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おかえり、ファルファッレ

落ち葉を踏みしめて、ゆっくりとドルチェが近付く。


「フィーネ……私の従者(マイン・ディーナー)」


手を伸ばしてフィーネの顔を探し、その顔に手が触れると顎をつまみ上げる。

フィーネの青い目は、陶酔したように煌めいて、ドルチェを見上げる。


「私は、貴様を壊す。遠慮はしない。」


「はい(Ja)、私のご主人様(マイン・ヘア)……」


即座に答えたフィーネのその声は、蕩けそうに甘い。

ドルチェも蕩けそうな思いで、片膝をつき、手探りでフィーネの耳元に口を寄せる。


「そして、大事にする――」


フィーネは甘い吐息を漏らす。

ドルチェはフィーネの頬に自分の頬をすり寄せ、

フィーネに、

自分に、

誓うように囁いた。


「――貴様に世界一の幸福を与えよう。」


フィーネはそれに応えるようにドルチェの頬に、柔らかくキスをする。


フィーネの唇を頬に感じながら、ドルチェの心が形作られていく。


——愛の言葉は告げられない。

——契約の縛りはほどけない。

——でも、フィーネは私に壊されることを望んでいる。


——全てをまとめて、幸せにするしかない。


二人は、誓いのキスのように、

そっと唇を触れ合わせる。


一度唇を離すと、二人は落ち葉の上に倒れ込んだ……

が、


「いてェ!」


フィーネの頭は、思いきり何か固いものにぶつかった。

手に取ると、それは、美しいガラスの瓶だった。


「なんだこりゃ?ガラスの瓶だ……」


「なんだと!」


ドルチェは手を泳がす。


「どんな瓶だ!?」


「金の飾りがあるガラスの……」


「まずい!貸せ!」


必死のドルチェに慌てて渡すと、


「漏れてるじゃないか!フタ、フタは……?」


「フタ?」


「中身を見てくれ!残ってるか?」


「おん?……いや、底にちょっとあるくらい……」


「なにィ?」


「うるせェなァ!なに騒いでんだ!?

せっかく……やっと……いいとこだったのに…」


「中止だ。」


「チュー……ハァ?

テメェの香水が漏れただけで?

気分屋かよ!」


「香水でも気分屋でもない!

無知な童貞が!」


「テメェが童貞卒業させねェんだろうが!!」


「これは潤滑油だ、童貞野郎!」


「ジュンカツユーだァ?

急に呪文唱えてんじゃねェ!」


「ああ!バカ野郎!!」


ドルチェは、頭を抱えて落ち葉の上に倒れ込み、

そのまま固まってしまった。


フィーネはやり場のない思いで、怒る気力も失せた。


(なんでだよ……

俺ら、通い合う破廉恥な合意っての……できたんじゃねェの?)


しばらく沈黙が流れ、

落ち葉と二人の上を、乾いた北風が撫でていく。


頭を抱えたまま、ドルチェが急に口を開く。


「書類の綴じ穴があるだろう。

あれに、貴様の拳をねじ込んだらどうなる?」


「綴じ穴が破れる……」


「そういうことだ。なお、綴じ穴は、貴様のケツを指すものとする。」


「いい加減に……え?綴じ……ケツ?」


「その潤滑油があれば、綴じ穴は——綴じ穴のままだ。」


「ケツは——ケツのまま……」


ドルチェは懸命に言葉を続ける。


「抱き締め合うときは……貴様には、何もかも忘れて、壊れてほしいんだ。

せっかく獲得した破廉恥な合意書なのに、綴じ穴が破れたら、台無しになる。」


「ケツが破れたら——台無し……」


ドルチェは小さくホッと吐息をつく。


「――すまなかった。

鍋と一緒にきちんと鞄に入れたつもりだった。」


目が見えないことを言い訳にしないドルチェに、

フィーネは鼻がツンとする。


「しかし、もったいなかったな……首都で買ったんだぞ。

公衆衛生法の規則案を作るときに、視察に行って色々と学んだ。」


「職権!!」


「学びは必要。職権の範囲内だ。

潤滑油は、帰り際に、職務に必要な振りをして大量に買った。」


「勤務時間!!」


「直帰だから、そのときから私的時間だ。

もう分かってくれたか?

——潤滑油はお前を幸せにする調味料だ。」


「もう黙れ!キザ白髪!!」


フィーネは、呆れるやら嬉しいやら、胸をいっぱいにして立ち上がると、

手を伸ばして、ドルチェを立ち上がらせる。


「分かったよ!

—―とりあえず、寒ィし、家ん中入るぞ。」


「ああ……ようやく帰って来れた……お前の家に……」


その言葉を聞いたフィーネは目を閉じて、唇を噛みしめた。

が、ドルチェの胸を拳でドスンと突く。


「ようやく鍋も帰って来た!」


「ハッハッハッ!

ようやく貴様とファルファッレが茹でられる。」


二人は扉を開けて、家に入る。


すぐに、白い家の小さな煙突から、

ファルファッレを茹でる柔らかい匂いが漂ってきた。



9月16日完結予定です。


このお話は序盤から糖分高めですが、後半に行くほど糖分・恋愛描写も濃くなり、身体的な関係も進展します。 よかったら、下のリアクション、評価をポチッとしてもらえると嬉しいです。


『十二支の鼠の少年王は猫を愛したい』も連載中です。

全133話、完結まで執筆済み。毎日更新予定。

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