■第92話 中層の踏破と、最強装備への『ドヤ顔』
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飛竜の討伐と、生々しい解体作業から数日。
僕たちは再びお姫様抱っこのスタイルで、中層階の残りのエリアのマッピングを地道に進めていた。
「お兄さん、あそこ! 風詠みのゴーグルの反応、あそこが最後の島です!」
「よし、これで終わりだ! そぉいっ!」
ドスゥンッ! と力強く最後の浮島に着地する。
湧いてきた中層のストーム・イーグルを、魔法少女ちゃんの『テイル・ウインド』のバフを受けて危なげなく一刀両断した。魔物が光の粒子となって消え去り、静寂が戻った浮島の端からは、さらに上空――少し黒みを帯び、時折ピカッと稲光が走る分厚い雲の層へと続く『光の階段』が伸びていた。
「やった……。ついに中層のマッピング、全部埋まったね」
「はいっ! 中層階、完全クリアです!」
僕たちはハイタッチを交わし、達成感に包まれながら上空の不気味な雲海を見上げた。
これで中層階はおしまいだ。いよいよ天空ダンジョンの最難関、『上層階』への挑戦が始まる。
「上層に行くなら、またしっかりと準備と情報収集をしないとね。よし、今日は早めに切り上げて街に戻ろう」
翌日。僕たちは上層階へ挑むための準備日と決め、朝一番で冒険者ギルドへと向かった。
「おはようございます。中層のマッピングが終わったので、明日から上層階に挑戦しようと思うんですが……上層って、どんなところですか?」
僕がカウンターで尋ねると、顔馴染みになった受付の職員さんは少しだけ表情を引き締め、身を乗り出してきた。
「ついに上層ですね……。上層階の環境は、中層の乱気流よりもさらに過酷になります。最大の脅威は『雷雲』と『幻雲』です」
「雷と、幻、ですか」
「はい。上層は常に雷雲が立ち込めており、ランダムに強力な落雷が発生します。直撃すれば大ダメージと麻痺は免れません。さらに、足場となる浮島の中には、乗った途端に霧散して消えてしまう『幻雲』が混ざっています。一歩間違えれば、雷に打たれて真っ逆さま、という非常に危険なエリアです」
落雷による麻痺と、消える足場。
いよいよダンジョンの終盤らしい、殺意の極めて高いギミックのお出ましだ。
「なるほど、分かりました。しっかり対策アイテムを揃えて挑みます」
「お二人ならきっと大丈夫だと信じています。気をつけてくださいね」
僕たちが職員さんにお礼を言ってギルドを出ようとした、その時だった。
「――おい! バベルのバケモノと、小さな魔法使いの嬢ちゃん!」
背後から声がかかり振り返ると、酒場スペースにいた冒険者たちが、ジョッキを片手に一斉に立ち上がっていた。
数週間前、僕の隣にいる魔法少女ちゃんを「足手まといだ」と笑っていた連中だ。
「明日から上層に行くんだってな? お前らなら、あの厄介な雷雲でも絶対に頂上まで行けるぜ!」
「嬢ちゃん! 最初はすぐへばってたのに、今じゃすっかり頼もしい相棒じゃないか! 兄ちゃんの背中、しっかり守ってやれよ!」
「生きて帰ってきたら、俺たちが一番高い酒を奢ってやるからな! 頑張れよ、デコボコパーティ!」
次々と飛んでくる、荒っぽくも温かく、そして熱い激励の言葉。
魔法少女ちゃんは少し驚いたように目を丸くした後、顔をパァッと輝かせて、深々と頭を下げた。
「はいっ! わたし、お兄さんのサポート、一生懸命頑張ります!」
「ははは、期待しててくれよ!」
冒険者たちの歓声と拍手に見送られながら、僕たちは胸を張ってギルドを後にした。
次に向かったのは、西区の路地裏にある『黒猫の宝箱・天空支店』だ。
「いらっしゃいにゃあ。あら、今日は何をお探し?」
「明日から上層に行くから、雷対策と、足場対策の魔道具が欲しいんだ」
僕が事情を説明すると、黒猫のお姉さんは「なるほどね」と頷き、カウンターの下から二つのアイテムを取り出した。
