■第90話 名物デコボコパーティと、中層奥地への不安とロマン
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「そぉいっ!」
「はいっ、『テイル・ウインド』!!」
ドワァァァッ! と背中から吹き付ける強力な追い風のバフを受け、僕は弾丸のように宙を飛び、ストーム・イーグルの群れの中心へと突っ込んだ。
「はぁっ!」
『雲海の剣』による三日月状の軌跡が、怪鳥たちの風の鎧を次々と切り裂いていく。
あのミミックの入っていた宝箱を見つけてから数日。僕は「また宝箱でも落ちてないかな」と下を向きがちで探索していたが、残念ながらあれ以来、アイテムボックスはおろかミミックに遭遇することも一度もなかった。
その代わり、中層の強敵である『ストーム・イーグル』の群れには、これでもかというほど何度も遭遇した。
しかし、お姫様抱っこからの跳躍と、魔法少女ちゃんの絶妙なバフというコンビネーションが完全に板についた僕たちにとって、空の暴れん坊の群れも、もはやただの「美味しい経験値と魔石の塊」でしかなかった。
「お兄さん、また高級そうな魔石がいっぱいです!」
「よしよし、回収しよう。今日も大漁だね」
夕暮れ時。
ずっしりと重くなった麻袋を担いで冒険者ギルドへ帰還すると、酒場スペースの空気は以前とは全く違ったものになっていた。
「おっ、帰ってきたな! バベルのバケモノと、小さな魔法使いのコンビ!」
「今日もストーム・イーグルの魔石を山ほど持ってきたのか!? 相変わらずとんでもねえペースだな!」
「お嬢ちゃんも、立派にサポートしてるじゃないか! お疲れさん!」
ギルドの冒険者たちが、ジョッキを掲げて笑顔で声をかけてくる。
少し前まで「足手まとい」と陰口を叩かれていた魔法少女ちゃんだったが、今ではすっかり僕の隣で堂々と胸を張って歩けるようになっていた。毎日、中堅パーティでも苦労するような数の高級魔石をコンスタントに回収してくる僕たちは、天空のギルドでもすっかり『名物デコボコパーティ』として認知され、皆から笑顔で接してもらえるようになっていたのだ。
「えへへ……皆さん、ありがとうございます!」
魔法少女ちゃんが嬉しそうにペコリとお辞儀をするのを見守りながら、僕はカウンターで換金を済ませた。
「あ、そうだ。受付のお姉さん、魔法少女ちゃんのレベルも確認してもらっていいですか? ストーム・イーグルを今日もたくさん倒したし、上がってるかもしれないから」
「はい、かしこまりました。こちらの測定板へどうぞ」
魔法少女ちゃんが金属板に小さな手を乗せると、淡い光が文字を形作っていく。
【レベル:7】
【筋力:19】
【魔力:29】
【体力:17】
【敏捷:22】
「わぁっ! お兄さん、レベル7です! また1つ上がりました!」
「おおっ、やったね! 魔力も順調に伸びてるし、体力が上がってきたのが一番ありがたいな」
バケモノ数値の僕と比べれば微々たるものだが、彼女の確かな成長を二人で喜び合いながら、僕たちはギルドを後にした。
その後はお決まりのルートだ。
まずは西区の路地裏にある『黒猫の宝箱・天空支店』へ。
「にゃっふふ〜! 今日も極上の魔石がこんなに! お兄さんたち、最高よ!」
「お姉さん、顔が緩みっぱなしですよ。これでまた新しい魔道具の研究が進みますね」
黒猫のお姉さんは、僕たちが持ってきた大量の魔石を前にして、黒い尻尾をブンブンと振り回して大喜びだった。
そして次は、『怠惰な寺院』へ。
「神官ちゃーん、寄進しにきたよー」
「……あー、いらっしゃいぃ……。今日もいっぱい持ってきたねぇ……だるいけどぉ、女神様は喜んでるよぉ……むにゃ」
巨大クッションに埋もれた神官ちゃんは、相変わらず溶けたスライムのようにダルそうにしていたが、僕が賽銭箱にジャラジャラと魔石を流し込むと、ほんの少しだけ口角を上げて嬉しそうに『フライ』や『怠惰の魔力傘』のポーションを補充してくれた。
美味しいステーキでお祝いの夕食を食べ、高級宿の部屋に戻って、含有率100パーセントの雲ベッドにダイブする。
「ふぁぁ……お兄さん、今日もいっぱい歩きましたね」
「そうだね。マッピングも順調に進んで、いよいよ中層も奥地に入ってきた感じがするよ」
天井を見上げながら、僕はニヤリと笑みを浮かべた。
順調なマッピングの進行。それはつまり、黒猫のお姉さんが教えてくれた『イレギュラーなレア魔物』の生息エリアに近づいているということだ。
「(どんなバケモノが出てくるのか……そして、どれだけ綺麗な魔石をドロップするのか!)」
ダンジョンを攻略する冒険者として、これほどワクワクするシチュエーションはない。
「よし、明日からはいよいよ例のレア魔物に会えるかもしれないな! 気合入れていこう!」
僕がウキウキとした声でそう言うと、隣のベッドにいた魔法少女ちゃんは、布団をギュッと握りしめて少しだけ顔を曇らせた。
「……あの、お兄さん」
「ん? どうしたの?」
「その……お姉さんが言ってたレア魔物って、本来なら中層にいるはずのない、すっごく強い魔物なんですよね……?」
彼女の声には、確かな不安と恐怖が滲んでいた。
無理もない。僕はステータスのゴリ押しとゲーマー特有の「隠しボスへのロマン」でテンションが上がっているが、駆け出しの彼女からすれば「自分の実力を遥かに超えたバケモノに自ら近づいていく」のだ。怖いと思うのが当たり前だ。
「わ、わたし……少し怖いです。もし、お兄さんが大怪我しちゃったらどうしようって……」
「魔法少女ちゃん……」
僕の背中を守る役割を与えられたからこそ、彼女は僕の怪我を自分のこと以上に恐れてくれているのだ。
僕は自分のベッドから身を乗り出し、不安そうに身を縮めている彼女の頭をポンポンと優しく撫でた。
「大丈夫だよ。もし本当にヤバいと思ったら、魔石なんか諦めて、僕が君を抱き抱えて全力で逃げるから」
「……本当に、逃げてくれますか?」
「当たり前だろ? 僕たちの命の方が、綺麗な石ころよりずっと大事だ。それに、今の僕たちのコンビネーションなら、どんな魔物相手でもきっと上手く立ち回れるさ」
僕が自信満々に笑いかけると、魔法少女ちゃんはホッとしたように表情を和らげ、コクリと力強く頷いた。
「はいっ……! わたし、怖がってなんかいられませんね。お兄さんの背中は、わたしがしっかりバフで守ります!」
「うん。よろしく頼むよ」
未知の強敵に対する彼女の不安を共有し、お互いの信頼を確かめ合った夜。
僕たちは極上の無重力空間に身を委ねながら、いよいよ目前に迫ってきた中層奥地のロマンと脅威に胸を躍らせ、深い眠りへと落ちていくのだった。
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