■第94話 虹の橋と、上層の豊かな生態系
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上層階の探索を進める僕たちの前に、思いもよらない美しい光景が広がっていた。
「わぁ……お兄さん、見てください! 島と島との間に、虹がかかってます!」
「本当だ。しかも、あの上を歩けそうだな」
次の島雲へ向かってジャンプしようとしていた僕たちの目に飛び込んできたのは、七色に輝く美しい『虹の橋』だった。
恐る恐る足を踏み入れてみると、ふわふわとした雲とは違う、トランポリンのようなしっかりとした弾力がある。綺麗で幻想的なだけでなく、お姫様抱っこでの跳躍力を温存できる非常に実用的な橋だ。
「これ、自然にできたものじゃないな。……あっ、あそこで誰かが編んでるぞ」
僕が指差した先――虹の橋のたもとでは、キラキラと七色に光る体を持った巨大な蜘蛛『レインボー・スパイダー』が、お尻から光る糸を出して器用に橋を架けていた。
「すごいですね……魔物が橋を作ってくれてるなんて。大人しそうですし、そっとしておきましょうか」
「……うん。そうだな」
僕は一度頷いたものの、その場から一歩も動かず、じっとレインボー・スパイダーを見つめ続けた。
「…………」
「……あの、お兄さん? どうしたんですか?」
「いや……あいつ、襲ってこない温厚な魔物みたいだからスルーしようと思ったんだけどさ……」
僕のゲーマーとしての『業』が、頭の中で激しく囁きかけていたのだ。
「あんな七色に光る特殊な個体……一体『どんな素材』をドロップするんだろうって、興味が抑えきれなくて」
「お、お兄さん、目が完全にバケモノを見る時の顔(悪い顔)になってますよ……!?」
好奇心(物欲)には勝てなかった。
数分後。僕たちは「ごめんな……でも君の素材がどうしても気になるんだ……!」と呟きながら、全く襲ってこなかった温厚なレインボー・スパイダーを容赦なく討伐し、解体作業を行っていた。
ブチッ、メチャァッ。
「お兄さん、この蜘蛛の糸、虹色に光っててすっごく綺麗です!」
「甲殻も七色に輝いてるし、間違いなくレア素材だ。裁縫道具や装飾品にすれば高く売れそうだな」
魔法少女ちゃんの『ウォッシュ』で手を洗いながら、僕はホクホク顔で虹色の素材と魔石をポーチにしまい込んだ。
そのまま虹の橋を渡って次の島へ向かっていると、今度は前方からカシャカシャと無数の足音が聞こえてきた。
「お兄さん、前からです!」
「蟻の魔物……って、あいつらも派手だな!」
現れたのは、全身がキラキラとしたラメ色に輝く巨大な蟻の群れ『ラメ・アント』だった。先ほどの蜘蛛とは違い、こちらは非常に好戦的で、僕たちの姿を確認するやいなや、大顎をカチカチと鳴らして一斉に襲いかかってきた。
「魔法少女ちゃん、数が多い! 広範囲の牽制を頼む!」
「はいっ! ええいっ、『フレイム・ウォール(炎の壁)』!!」
彼女が新しい『飛竜の羽衣ローブ』の恩恵を受けた強力な魔法を振るうと、虹の橋の上に熱風を伴う炎の壁が出現し、ラメ・アントの群れの足を完全に止めた。
「ナイスだ! そぉいっ!!」
僕は炎の壁を飛び越えて群れの中央に着地し、バフの乗った『雲海の剣』で大回転斬りを放つ。強靭なラメ色の甲殻ごと蟻たちを次々と両断し、あっという間に群れを殲滅した。
「よし、解体だ! この甲殻、ラメが入ってて無駄に綺麗だな。硬さもあるし、防具のいいコーティング材になりそうだ」
「わたし、魔石を拾い集めておきますね!」
すっかり解体と素材回収の手順に慣れた魔法少女ちゃんが、手際よく僕のサポートをしてくれる。上層階は中層よりも魔物の種類が多く、ドロップする素材のバリエーションも豊かで、探索していて全く飽きることがない。
さらに探索を進め、少し大きめの島雲にたどり着いた時のことだ。
「ギャリリリリッ!!」
「今度はデカいトンボか! 前のより強そうだぞ!」
空から急降下してきたのは、竜のように強靭な顎と硬い鱗を持った『ドラゴン・フライ』だった。
僕が剣を構え、迎撃の体勢に入ろうとした――まさにその瞬間。
シュバァァァンッ!!!
