■第99話 天空の守護神と、小さな相棒の秘密 上層階の最奥。
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僕たちがついにたどり着いたその場所には、ただの雲で出来ているはずなのに、神殿のような圧倒的で荘厳な雰囲気を放つ『巨大な扉』がそびえ立っていた。
「ここが、天空ダンジョンの最奥……」
「お兄さん、開けますよ……!」
二人で頷き合い、ゆっくりと重い雲の扉を押し開ける。
真っ白な通路を進んだ先、開けたドーム状の空間の中央で僕たちを待っていたのは、神々しい七色の炎を纏う、巨大で美しい鳥の幻獣だった。
「レインボー・フェニックス……天空ダンジョンの守護神か」
僕が息を呑むと、フェニックスは静かにこちらを見下ろし、頭の中に直接響くような荘厳な声で語りかけてきた。
『よくきたな。お前があの神の言っていた、“手違いの一般人”だな』
「っ……! あんた、あのポンコツ女神のこと知ってるのか!」
『ああ。だがまあ、一般人ならこんな所までは来られないはずだから、じゅうぶんに勇者の資格があるのだろうな』
フェニックスは静かに目を細めた。どうやら僕の理不尽なステータスと、この世界に来た経緯を全て把握しているらしい。
「それなら、このダンジョンの『攻略の証』を頂けるのですか?」
僕が尋ねると、フェニックスはゆっくりと首を横に振った。
『ここに居る、【カイザー・カブト】との戦闘で実力を見せるがいい。そこの娘も手伝ってよいぞ。倒さなくてもいい。ただ実力を見せろ。それを見て判断するとしよう』
フェニックスが翼を翻すと、空間の奥から地響きを立てて『それ』が現れた。
「……マジかよ」
現れたのは、全身を黒鋼のようなテカテカの重装甲で覆ったカブトムシの魔物――カイザー・カブトだ。
しかも、ただの虫ではない。後ろの二本の足で『二足歩行』で立ち上がっており、その背丈は人間の1.5倍、2メートルを優に超えている。格闘家のように鍛え抜かれた(?)異様なフォルムに、巨大な一本角。どう見てもヤバいオーラしか放っていない。
「渋々承諾するしかないか……! 魔法少女ちゃん、行くぞ!」
「はいっ! 全力でサポートします!」
僕が剣を構えた瞬間、カイザー・カブトの姿がブレた。
「速っ!?」
巨体に似合わぬ超音速の踏み込み。スピードも、そして大木のような腕から繰り出される拳のパワーも、これまで戦ってきたどの魔物とも次元が違っていた。
ガギィィィンッ!!
剣で受け止めた瞬間、腕の骨が折れるかと思うほどの衝撃が走る。
「くそっ、なんて重さだ! 魔法少女ちゃん、バフをお願いっ!!」
「『テイル・ウインド』!!」
魔法少女ちゃんのバフを受けて背中から風の推進力を得た僕は、カイザー・カブトの懐に潜り込み、渾身の力で『雲海の剣』を叩き込む。しかし、極厚の甲殻は火花を散らすだけで、決定打にはならない。
激しい剣と拳の衝突。怒涛の連撃を掻い潜り、魔法少女ちゃんの炎の壁で目眩しをしながら、僕は限界までバケモノ筋力を振り絞って攻防を繰り返した。
数分か、数十分か。
息も絶え絶えになりながら、僕が次の一撃を放とうとした――その時だった。
『――それまで』
フェニックスの静かな一言が響き渡り、カイザー・カブトはピタリと動きを止めて後退した。テストは終了したのだ。
「はぁ、はぁ、はぁっ……!」
「お、お兄さん……っ」
張り詰めていた糸が切れ、僕と魔法少女ちゃんはお互いに寄りかかり、支え合うようにしてその場にへたり込んだ。全身の筋肉が悲鳴を上げ、汗が滝のように流れ落ちる。
『見事だ』
フェニックスは満足げに頷き、ポンッと僕の目の前に黄金に輝くメダル――『攻略の証』を落とした。
見事に、天空ダンジョンを踏破したのだ。
小さな相棒の告白
喜びと疲労を噛み締めていると、フェニックスはふと視線を横に向け、静かに魔法少女ちゃんを見据えた。
『お前も、その若者に伝えることがあるのだろう』
その言葉に、魔法少女ちゃんは「はっ」とした表情になり、肩をビクッと震わせた。
彼女は数秒の間、俯いて激しく逡巡していたが、やがて何かを決意したようにギュッと両手を握りしめ、顔を上げて僕を見た。
「……お兄さん。ごめんなさい、ずっと……隠していたことがあります」
「隠していたこと?」
彼女は震える声で、ゆっくりと真実を話し始めた。
◆実は、自分は人間ではなく神界の住人であること。
◆母竜のブレスレットで遊んでいた時にうっかり下界に落としてしまい、それを探しに人間の女の子の姿に化けて降りてきていたこと。
◆中層の探索中、偶然見つけてポーチにしまっていたあの美しいブレスレット……あれこそが、彼女の探していた探し物だったこと。
「目的を達成したら、すぐに神界に戻らなきゃいけなかったんです。でも……」
彼女の目から、ポロポロと大粒の涙が溢れ落ちた。
「お兄さんと一緒に冒険するのが、すっごく楽しくて……! 優しくて、かっこよくて、守ってくれるお兄さんと、ずっと一緒にいたくて……どうしても戻りたくなくて、ブレスレットのことを隠してました……っ! 騙してて、ごめんなさい……っ!」
「魔法少女ちゃん……」
僕は静かに立ち上がり、泣きじゃくる彼女の頭を優しく撫でた。
「謝らなくていいよ。君が人間じゃなくても、神界の住人でも、君が僕の背中を守ってくれた最高の相棒だったことは、何一つ変わらないんだから」
僕の言葉に、彼女は「うわぁぁぁんっ」と声を上げて泣き、僕の胸に飛び込んできた。
しばらくの間、彼女の温もりと涙を受け止めながら、僕はただ静かに背中を撫で続けた。
やがて泣き止んだ彼女は、僕から一歩離れると、ポンッと淡い光に包まれた。
光が収まった後、そこにいたのは人間の女の子ではなく――手のひらサイズの、つぶらな瞳をした愛らしい『小竜』だった。
「きゅるっ」
小竜は僕のポーチから魔法のようにあのブレスレットを取り出し、小さな首にスッとかけた。
『お兄さん、本当に楽しかったです。わたし、絶対にお兄さんのこと忘れません!』
頭の中に直接、彼女の元気な声が響く。
目的を果たした彼女は、本来の居場所である神界へ帰らなければならない。これが、僕たちのパーティの終わりであり、別れの時だった。
「ああ。僕も絶対に忘れないよ。気をつけて帰るんだよ」
僕が優しく微笑みかけると、小竜は空へふわりと浮かび上がり、神界へと続く光の柱へと向かって羽ばたき始めた。
『さようなら、お兄さん! 大好きです!』
彼女は名残惜しそうに、何度も何度も振り返っては僕に向かって小さな手を振った。
その小さな背中が光の中に完全に溶けて消えてしまうまで――僕は最高の相棒との別れを、寂しさと、それ以上の感謝を込めた笑顔で見送るのだった。
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