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■第98話 動く島雲と、人懐っこい黒雀

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


上層階の探索を始めてから、さらに数日が経過した。


毎日、空が茜色に染まる夕方になれば街に戻って温かい食事とベッドでしっかり休息を取り、翌朝また空へ上がる。そんな規則正しい(そして極めて安全な)ペースで、僕たちのマッピング作業は着実に、かつスムーズに進んでいた。


「わぁ……お兄さん、あそこの雷雲、今日はピンク色に光ってますよ!」

「本当だ。遠くから見てる分には、最高のイルミネーションだな」


事前の情報通り、上層のあちこちに点在する『雷雲』は、危険なギミックでありながらも、その自然現象としては非常に美しかった。紫や金、時には桃色に発光する雲の内側で、バチバチと無数の稲光が走る様子は、まさに天空の絶景だ。


『飛竜の雲海鎧』のおかげで雷を完全に無効化できる僕たちにとっては、もはや脅威ではなく、マッピング中のちょっとした景観のアクセントになっていた。


そして、周囲の景色にそぐわないほど美しすぎる『幻雲』の罠も――。


「あっ。お兄さん、この島雲、抜けまーす!」

「おっと。はいよ、パラシュート展開!」


シュゥゥゥンッ。

足を踏み入れた瞬間に足場が霧散し、僕たちは遥か下の中層へと真っ逆さまに落ちていく。


「あはははっ! 風が気持ちいいですー!」

「よし、この辺で横の島に着地して、また光の階段から登り直すか!」


最初は冷や汗をかいた落下ギミックも、すっかり慣れてしまった今となっては、ただの「バンジージャンプ」や「フリーフォール」のような、ちょっとした楽しいアトラクション扱いになっていた。


たまに引っかかって落下しては、笑い合いながらまた元の階層へ戻る。そんなハプニングすら楽しめるほど、僕たちは上層階の探索に余裕を持てるようになっていたのだ。


そんなある日のこと。

マッピングを進めていた僕たちは、これまでの固定された島雲とは違う、少し変わったギミックを発見した。


「お兄さん、見てください! あの島雲……動いてますよ!」

「マジだ。あっちの大きな島と、こっちの島の間を、一定の速度で行ったり来たりしてるな」


ゲーマーとしての血が騒ぐ。アクションゲームにおける王道ギミック『移動床リフト』だ。


「面白そうだな。よし、乗ってみよう!」

「はいっ!」


僕たちがお姫様抱っこでタイミングよく飛び乗ると、その小さな移動島雲は、ゆっくりと空中を滑るように進み始めた。心地よい上層の風が頬を撫で、眼下には真っ白な雲海が果てしなく広がっている。


「うわぁ……遊覧船に乗ってるみたいで、すっごくいい景色です!」

「だね。ちょっと休憩がてら、座ってみよっか」


僕たちは移動する島雲の縁に腰を下ろし、宙に足をブラブラと投げ出しながら、おやつ代わりのクッキーをかじった。


向こうの島に着いてもすぐに降りず、「もう一往復乗ろうぜ」「賛成です!」と、まるで遊園地のアトラクションを楽しむ子供のように、行ったり来たりを繰り返して長居してしまった。

その時だった。


「チュンッ、チュチュンッ」

「……ん?」

「お兄さん、鳥さんです」


僕たちの乗る移動島雲に、一羽の小さな影が舞い降りた。

スズメだ。しかし、ただのスズメではない。上層階の魔力の影響を受けているのか、全身の羽が宝石のオニキスのように『黒光り』している、非常に珍しい魔物だった。


「黒光りするスズメの魔物……これも上層の固有種か」


僕が観察していると、その黒雀は全く逃げる素振りを見せず、トコトコと歩み寄ってきて、僕の膝の上にちょこんと乗った。


「チュン!」


そして、僕の手の甲にその小さな頭をスリスリと擦り付けてきたのだ。


「えっ……なにこいつ、めちゃくちゃ人懐っこいぞ」

「わぁっ! すっごく可愛いです! 目がクリクリしてますよ!」


魔法少女ちゃんがそっと指を差し出すと、黒雀は彼女の指にもすり寄って、嬉しそうに羽をパタパタと動かした。


(全身が黒光りするレアなスズメの魔物……。倒して解体すれば、間違いなく『漆黒の風切り羽』とか『幸運の黒魔石』みたいなレア素材がドロップするはず……!)

僕の脳内で、ゲーマーとしての効率厨な思考と物欲が激しく計算を始める。


だが――。


「チュン?」


小首を傾げて、純真無垢な丸い瞳で僕を見上げてくるその愛らしい姿を見た瞬間、僕の中の「解体用ナイフを取り出す手」は完全にストップしてしまった。


「……お兄さん。この子も、倒して解体……しますか?」

「…………いや、無理だ」


魔法少女ちゃんの少し心配そうな上目遣いと、膝の上でくつろぐ黒雀の温もり。


「さすがに、こんな無抵抗で可愛い小鳥を血まみれにして解体するほど、僕の血は黒くないよ」

「ふふっ、よかったです!」


僕のゲーマーとしての『業』は、圧倒的な『可愛さ』の前に完全敗北を喫した。

僕は苦笑いしながら、手元にあったクッキーを細かく砕き、手のひらに乗せて差し出した。


「ほら、お食べ」

「チュンチュン!」


黒雀は嬉しそうにクッキーの欠片を啄み、お腹いっぱいになったのか、僕と魔法少女ちゃんの周りを機嫌よく飛び回った後、美しい空の彼方へと飛び去っていった。


「あーあ、レア素材を取り逃がしちゃったな」

「でも、とっても癒されましたね!」


素材回収ドロップこそ逃したが、心はとても満たされていた。

やがて、空が深い紺色から、黄金色と茜色の混じった美しい夕暮れへと姿を変え始める。


「さて、移動島雲も満喫したし、今日はこの辺で街に帰ろうか。今日の夕飯は何にしようか?」

「わたし、ギルドの近くにあるお店のオムライスが食べたいです!」

「よし、決まりだ」


美しい景色、楽しいギミック、そして愛らしい生き物たち。

血生臭い戦闘ばかりではない、空の上の穏やかで豊かな世界を全身で楽しみながら、僕たちは夕焼け空に向かって帰還の跳躍を踏み切った。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、

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