↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/133

■第95話 雲海の演奏会と、美しき蜘蛛の群れ

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


上層階のさらに奥地へと進むにつれ、天空ダンジョンはその美しさを加速度的に増していった。


空の青は宇宙の深淵を覗き込むような深い紺色へと変わり、足元の島雲はまるで真珠の粉を撒いたかのようにキラキラとまたたいている。時折、淡い桃色や不気味な紫色の雷雲が遠くでバチバチと火花を散らしているが、僕たちの特注防具の敵ではない。

そんな中、僕たちはひときわ白く、波打つように穏やかな雲海が広がるエリアへとたどり着いた。


「わぁ……お兄さん、聴こえますか? なんだか、すっごく綺麗な音楽が……」


魔法少女ちゃんが足を止め、耳をすませて声を弾ませた。


確かに、どこか遠くからハープやチェロを奏でているかのような、繊細で美しい音色が風に乗って響いてきている。静かに雲海の端からのぞき込むと、そこには信じられない光景が広がっていた。


「……バッタと、コオロギ、か?」


そこにいたのは、信じられないほどスリムで、まるでエメラルドのガラス細工のように透き通った美しいバッタの魔物たちだった。


(バッタの英語ってなんだっけ……あ、そうだ、グラスホッパーだ。じゃああいつらは『スリム・グラスホッパー』だな)

スリム・グラスホッパーたちは、僕たちの接近にも気づかない様子で、優雅にサクサクと足元の島雲を食んでいる。


そしてその傍らでは、丸々と太った、だけど黒ではなく翡翠ひすいのような上品な光沢を持つコオロギの魔物――『ファット・コオロギ』たちが、はねを美しく震わせて、先ほどの幻想的な音楽を奏でていたのだ。


「すっごく綺麗……おとぎ話の世界みたいですね、お兄さん」

「……いや、油断するな。魔法少女ちゃん」


僕は『雲海の剣』の柄に手をかけ、ゴクリと唾を呑み込んだ。

見た目こそ極上の癒やし空間だが、僕のゲーマーとしての直感と、肌をチクチクと刺す濃厚な魔力感知が警鐘を鳴らしている。こいつら、見た目はこんなに綺麗なのに、ステータス的にはこれまでの虫系魔物を遥かに凌駕する『超凶悪な魔物』だ。もし一斉に怒らせて襲われたら、あのワイバーン戦以上の大惨事になるのが目に見えている。


しかし、今は幸いにもあちらから襲ってくる気配はなく、極めて温厚に食事と演奏を楽しんでいるようだ。


「襲ってこないならスルーするのが安全なんだろうけど……」

「お兄さん? もしかして、また……」

「うん。あのスリムなバッタの脚とか、コオロギの綺麗な音を出す翅とか……一体どんなレア素材が剥ぎ取れるのか、興味が強すぎて素通りできない」


僕の悪い癖(物欲)がまたしても首をもたげていた。とはいえ、群れ全体を敵に回すのは自殺行為だ。


「魔法少女ちゃん、気づかれないように、ほんの一部だけ、群れの端っこのやつらをサクッと狩るぞ。足音を消すバフをくれ」

「も、もう、お兄さんは本当に素材マニアなんですから……! 『サイレント・ステップ(消音の足場)』!」


彼女が呆れながらも完璧な補助魔法をかけてくれる。

足音が完全に消えた状態で、僕は群れの最外周にいたスリム・グラスホッパー1匹と、ファット・コオロギ1匹の背後に一瞬で肉薄した。


「せいやっ!」


シュバッ!!

相手が気づく間もなく、バケモノ級の筋力で一閃。二匹の魔物は、周囲の仲間に悲鳴を聞かれることもなく、一瞬で物言わぬむくろとなって雲の上に転がった。


「よし、他の連中にはバレてないな。急いで解体だ」


僕はその場にしゃがみ込み、素早くナイフを動かした。


ブチッ、メチャァッ。

スリム・グラスホッパーからは、驚異的な跳躍力を秘めていそうな、透き通る緑色の『美麗な跳躍脚』を。ファット・コオロギからは、あの美しい音色を奏でていた特殊な構造の『発音翅はつおんし』を丁寧に切り出し、胸の奥から上層の綺麗な魔石をえぐり出す。


「よし、回収完了! 深追いは禁物だ、さっさとここを離れよう」

「はいっ! 『ウォッシュ』!」


魔法少女ちゃんの手慣れた洗浄魔法で血を洗い流してもらい、僕たちは演奏会を続ける凶悪な虫たちの雲海を、何事もなかったかのように静かに通り過ぎた。


「ふぅ、緊張した。でもいい素材が手に入ったな」

「バッタの脚もコオロギの羽も、楽器や新しい防具の材料にすっごく高く売れそうですね!」


袋にしまった戦利品を思い浮かべながら、次の島雲へと跳躍した、その直後だった。

前方の島雲が、何やら七色にギラギラと怪しく輝いているのが見えた。


「お兄さん、あれって……前にお兄さんが無理やり狩った、レインボー・スパイダーじゃないですか?」

「おお、本当だ! あいつの糸は最高級品だからな、またお宝発見か――」


言いながら島に近づいた僕たちは、同時に言葉を失い、その場にカチコチに凍りついた。


「…………っ」

「う、うげぇぇ……っ……!?」


そこにあったのは、前話で見たような「神秘的で温厚な蜘蛛が1匹で健気に糸を編んでいる」という美しい光景ではなかった。


広大な島雲の全域に、何重にも重なり合った巨大な七色の蜘蛛の巣がびっしりと張り巡らされ、その上で、大人の体ほどもあるレインボー・スパイダーが、何十匹、何百匹と、ワサワサ、カシャカシャと音を立てて蠢いている『地獄のような群れ(コロニー)』だったのだ。


1匹だけなら、七色の宝石のようで綺麗だと思えた。

だが、それが文字通り視界を埋め尽くすほどの規格外の物量で群れをなし、無数の足や蠢く顎をカチカチと鳴らしている光景は――どれだけ七色にキラキラと輝いていようとも、ただの『最高に気持ち悪いバグ画面』でしかなかった。


「お、お兄さん……。あの蜘蛛、糸も甲殻も、すっごくレア素材、ですよね……?」


魔法少女ちゃんが、完全に顔を引きつらせ、今にも泣きそうな目で僕の服の裾をギュッと引っ張る。


「……いや、無理だ。いくらゲーマーの僕でも、あの精神的ブラクラ(精神的テロ)みたいな数の蜘蛛の群れの中に突っ込む勇気はねえ……!」

「で、ですよね……! 気持ち悪すぎます……!」


物欲よりも生理的嫌悪感が完全に勝利した瞬間だった。あの中に突っ込んで1匹ずつ解体するなんて想像しただけで鳥肌が立つ。


「……見なかったことにしよう」

「はい……無言で、全力でスルーしましょう……」


僕たちは足音を立てないように、細心の注意を払いながらその島雲を大きく迂回した。


綺麗なだけではなく、時に生々しく、時に凄まじく不気味な姿を見せる上層階の豊かな(豊かすぎる)生態系に、僕たちは色んな意味で冷や汗を流しながら、さらなる奥地へとマッピングを進めていくのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、

下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆(解体作業)のモチベーションが爆上がりします!


ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。