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ファルファッレの誘い

「ゼッテェ、俺らが作った鶏肉の方がうめェだろ。」


「間違いない。塩と砂糖の勝利だ。」


大通りに面したレストランでフィーネとドルチェが夕飯を食べている。

この目立つ二人に、店中どころか、通りからも視線が集まる。


「おい、オメェがそんな小洒落た服だから、やたらと指差されるじゃねェか。」


「私ではない。貴様だ。」


「おん?んなわけねェだろ。俺は普通の服で……」


「目が美しいから。」


その瞬間に、フィーネはむせて、目を白黒させている。

ドルチェは澄ました顔で品よく食事を続けている。


「このス……スケコマシが!」


心臓がないのに、顔を赤らめたり土気色にしたりする、

【終局の悪魔(エンデ・トイフェル)】フィーネ・ダ・カーポ。


真っ赤になったフィーネが、ぶつくさ言いながらサラダをつついている姿を、

ドルチェはこっそり見つめる。


そして、心の中でそっとため息をついた。


これ以上、

どこまで、

どうやって、

フィーネに近づいていいのか、

見当もつかない。


「おい、このリボンみてェなの、マカロニだぜ?

知ってたか?」


「貴様、知らないのか?」


フィーネは、驚くドルチェをチラリと見上げたが、

そのマカロニ――ファルファッレを二、三個フォークに突き刺して口に入れる。


「初めて食った。」


「今度、ファルファッレを茹でてみよう。

こっちに、貴様の鍋を持って来てるんだ。」


「そこは返せよ!」


「役所に鍋を持って来れないだろう。」


「いや、だからそこは……」


「分かった。明日、家政婦に手ごろな鍋を買って来させる。」


「だから、俺の鍋を……」


「なぁに、そのときに貴様の鍋は返すさ。」


「鍋はもういいって!!」


思わず大声を上げて立ち上がるフィーネを、ハッと見上げるドルチェ。

周囲からクスクスと笑い声がする。


フィーネはまた赤くなって、椅子に座り直した。


(なんで、俺のうちに来ねェんだ?)


フィーネはジロリとドルチェを見た。

ドルチェはまったく余裕の雰囲気で水を飲んでいる。


(前のときは、勝手に押しかけて茶まで飲んだじゃねェか。)


再会した日、定時で退庁し、飛んで帰って家を片付けた自分が哀れだ。

鍋を返すためでもなんでもいいから、うちに来れば……


「それは、つまり――鍋をくれるのか?」


とうとうフィーネが爆発する。


「このクソ鍋代行!」


「何だと、小役人が!貴様が鍋を返せと……」


「おい、旦那たち……」


太った店の親父が包丁と鍋を持って現れた。


「鍋の話は、外でやんな。」


***


外は暗く、石畳の道に北風が渦を巻く。


フィーネもドルチェも黙り込んで歩く。


ドルチェがアマデウス州庁の所長代行に就任して一週間――

書類の下に手紙を挟んで連絡をとって、

ようやく今、二人で会えたのだ。


話の糸口は見つからないが、

ドルチェは、さりげなく自分のアパルトマンの方角に足を向ける。

フィーネもついてくる……そっぽを向いたまま。


(ファルファッレを茹でようと誘ったのに、何が駄目だったのか。)


フィーネには遠回し過ぎたのか、

友人の枠を超えることを恐れているのか、

自分が想っているほど、フィーネは自分を想っていないのか。


「こっちに曲がると、あの遺跡だな。」


急にフィーネが声を出す。


「行こうぜ。」


「見回りか。職務熱心だな。」


ドルチェもついて行く。


ほどなくたどり着いた遺跡は薄暗く、既に複数の男女が濃密に絡み合っている。

片隅の石段に二人は腰かける。


「やはり夜はいかがわしいな。

これまで対処してないのはなぜだ?」


フィーネに顔を寄せて、ひそひそと尋ねるドルチェ。

フィーネもドルチェに顔を寄せて、小さな声で答える。


「まあ、公認じゃねェけど、公の秘密ってやつ。

ここを摘発すれば他にしわ寄せが行く。

だから、ちょっと対策しては放置……

そんな感じ。」


フィーネは「取締強化」などと書かれた看板を指差す。

が、ふと思い出したように、ドルチェの顔を見た。


「でも、オメェは、この遺跡の観光計画とかなんとか、やろうとしてんじゃねェの?」


「なぜ知っている?」


思わず普通のトーンになったドルチェは、慌てて口を閉じる。


「前、視察に来てただろ。俺が昼寝してたとき。」


「ああ、聞こえていたのか。よく覚えていたな。」


ドルチェは優しく笑いながらフィーネを覗き込んだ。

その仕草の美しさに、フィーネは目のやり場がない思いになる。


「いや、俺、ずっと、ここをうまく活用できねェかなって考えてて……」


「そうなのか。さすがだな。フィーネらしい。」


「なんでこの話が俺らしいんだ?」


「貴様が、この街をよく見ているということだ。」


隣り合った二人は、濃密な周囲の雰囲気の中、

観光計画についてヒソヒソ声で意見を交わし始めた。


仕事のことになると、するすると近づける。

――鍋は無力だ。






9月16日完結予定です。


このお話は序盤から糖分高めですが、後半に行くほど糖分・恋愛描写も濃くなり、身体的な関係も進展します。 よかったら、下の「リアクション」をポチッとしてもらえると嬉しいです。


『十二支の鼠の少年王は猫を愛したい』も連載中です。

全133話、完結まで執筆済み。毎日更新予定。

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