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契約結婚した妻は最強の護衛騎士でした 〜背が高すぎて敬遠されていた令嬢は、ただ一人の隣で輝く〜  作者: 茉莉花


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第五話:彼女のことは知らぬまま

 目の前の光景に一瞬目を奪われた。


 真っ赤に染まった寝間着をまとった彼女を月明かりが照らし、彼女の銀髪は煌めいた。手には剣が握られ、まるで戦いの神マルス、いや女性であるからベローナのようであった。


 次の瞬間、ふらっと彼女の身体が揺れたかと思ったら崩れ落ちた。


「奥様!?奥様!!」


 クラリスは叫んで彼女に駆け寄る。私もほぼ同時に駆け出すと彼女の名を呼んだ。



「リュシエンヌ!」



 彼女の意識はもうない。彼女の横に屈むと目視でわかる範囲の情報を得る。


「この血はリュシエンヌの物か!?怪我をしているのか!?はやく医者を!」


 あとからやってきたマクシムがかしこまりましたと部屋をあとにした。


 残ったクラリスは冷静だった。


「旦那様!先程奥様は『毒』と仰っていた気がします!」

「毒!?剣か?傷口は?」


 彼女の身体に触れるのは憚られたが、毒であれば処置は速ければ速い方が良い。幸いここにいるのはクラリスだけだ。

 寝間着に手をかけると生地を割き、露になった彼女の身体に目を通す。

 しかし傷はなく、白く滑らかな肌があるのみだった。


「これは侵入者の返り血だったのか…」


 赤く染まった寝間着の血は彼女の物ではない。では肝心の傷はどこだろうかと彼女の顔を見ると、頬に一筋の刀傷を見つけた。


「これか?」


 この傷口だけで回るほどの毒ということはターゲットを一撃で殺す気であったことが窺える。猛毒で思い付く毒は一つしかなかった。


「クラリス、あの解毒薬が必要だと医師に伝えろ。それからすぐに呼べる女中を数人手配してくれ」

「かしこまりました」


 自分の着ていたものを脱ぎ彼女にかけ、手負いだったためにようやく追い付いた護衛騎士に侵入者の確認をしてもらうため入室を許可した。


「申し訳ありませんでした旦那様。易々と入室を許してしまうなんて……」

「今は謝罪はいらない。まずは侵入者の状態を確認してくれ。敵に意識はないと判断して彼女の救護を優先したが、どうだ?」

「はい、確かに。二人とも死亡が確認できます。……あの、これは旦那様がお仕留めに?」

「いや、私が来た時には終わっていた。おそらく、彼女がやったかと」


 私は彼女に目を配った。


「だとしたら相当な腕前です。どちらも急所を一発で仕留めています」


 そう言われ改めて見てみると、一人は短剣が眉間に、もう一人は心臓を一突きされ多量の出血がある。

 そもそもこの邸には専属の護衛騎士が存在している。夜間は外に見張りを立てていたが何者かに襲われ気絶し侵入を許したとのことだった。わりと間もなく意識を取り戻すと真っ先に私の安否を確認しに駆け込んで来たところで私は起こされ、次に狙われる可能性があるであろう妻リュシエンヌの元へと向かったところで何かが割れる音が聞こえてきたのだった。


(いったい彼女は何者なのだ……)


 護衛騎士が襲われ気絶させられるほどの実力者から身を守るだけでなく仕留めるなんて。

 私はとんでもないものを手に入れてしまったのかもしれないと、漸く気が付くことになるのだった。

 だがこの時の私はまだ知らない。

 彼女が何者なのか、そして、自分がどんな過ちを犯していたのか。



◇◇◇


 私はヴィルジール・アルナルディ。現在の国王の弟を父に持っていた。私はこの血筋故に常に暗殺から身を守らねばならなかった。


 母が暗殺されると、父は自身と私の身を護るため臣籍降下した。王族の品位維持という名目で一時支給金が与えられ、領地と爵位も与えられた。

 結局父も暗殺され、その後、私も何度も襲われかけたが、助けてくれたある人が教えてくれたのは、自分の身は自分で守れということだった。護られるだけでなくある程度自分でも護身しろと助言してくれたお陰で、私は生き延びるために身体を鍛え、術を学んだ。


 あの時の彼女の真っ直ぐな瞳が忘れられない。上質なドレスに身を包み、名も知らぬまま別れたあの令嬢は、私の心に住み続けている。今の自分があるのは全てこの令嬢のおかげだったから。


 襲われたあの日、御者は見知らぬ人物に入れ替わっていた。父が警戒していた意味も理解し、さらに気を引き締めた。使用人を把握するために最低限の人物のみに抑え、新たな雇用はしなかった。立場上ある程度の規模が必要だったが、管理できるギリギリの大きさに邸を構え直し、護身に重きを置いた生活を送った。

