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契約結婚した妻は最強の護衛騎士でした 〜背が高すぎて敬遠されていた令嬢は、ただ一人の隣で輝く〜  作者: 茉莉花


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第八話:知らぬまま、交わる過去

 そして彼女が襲われる事件が発生したのだ。


 解毒剤も効き、彼女は穏やかに眠っている。医師から命に別状はないと診断を受けているため彼女の側にいる必要はないのだが、目覚めた瞬間に立ち会いたい、立ち会うべきだと考え、夫として今こうして彼女の部屋で待機している。


(何者なんだ、リュシエンヌ……)


 ただの伯爵令嬢ではない。ただの引きこもりではない。それは理解した。




 数刻後、クラリスに声をかけられたことで、私はうたた寝をしていたことに気がついた。


「旦那様も一度お休みになられてはいかがでしょう?夜中の襲来以降お休みになっておりませんし、奥様の側には私がおりますので」

「いや、目覚めた時に側にいるべきだと考えている。そしてきちんと事情を伝えておくべきだとも」



 私たちの話し声に反応したのか、彼女が目を覚ました。


「あっ!奥様。お目覚めになったのですね。お加減はいかがですか?」


 寝ぼけ眼で周囲を見回した彼女は声の主であるクラリスを確認すると片手をあげ「大丈夫よ」と答えていた。


「私は医師を呼んでまいりますね」


 クラリスが退室していくのを見届けると、私はリュシエンヌに向き合った。



「リュシエンヌ、体調は大丈夫か?」


 私の姿を確認すると彼女はほっとひと息吐いた。


「公爵様、ご無事でしたか」


 私の存在に驚くよりも、安否に安堵してくれた様子に胸がざわついた。


 それにしても私をひと目見ただけでこの邸の主だと認めた。それもそうか。公爵夫人に砕けた口調で話しかけられる立場のものは一人しかいない。


「危険な目に合わせてしまってすまなかった」

「いえ、貴方がご無事ならばそれで良いのです。ただ、申し訳ございません。首謀者を探るためには生け捕りにしなければいけないところを、仕留めてしまいました」

「いや、首謀者に関しては心当たりがあるから問題ない。ただ、今回の狙いが私だったのか妻である君だったのかがわからない。こういう可能性があることを伝えておくべきだった。その点は申し訳なく思っている」


すると、彼女はきょとんとした顔をした。


「その可能性も考慮しての人選だと思ってましたのに、偶然でしたの?」


 彼女は襲われることを前提とした生活であることを理解していたというのか……。


「それは君の武術が達者であることか?」

「ええ。ただの引きこもりではなかったということです。」


「貴方もですよね?……ジェラール」


「っ!いつから?」


「これに関しては今ですわ。正確には倒れる前といったところでしょうか?ジェラールの声で私の名を呼ぶ声がしましたので。この邸で私の名前を呼び捨てで呼ぶことが出来るのは、夫の公爵様だけですから」


 じっと顔を見つめられる。彼女の瞳に吸い込まれそうだった。


「……髪と瞳の色を変えていらっしゃったのですね」


 とても冷静で的確な考察だった。


「この通り、命を狙われる機会が多くてね、ヴィルジール自体は極力引きこもらせて活動していたんだ」

「相変わらず命の危険と隣り合っているのですか……。本当に、ご無事で何よりです」


 私が襲われていることを当然知っているかのような口調に驚き彼女を見つめる。


「私は表では引きこもりでしたけれど……、この身長を生かし男装して活動しておりました」


 彼女はわずかに口角を上げた。


「王太子妃殿下の護衛騎士としてですわ」


 彼女はお分かりですか?と言わんばかりににっこりと微笑んだ。


「まさか……、あの時の騎士殿は君だということか!」


 私は、息を呑んだ。


 馬に乗り、前を行く彼女の背中に見覚えがあったのは、私を護ってくれた護衛騎士の姿に重なったからだった。


「ですので、貴方をお守りするためにも妻に選ばれたものかと思っておりましたが、偶然だったのですね」


 やはりただものではなかった。あの時の違和感は間違いではない。

 私は自分の身を自身で護れるだけでなく、護衛よりも護衛する術を持つ最強の妻を迎え入れていたのだ。


「はははっ。なんてことだ。ならば君との結婚の理由も正直に打ち明けよう」


「私は王命で婚姻を結ばされる前に、先に婚姻を結ぶことにしたんだ」


 彼女はこくりと頷く。


「君も知っての通り、命を狙われ続けている。私は身を隠していることが多い。だからこそ、外に出ない令嬢を選んだ」


 他にもいろいろ考慮し、彼女が候補となったことを告げた。


「君のことは肩書きだけで選んだようなものだった。まさか引きこもりにそんな裏があったとは思わなかった」

「肩書きだけといっても私は世間の評判がよろしくなかったでしょう?気にはならなかったのですか?」

「他人を虐げるような人間は引きこもったりなんかしないよ。それに君に直接会ったらば噂はあくまで噂だとも思えた」


 傲慢だと言われていたのは噂が誇張されたが為のもの。

 『上から目線で物を言う』や『人を見下す』というのは単純に背が高く上から見下ろしていただけのことで、豊富な知識と経験から的確に発言していたことが単純に相手の癪に触っていただけのことだった。


「ところで結婚の先はどのようなご予定だったのですか?引きこもり自衛しながら生活をお続けになる予定だったのですか?」

「いや、このままでいるつもりはない。実は──」



 今後の計画を彼女に示すと自分もその案に乗ると言ってくれた。何よりも私の安全を確保するために協力してくれるというのだ。彼女の協力により、私の計画は準備が整うこととなった。


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