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月の光



バンバンバン


バンバンバン


パッと目を覚まし、寝台から飛び降りて身構えたフィーネは、

次の瞬間に窓に飛びついた。


「ドルチェ!」


慌てて窓を開くと、ドルチェは長い片足を窓枠にかけ、

寝室に飛び入った。


「フィーネ!大丈夫か!?」


ドルチェはフィーネの両肩を掴んで、青い目を覗き込む。


「お、おん?大丈夫だぞ?」


ドルチェはフィーネを窓際まで引っ張り、月の光を浴びせる。


「――確かに……貴様の目は、

いつも通り、美しいな。」


「ハァ?」


しかし、ドルチェはぐらりとよろめくと、ドスンと尻もちをついた。


「おい、オメェこそ大丈夫なのかよ!

頭湧いてんのか?」


「湧いている。ああ……」


そのまま床にゴロリと横たわる。


「ドルチェ!」


フィーネは慌てふためいて、転がったドルチェをゆすぶる。


「おい、おい、どうした!

――アッ!酔っ払ってるのか!……酒飲めねェのに飲まされたのか?」


「飲んでいない。知ってるか?酒は机の下のバケツに入れるんだ。フフフ……ああ……」


転がったまま頭を抱える。


「良かった……もう、いなくなったかと思った……」


「なんで……あ、おい、また泣いてんじゃねェだろうな?」


「泣いてない。泣きそうになっているだけだ。」


「下戸の泣き虫か!どんなエリートだよ!!」


フィーネがドルチェの腕を開こうとしても、力を込めたドルチェの腕は開かない。


「固ェ!――なんでそんなに、俺の心配を……」


「レジェロ所長に連れて行かれたとき、目がおかしかった。

意識がないみたいな……」


「おん?そんなことか――ハッ、いつものことだぜ?

アイツらが命令するときは。」


「痛いのか?」


急にドルチェが上体を起こした。


「今、身体は大丈夫か……」


思わずフィーネは吹き出した。


「気にすんなって。」


フィーネは、手を伸ばしてドルチェの乱れた髪を少しつまんだが、

気づかれないように、そっと眉根を寄せた。


再会したときから、ドルチェは少し髪型が変わっている。

完全なオールバックだったのに、少し右側の髪を垂らしている――

それが、フィーネを守って暴行を受けたときの傷跡を隠すためであることに、

今気づいたのだ。


チラリと見ると、ドルチェの紫水晶の瞳が、

不安げにフィーネを見つめている。

存在しない心臓がドキリとした気がして、フィーネは思わずうつむいた。


「貴様が――中央政府から何かを命じられて動いていることは、知っている。

――何を命じられているんだ、フィーネ?」


「知って、どうする?

テメェの復讐に何か役に立つのか?」


「ボケ悪魔が!」


言葉の強さとは裏腹に、ドルチェは膝を抱えてうつむいた。


「何もわからないと、心配の仕方がわからんだろうが。」


フィーネは黙った。


(ドルチェは美しい――悪魔の俺を魅了するほど。

完璧な容姿を凌駕するコイツの美しい魂が――俺を惹きつけるんだ。)


しかし、


――君の存在を知ってるだけで、まあ、随分と知り過ぎているけどねえ?――


レジェロの皮肉な笑みが蘇る。

高官たちは、そして、それを支配する者は、

ドルチェを利用する一方で、害が出ればいつでも消すだろう。


(でも――――)


フィーネは口を開いた。


「二十三年前、お偉い奴が暗殺された。

犯人はすぐには捕まらなかったが、ある宗教団体が関わってるって分かった。」


ドルチェは顔を上げて、じっとフィーネを見る。

暗い部屋の中で、フィーネの青い目は静かに輝いている。


「その団体に密偵が送り込まれた。

それで分かったのは、お偉い奴らの大量暗殺計画。そのために、

――悪魔を召喚しようとしていること。」


ドルチェは息を飲んだ。

顔から一気に血の気が引いていくのが分かる。


「その翌年……悪魔を召喚する儀式の日に、

中央の奴らが乗り込んで、その悪魔への命令権を奪ったみたいだな。」


「その悪魔が、フィーネ……」


フィーネは、諦めたようにシャツをパサリと開き、左胸のタトゥーをドルチェに見せた。

ドルチェはにじり寄って、左胸にそっと手を置いた。


が、すぐに拳を握った。

そこに、何も鼓動を感じなかったから。


その代わり、ドルチェは腕一杯でフィーネを抱き締め、

その赤い髪に頬をすり付けた。


「お前はずっと、中央の者たちの命令を受けて、生きているのか?

辛く……ないの……か?」


ドルチェの腕の中で、フィーネはクスリと笑った。


「悪魔が辛いも辛くないもあるか。」


「ある――いや、実は、私も悪魔は、辛い辛くないの心臓は持ち合わせていないと……

思っていたんだ。」


「実際、心臓はないだろ……」


ドルチェはフィーネの赤い髪にすり付けた顔を横に振る。


「でも、貴様に会って、心があると分かったんだ。

そうでなければ――」


ドルチェは抱き締めた手をほどくと、フィーネの頬を両手で挟んで、目を覗き込んだ。


「こんなにも、目が美しいわけがない。」


暗い部屋に一条の月光が差し込み、ドルチェを背中から照らしている。


ドルチェはフィーネの目を見つめたまま言った。


「フィーネ、お前は幸せになっていいんだ。」



9月16日完結予定です。後半は恋愛描写も濃くなり、二人の身体的な関係も進展します。


『十二支の鼠の少年王は猫を愛したい』も連載中です。

全133話、完結まで執筆済み。毎日更新予定。

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