 そしてその一つがジェラールという人物になりきり生活することだった。



 事態が動き出したのは2ヶ月前、第三王女が結婚したのだ。王位継承第一位であるはずの王太子は国王となる資質を欠いていた。王家の後ろ楯の為に次々と王女を政略的に結婚させているが、不十分だった場合の矛先は王位継承第二位となる私に向けられると考えられた。


 王家の動きを察知し、このまま独身でいて王命により政略結婚をさせられ王家に利用されることを防ぐ為に、先に結婚をしてしまおうと考えた。

その相手に挙げたのがリュシエンヌ・ギルメット伯爵令嬢だ。傲慢だと良い噂はなかったが、社交界に出ず引きこもっていると条件としては最良だ。

 暗殺者に常に狙われる身だ。邸に籠ってくれていればそれだけでも彼女を危険に晒すことなく護ってあげられる。条件だけを見て彼女を妻として迎え入れた。



 彼女が公爵邸にやってきた日、馬車が到着し私はジェラールとして彼女を迎え入れることになった。

 私は頭を下げ、彼女が馬車から降りてくるのを確認すると、ゆっくりと顔を上げる。その交わった視線の先には凛と佇んだ麗しい彼女の姿があった。思わず息を呑み、言葉を失うこと数秒間。はっと意識を取り戻すと長旅の労を労った。


 彼女を応接室に案内し腰かけさせると所作の美しさにまた見惚れた。動きは全て洗練されていて、発言も噂されるほどの強烈な傲慢さは見当たらなかった。

 そんな彼女に公爵からとして例の手紙を渡すのは気がひけたが、大事なことだと目を通してもらった。

 彼女の顔がほんのわずかながら曇った気がしたが、あっさり了承されたことに拍子抜けした。

 彼女はもう結婚に夢をみるような年齢でもないのかもしれない。契約ともみれる結婚をあっさりと認めた。


 移動で足が浮腫んだと話す彼女の為にお茶を用意したが案内した部屋で彼女は既に休んでいた。しかし、クラリスは気になることを告げてきた。


「あの、旦那様?奥様は足なんか浮腫んでいらっしゃらないと思うのですが……」

「なぜそう思うのだ?」

「履き直した時、時間もかけず抵抗なく履き物をお召しになりましたので、浮腫が原因で脱いでいたわけではないのではと思ったのです」


 確かに、動きは全て洗練されていた。


「それに、本日お召しになっていた履き物は世間で主流の10センチのヒールで、持参された他の履き物はヒールの高さが4センチより小さい、もしくはヒールがないものでした。ヒールがあるものが好きではないというよりは、その……」

「立ち話が好きではないと言っていたし、背が高いことに抵抗があるということか?」

「はい」


 この国では足が長く美しく見えると10センチのヒールが主流となっている。輿入れ当日に着飾る物としては相応しいだろう。

 顔を上げた私と目が合った瞬間、ほんの少し驚きを見せていた様子から、ヒールを履いた彼女より背が高い人物は珍しかったのだろう。

 しかし、背が高いことを気にしていたとして、小さく見せようと猫背にはならず凛とした佇まいからは気品の高さが窺えた。



 寝ている彼女に近づくと彼女の目元に涙が輝いているのが見えた。


(泣いていたのか……)


 もし仮に、夫に女性として愛されることを期待していたのならば、あの手紙の内容は絶望でしかない。


(余計なことをしてしまっただろうか)


 しかし、彼女は名ばかりの妻だ。彼女のことを妻に迎えたからとすぐに信用するのは危険だ。それに、私には忘れられぬ人がいる。今の私に導いてくれた心の奥に焼き付いたままの彼女だ。他の誰かを愛することはないということは間違いないのだから。

 クラリスには彼女の心のケアをお願いした。


「あの、そもそもなぜ傲慢令嬢と噂されるリュシエンヌ様をお迎えになられたのですか?いくら条件が優良だからとはいえ、邸内の規律が乱れる可能性を考えたりはなかったのでしょうか?」


 暴言と暴力をふるう傲慢令嬢という噂のことを言っているのだろう。


「そもそも、暴言と暴力を振るうような人物は他人に対して攻撃的な訳だから、保身に走って引きこもるようなことはしない。引きこもる側である人間はどちらかといえば虐げられる側だろう。つまりは、引きこもり令嬢だと聞いている時点でその点に関しては心配していない」

「なるほど……」

「私は公爵として彼女の前に立つことはないだろう。彼女にしてみれば相当な屈辱だ。代わりにというわけではないが、君にはできるだけ先入観なく彼女のことを公爵夫人だと思って支えてくれると嬉しい」


 事情を知っているクラリスは頷いた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



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