■第93話 飛竜の武具と、美しき上層階の罠
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数日後。僕たちは冒険の支度を整えると、逸る気持ちを抑えきれずにドワーフ(?)のおじさんの工房へと駆け込んだ。
「おっちゃん! 装備、できてる!?」
「おう、待ちわびたぜ! こっちへ来な!」
おじさんは自信満々の笑みを浮かべ、工房の奥から二つの真新しい装備を引っ張り出してきた。
「まずは兄ちゃんの鎧だ。名付けて『飛竜の雲海鎧』!」
ドンッ、と置かれたのは、純白の雲海素材をベースにしながらも、胸当てや肩、籠手などの急所部分に、あの青緑色の強靭なワイバーンの鱗が隙間なく、かつ美しく編み込まれた極上の鎧だった。
「すげえ……! めちゃくちゃカッコいいじゃないか!」
「見た目だけじゃねえぞ。ワイバーンの鱗は魔法と属性を弾く性質がある。これで上層の『雷雲』から落雷を食らっても、ダメージも麻痺も完全にシャットアウトできる。最強の絶縁装甲だ」
次に、おじさんは魔法少女ちゃんに向かって、虹色に微かに透き通る美しいローブを差し出した。
「そして嬢ちゃんのローブだ。ワイバーンの巨大な翼の被膜を、特殊な製法で雲海の糸と一緒に織り込んだ『飛竜の羽衣ローブ』だ!」
「わぁっ……! すっごく綺麗です……!」
「被膜の風を操る力が備わってるから、上層の暴風でも絶対に姿勢を崩されねえ。おまけに魔力の保持力も段違いだ。バフの魔法も、今までよりずっと強力に撃てるはずだぜ」
僕たちはさっそく試着室に入り、真新しい飛竜の装備に身を包んだ。
バケモノじみたステータスに、中層のイレギュラー素材を使った特注装備。まさに、RPGの最終章に挑むにふさわしい出立ちだ。
「ありがとう、おっちゃん! これで上層階も絶対にクリアしてみせるよ!」
「おう! 頂上まで行ってこい!」
中層の最終地点から『光の階段』を登りきった僕たちは、ついに天空ダンジョンの最奥、『上層階』へと足を踏み入れた。
「……すごい」
「お兄さん、ここ……すっごく綺麗です……!」
階段を登りきった僕たちの目の前に広がっていたのは、思わず息を呑むほどの絶景だった。
視界の果てまで続く青空は、宇宙に近いせいか少しだけ深い紺色を帯びており、そこに浮かぶ雲々は真珠のように白く輝いている。空の随所には淡いオーロラのような光の帯が揺らめき、まるで神様の庭園のような神々しさと静寂に包まれていた。
「天空ダンジョンの最奥……奥地に行けば行くほど、景色が美しくなるって本当だったんだな」
しかし、ここは最高難易度のダンジョンだ。美しい風景に見とれてばかりはいられない。
景色を見渡すと、抜けるような青空の中に、不自然なほど鮮やかな紫色や金色に輝く『雷雲』が点在しているのが見えた。内部でバチバチと稲光が走り、近づく者を無差別に狙い撃ちにする厄介なギミックだ。
「魔法少女ちゃん、あの色の違う雲が雷雲だ。近づかないように気をつけて進もう。……よし、まずはあの綺麗に輝いてる島へジャンプだ!」
「はいっ!」
僕は彼女をお姫様抱っこし、前方に見える『ひときわ七色にキラキラと輝く、最高に美しい島雲』に向かって力強く跳躍した。
タァァァンッ!!
「よし、着地――」
僕の両足がその美しい島雲に触れた、まさにその瞬間だった。
シュゥゥゥン……ッ。
「……え?」
「きゃああっ!?」
なんと、僕たちが着地したはずの島雲が、足に触れた瞬間に幻のように霧散して消え去ってしまったのだ。
「うおわあああああっ!?」
足場を失った僕たちは、そのまま遥か下の中層階へ向かって真っ逆さまに落下していく。
「お兄さん、落ちてます、落ちてますぅっ!」
「妖精の落下傘!!」
ボフゥゥンッ!
