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――天華國は元々、人ならぬ者、妖が住む国だった。


 彼らは不思議な能力を持っていた。

 空間操作や幻術、変化の術、発火能力などそれぞれが持つ能力を活かしながら平穏に暮らしてた。


 そんな中、ある日突然、どこからともなく人間が降り立ち、自らの国を作り出す。

 妖たちはこれまで平和に暮らしてきたため、妖力で戦うという概念が無かった。その為、弓矢や刀を持った人間に驚き、手も足も出ない。


 人間は妖を嫌った。

 彼らの持つ能力を気味悪がり、排除しようと立ち上がる。追い詰められ、行き場を失った妖は国中散り散りになり、老若男女人間の姿に化け、人に紛れてひっそり生きるようになったという。

 人の姿になったあやかしの能力は段々と衰え、いつしか人と変わらぬ存在になっていった。

 人と過ごし人と結ばれ、子を残す。こうして天華国は人の国として繁栄していった。

 不思議な力を操る人がいなくなれば、人々は天華国が妖の国だったことを忘れて平和に暮らしていた。


「――雪花のあの様子から、雪花の母親は妖の力を持っていた人だったのではないかと推測されます」


 開いた口が塞がらない。この国の本当の成り立ちなんて初耳だった。

 昔から勉学は嫌いでは無かったし,本は好きだった。だから、ありとあらゆる本を読んだ気でいたが、そんなことどこにも記載されていた記憶はない。


「雪花の母親は雪花が八つの時に殺された。その犯人こそが――主上なのです」


「……は」


 自分が思っているよりも低い声が出たと思う。身体に力が入り痙攣する。


「なぜかは分かりません。しかし主上は幼い頃から妖の力を持つ者を異様に嫌っていた印象があります」


 過去を思い出したのか、敦矢の眉間に皺がよっていく。


「私は雪の中、一人泣いていた幼い雪花を見つけ、それから私の養子にしたのです」


「そういうことか。だが、雪花の親を殺したであろう人のそばに彼女を置いておくのは心配なのでは?」


「主上は雪花があの時の娘だとはつゆとも思っておりませんから大丈夫です。それに、彼女をここに留め置くように望んだのは主上自身ですから」


「事情は分かった。では……」


「春陽さま」


「なんだ?」


 敦矢は姿勢を正すと深々と頭を下げた。


「私はあなたに国を担っていただきたい」


「……は」


「私情ではなく、国を見て守れる人が頂点に立つべきお方。今も何もしていない妖の力を持つ者たちは肩身の狭い思いで生きています。その方々を救って欲しい。誰もが安心して住める国にして欲しいのです」 


「……敦矢殿」 


「私は自分の力に戸惑う雪花をずっと見てきました。だが、養父として何もできなかった……! それがとても悔やまれます」


 兄の横暴な態度は知っていた。

 しかし、こんなにも裏で苦しんでいる人がいるとは想像もつかなかった。

 何も悪いことをしていない人が、苦しむのはおかしな話だ。

 ふと脳裏に雪花の顔が浮かぶ。


 彼女も含めて、助けたい――


 それならば自分がやることは――


 春陽の拳に力が込められ、目つきが変わる。


「ありがとうございます、春陽殿。私はいつでもあなた様の力になりますゆえ。それから――」


 敦矢が声を潜めて春陽に語ったのは、雪花の力に関することだった。


 ――雪花の持つ力の謎は北雪山(ほくせつさん)に住む雪の妖なら何か分かるかもしれない、ということ。


 本来、妖の力を引き継いだとしても薄くしか出ないはず。それなのに、雪花の持つ妖の力は強すぎるという。

 その謎を解くために敦矢も何度か訪れているらしいが、毎度門前払いをくらい真実に辿り着けないらしい。


「一度行ってみて下さいませ」




 春陽が兄から外出許可をもらい、雪花の生家があった北雪山へ向かえたのは。それから二日後のことだった。

 兄にも行き先を誤魔化し、公にはせず、ひっそりと。


 だが、この判断が後々後悔することになるとはこの時は全く思わないのだった。

 

 

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