「上層の雷なら、この『避雷のペンダント』が必須ね。一定までの雷のダメージと麻痺を吸収して逃してくれるわ。それと、消える幻雲対策には、この『雲固めのスプレー』よ。怪しいと思った足場に吹きかければ、一時的に足場がカチカチに硬化して落ちなくなるわ」
「さすがはお姉さん、痒いところに手が届く! もちろん全部もらうよ」
飛竜の魔石を渡したお得意様ということもあり、少しおまけしてもらいながら必須アイテムを調達した。
続いて、情報収集のために『怠惰な寺院』へ。
「神官ちゃーん、明日から上層に行くんだけど、何か知ってる?」
相変わらず巨大クッションに埋もれていた神官ちゃんは、心底嫌そうな顔で耳を塞ぐ仕草をした。
「上層ぅ……? あそこは最悪だよぉ……。雷がゴロゴロ、ピカピカうるさくて、全然安眠できないもん……。雷の魔物に撃たれると、体がビリビリ痺れて動けなくなっちゃうから……どうしても動きたくない時の言い訳には使えるかもしれないけどぉ……痛いのは嫌だなぁ……」
「相変わらず怠惰な視点での情報提供ありがとう。痺れ対策のポーションも必要ってことだな」
僕たちは適当に状態異常回復のポーションを補充し、最後に――一番の目的である、装備の確認のためにドワーフ(?)のおじさんの工房へと足を運んだ。
「おう! 雲の騎士の兄ちゃんと嬢ちゃんじゃねえか。上層に行くって? どれ、ちょっと装備を見せてみろ」
おじさんは僕たちの『雲海』シリーズの装備を隅々までチェックし、少しだけ眉間に皺を寄せて腕を組んだ。
「うーん……傷一つねえし、雲海の素材は雷を通しにくい絶縁体になってるから、このままでも行けなくはねえ。だが……上層の雷と暴風は桁違いだからな。ちと心許ねえな」
「何か、いい強化の方法はないの?」
僕が尋ねると、おじさんは「はぁ」と大きなため息をつき、肩をすくめた。
「そりゃああるさ。例えば、中層の奥地に稀に現れるっていう『天空の飛竜』の素材……あの青緑色の分厚い鱗や、強靭な翼の被膜でもありゃあ、雷耐性も風耐性も桁違いに跳ね上がって、上層の雷雲でも絶対無敵の最強装備に化けるんだがな。……まあ、あんな災害レベルのバケモノの素材、そう簡単に手に入るわけがねえ」
おじさんが呆れたように言い捨てた、その直後だった。
僕は口角を吊り上げ、会心の『ドヤ顔』を作りながら、腰のアイテムポーチの奥深くに手を突っ込んだ。
「――ああ、それなら持ってるよ」
ドンッ!!!
僕がカウンターの上に無造作に叩きつけたのは、あの時、血まみれになって解体し、誰にも見せずに隠し持っていた『青緑色の強靭な鱗』と『巨大な翼の被膜』の山だった。
「…………なっ!?」
おじさんの目玉が、文字通り限界まで見開かれ、顎が外れそうなほど口が開いた。
隣にいた魔法少女ちゃんも、「えっ!? お兄さん、あの飛竜の素材!? てっきりあの後すぐ全部換金したのかと思ってました……! まさか、この時のために取っておいたんですか!?」と、信じられないものを見るような目で僕を見上げている。
「な、なんだってええええっ!? マジの飛竜の素材じゃねえか!! しかもこんな極上の状態で!? お前ら、まさかあのイレギュラーを狩ったのか!?」
「まあね。たまたま遭遇しちゃってさ」
僕が最高に気持ちのいいカタルシスを味わいながら言い放つと、おじさんはブルブルと震える手で鱗を撫で回し、職人としての顔つきをギラリと豹変させた。
「……やってやる。俺の職人魂に懸けて、この極上素材で、明日までに最高の装備に仕立て上げてやるぜ!!」
「よろしく頼むよ、おっちゃん」
最高のロマン(お約束)展開を経て、僕たちの装備の大幅アップデートが確定した。
万全の準備と、仲間たちからの熱いエール。そして最強の防具。
期待と少しの緊張を胸に抱きながら、僕たちは宿のレストランで豪華な決起集会の夕食を取り、明日から始まる天空ダンジョン『上層階』での新たな冒険に向けて、ゆっくりと英気を養うのだった。
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