間一髪でパラシュートを展開し、落下速度を落とす。僕は空中で体勢を立て直し、すぐ近くにあった別の(普通の白い)島雲に向かって、空中で無理やり体を捻ってしがみついた。
「はぁ、はぁ……っ。び、びっくりした……」
「今のが、ギルドの人が言っていた『幻雲』ですね……!」
僕は額の冷や汗を拭った。
周囲の景色にそぐわないほどの『美しさ』を持つ島雲。それこそが、冒険者を奈落へ落とす『幻雲』の正体だったのだ。最初の頃はこんなわかりやすい罠に引っかかるなんて思っていなかったが、あまりにも風景が綺麗すぎたせいで、警戒心が薄れてしまっていた。
「よし、学んだぞ。不自然に綺麗すぎる島には要注意だ。怪しい時は、お姉さんから買った『雲固めのスプレー』を使おう」
気を取り直した僕たちは、再び上層階のマッピングを開始した。
上層階の島々を渡り歩いていると、やがて周囲の雲が渦を巻き、この階層特有の魔物たちが姿を現した。
シュバッ!
「お兄さん、上から何か来ます!」
「虫の魔物か!」
雷雲の底から、鋭い粘着性の糸を垂らして急降下してきたのは、巨大な空飛ぶ蜘蛛『スカイ・スパイダー』だ。さらに、周囲の空域からは、美しい羽から麻痺の鱗粉を撒き散らす『スカイ・バタフライ』と、戦闘機のようなスピードで突進してくる巨大なトンボの魔物『ドラゴン・フライ』が同時に襲いかかってきた。
「キシャアアアッ!」
「鬱陶しい連中だ! 魔法少女ちゃん、バフお願い!」
「はいっ! 『テイル・ウインド』!!」
新しいローブのおかげで、彼女のバフ魔法は以前よりも遥かに強力な突風となって僕の背中を押した。
「そぉいっ!!」
僕は加速し、空中で襲いかかってくるドラゴン・フライの突進を『雲海の剣』で真正面から両断する。
ビキィィィンッ!!
その直後、上空の雷雲から放たれた強力な落雷が僕を直撃した。
「お兄さんっ!?」
「大丈夫だ、全然痛くない!」
『飛竜の雲海鎧』の絶縁効果は完璧だった。雷の直撃を受けても、ワイバーンの鱗がバチバチと放電してダメージを完全に殺してくれる。
「麻痺鱗粉も効かないぞ! はぁっ!!」
僕はそのままスカイ・バタフライを斬り伏せ、最後に空中にぶら下がっていたスカイ・スパイダーの糸を掴んで強引に引き寄せ、一刀両断に切り捨てた。
ズバァァァンッ!!
「ふぅ……全部片付いたな」
「お疲れ様です、お兄さん! 新しい装備、すごいですね!」
魔物たちがドスンドスンと実体を持ったまま雲の上に落ちるのを見届け、僕はいつものように『解体用ナイフ』をポーチから取り出した。
「さて、さっさと解体しなきゃな。虫の魔物はちょっと気持ち悪いかもしれないけど、魔法少女ちゃん、これも大切な素材だ。しっかり見てて」
「はいっ! わたし、もう解体には慣れましたから!」
彼女は少しも顔を青ざめさせることなく、しっかりと杖を握って頷いた。飛竜の解体という凄惨な現場を乗り越えた彼女にとって、虫の魔物の解体などもう日常の風景なのだ。
ブチッ、メチャァッ。
僕はスカイ・スパイダーから丈夫な『蜘蛛の糸』と『毒腺』を摘出し、スカイ・バタフライの『美しい翅』を切り取り、ドラゴン・フライから『飛行器官』をナイフで手際よく切り出していく。
もちろん、魔物たちの体内から極上の『上層の魔石』をえぐり出すことも忘れない。
「よし、解体完了だ。虫の素材は薬の材料や新しい魔道具に高く売れそうだな」
「はいっ! お兄さん、手が汚れちゃったと思うので……『ウォッシュ(洗浄)』!」
魔法少女ちゃんが杖を振り、生活魔法の小さな水球を出して僕の血にまみれた手とナイフを綺麗に洗い流してくれた。
「おお、ありがとう! こういうサポート、すごく助かるよ」
「えへへ、これくらいお安い御用です!」
解体を終え、戦利品を麻袋に詰め込んだ僕たちは、幻雲の罠と強力な雷雲に警戒しながら、天空ダンジョン最奥の美しくも過酷な空の旅を、確かな足取りで進んでいくのだった。
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