↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/51

またいつか、会いに来る

シュッ…

 シュッ……シュッシュッ……


とうとう汽車が動き出す。

二人はもう一度、唇を重ねようとしたが、掠ることもできないまま離れて行く。


窓枠に手をかけて身を乗り出すドルチェが遠ざかって行く。

フィーネは動けない。声も出ない。


ただ、強い日差しを受けて白く輝くドルチェを凝視する。


――またいつか、会いに来てもいいか?


あの言葉が、

結局、泡沫のように流れ去るとしても……


優しくて誠実な、美しい、紫の瞳を持つ、エリート白ネズミ、

オクタヴィア・ドルチェ、

――テメェは、


悪魔として人間の命に服し、

人間と関わり、

人間にうんざりしていた俺の、



俺の……唯一の光。



「さようなら……俺の光。」



涙は流れない。


ただ、もう影も見えない、汽車の去って行った日差しの向こうを、

フィーネはぼんやりと、

見つめているだけだった。


――――


――


***



「なんで兄弟なのに、できないんだよ!

俺とレオは双子だぞ?」


「双子も玉子も関係あるか!委任状を持ってこい!

ハイ、この用紙です!

――出直してきな!」


「地獄に落ちろ、赤メガネ!」


「血の池なんざ温泉だ。おい、レオのサインを忘れんな!」


役所に響くフィーネの声。


「フィーネ君は今日も元気だねぇ。

私の胃は縮むばかりだよ。」


ゆっくりと紅茶を飲みながらラルゴ課長が笑っている。


「フィーネさん、また美貌全開にしてくれないのかなぁ……」


「分かる。もう一度やってくれたら恋に落ちる準備できてる!」


皆ドッと笑い出す。


「おん?なんか俺のこと言ったか?」


窓口にいるフィーネが振り返ると、皆、楽しそうに首を縦に振るが、

フィーネは「ああ、そう。」とぼやいて、また前を向く。


あれから一か月。


フィーネの毎日は変わらない。

ドルチェが来る前の毎日と。


その変わらない毎日は、たった数日のドルチェとの日々を、痛いほど浮き立たせている。


いっそ童貞を卒業だと決意して娼館に向かおうとしたが、庭の草が目に入った瞬間にやめた。

首都に向かう汽車の切符を買ったこともあるが、それも革鞄に入ったままだ。


フィーネは革鞄の外ポケットを少し覗く。

切符がチラリと見える。


「ハァ……」


フィーネは深くて長いため息をついた。


これは何だ?

病気か?

病気だろ……


フィーネは「窓口休止中」の札を立てると、頭を抱えた。


(何が「鈍感災害」だ。

テメェの方がよっぽど災害だ。クソォ……)


すると、窓口で咳払いが聞こえ、カサリと紙が差し出される。


フィーネは顔も上げずにシッシと手を振った。


「別の窓口をご利用ください。あ、整理券は取れよ。」


「この窓口を利用したいのだが。」


その美しい声に一瞬固まったフィーネは、

期待が外れることを恐れるように、ゆっくりと顔を上げた。


そこには、瀟洒なコートと帽子を身に着けた背の高い男が立っていた。

フィーネは呼吸も忘れて、目を見開いた。


「ド……ド……」


「ド・レ・ミ・ファ・ソル・ラ・シ……」


その男は、優雅に受付に肘をついてフィーネを覗き込むと、ゆっくりと帽子を脱いだ。


「ドルチェ……」


次の瞬間、フィーネは椅子から飛び上がって叫んだ。


「ドルチェ!?」


驚いた人々の視線が集中する。

ドルチェは全く気にする様子もなく、フィーネに顔を寄せる。


「また、会いに来た。」


フィーネは、慌てて目を逸らす。


「会いに来たのが、早すぎたか?」


「遅ェよ!」


フィーネは、思わず転がり出た言葉に自分でも驚いたが、

ドルチェの方はと言えば、顔を赤らめてうつむいてしまった。


「すまなかった……」


フィーネが魚のように口をパクパクさせていると、

後ろで、課員に説明するラルゴ課長の声がした。


「明日から、アマデウス州庁の所長代行として、

ドルチェ様が就任されます。」


フィーネは口を開けたまま、完全に固まった。


「観光計画があるだろう?

その対応に必要だと説得して、何とか異動を勝ち取ったんだ。」


ドルチェはようやく、元の優美な微笑みを取り戻す。


「じゃあ、これから、ドルチェは……」


「ここにいる――次の異動期までは。」


「ば、馬鹿じゃねェの?」


「じゃあ、貴様も馬鹿か……友人だからな?」


「テメェ……」


睨みつけるフィーネの青い目を、ドルチェは貪るように見つめた。


「フィーネ、本当に……


貴様の目は、


美しい。」


9月16日完結予定です。


このお話は序盤から糖分高めですが、後半に行くほど糖分・恋愛描写も濃くなり、身体的な関係も進展します。 よかったら、下の「リアクション」をポチッとしてもらえると嬉しいです。


『十二支の鼠の少年王は猫を愛したい』も連載中です。

全133話、完結まで執筆済み。毎日更新予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。