしていないのに、失明させられたんだから。」





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