「えっ!?」
空気を引き裂くような甲高い風切り音と共に、黒い一筋の『線』が上空から弾丸のように突き刺さった。
その黒い線は、僕たちが戦うはずだったドラゴン・フライの巨体を一瞬で貫き、そのまま鋭い嘴で食いちぎって上空へと飛び去ってしまったのだ。
「な、なんだ今の!? 速すぎて見えなかったぞ!?」
「お兄さん、上です! 旋回して戻ってきます!」
上空で弧を描き、再びこちらに狙いを定めて急降下してきたのは、流線型の黒い羽を持った巨大なツバメの魔物『ハイ・スワロー』だった。
先ほどのドラゴン・フライを獲物として横取りし、ついでに僕たちも「エサ」として認識したらしい。
「キィィィィィンッ!!」
「速いっ!?」
ガギィィンッ!
咄嗟に剣を盾にして防いだが、戦闘機のような信じられないスピードでの体当たりを受け、僕は大きく後ずさった。
中層のストーム・イーグルが止まって見えるほどの超高速の飛翔。空を縦横無尽に飛び回り、ヒット&アウェイで鋭い羽を刃のようにして切り裂いてくる。
「くそっ、動きが速すぎて剣が当たらない……!」
「お兄さん、わたしが足止めします! 『ウィンド・カッター』!!」
魔法少女ちゃんが放った無数の風の刃が、ハイ・スワローの軌道を塞ぐように展開される。しかし、ツバメの魔物はその隙間を縫うようにアクロバットな飛行で全てを躱してみせた。
(遠距離攻撃なら一発なんだが……ダメだ、あれは『仲間のピンチに本能でしか出ない技』ってことになってる。魔法少女ちゃんの前で意図的に放つわけにはいかない!)
彼女の自信を守るための言い訳を破るわけにはいかない。ならば、二人の連携でどうにかするしかない。
「魔法少女ちゃん、あいつの周囲に『フレイム・ウォール(炎の壁)』を連続で張って、軌道を一箇所に絞り込んでくれ!」
「っ! わかりました! ええいっ!!」
彼女が杖を大きく振るうと、空中のあちこちに巨大な炎の壁がランダムに出現した。
超高速で飛翔するハイ・スワローだったが、行く手を次々と炎で塞がれ、次第にその飛翔ルートを制限されていく。
「そこだッ! 魔法少女ちゃん、僕の背中に最大のバフを!」
「はいっ、全魔力解放……『テイル・ウインドォォォッ』!!」
炎の壁を避けるためにハイ・スワローが減速し、軌道が直線になったその一瞬の隙。
凄まじい追い風が僕の背中を押し出し、僕は『飛竜の雲海鎧』の脚力を限界まで引き出して、猛烈なスピードで宙を蹴った。
「捕まえたぞ、はぁぁぁぁぁっ!!」
ツバメの超音速の飛翔に、僕のバケモノじみた跳躍スピードが完全に追いついた。
すれ違いざま、僕は『雲海の剣』を両手でしっかりと握りしめ、物理的な質量と膂力のみを乗せたフルスイングで、ハイ・スワローの胴体を真っ二つに両断した。
ズバァァァァァァンッ!!!
「や、やりましたっ! お兄さん、すごいです!」
「ふぅ、はぁ……っ。君の炎の誘導と、最後のバフのおかげだよ。完璧な連携だった」
僕は荒い息を整えながら着地し、ドスンと落ちてきたハイ・スワローの死体の前で、さっそく解体用ナイフを取り出した。
ブチッ、メチャァッ。
硬い筋肉を裂いて、驚異的なスピードを生み出していた流線型の『漆黒の風切り羽』と、鋭利な『風の嘴』を切り出す。胸の奥からは、今までの魔石よりも一段と強い魔力を放つ、深い青色のレア魔石が現れた。
「高速飛翔の羽に、風の嘴……。これはまた、とんでもないレア素材を手に入れたな」
「それにしても、魔物同士で獲物を横取りするなんて……天空ダンジョンにも、ちゃんと生態系があるんですね」
「ああ。綺麗なだけじゃなく、弱肉強食の厳しい世界ってことだな」
『ウォッシュ』で手を洗い流しながら、僕は上層の美しい空を見上げた。
虹を架ける蜘蛛、群れで動くラメ色の蟻、そして互いを捕食し合う竜のトンボと超音速のツバメ。
「ここはただのダンジョンじゃなくて、色んな生き物が暮らす一つの『世界』なんだな」
「はい……! なんだか、本当に冒険してる! って感じがして、ドキドキします!」
上層階の豊かな生態系と、そこから得られる未知の素材の数々。
遠距離攻撃の秘密を無事に守り抜き、相棒との連携の精度をさらに高めた僕たちは、袋一杯の戦利品と共に、天空ダンジョンのさらなる高みを目指して進んでいくのだった。
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