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■第89話 初めての宝箱と、奇妙なブレスレット

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


(……やっぱり、隠し事なんて持つもんじゃないな)

あの後、僕は内心で深く反省していた。

とっさに放ってしまった『飛ぶ斬撃』の誤魔化し。なんとか乗り切ったとはいえ、あんな心臓に悪い思いをするくらいなら、最初から変な秘密なんて作らなければよかったのだ。


嘘や隠し事は、いつか必ず綻びを生む。

そう確信した僕は、「これからはもう、魔法少女ちゃんに変な隠し事はしないでおこう」と心に誓いながら、中層階の浮雲の島を歩いていた。


「お兄さん、風が少し強くなってきましたよ」

「うん、気をつけて進――おわっ!?」


ドテッ!!

前を向いて歩いていた僕は、足元の雲の中に隠れていた『硬い何か』に見事に躓き、盛大に転んでしまった。


「お、お兄さん!? 大丈夫ですか!?」

「い、いてて……。なんだよ、雲の中に石でも混ざってたのか……?」


起き上がって足元を振り返り、躓いた原因である雲の盛り上がりを手で払いのけてみる。

するとそこから姿を現したのは、石ではなく、古びた金属の装飾が施された『木箱』だった。


「これって……アイテムボックス!? いや、宝箱か!?」

「わぁっ! 本当ですね! 迷宮の宝箱です!」


僕は思わず目を輝かせた。

最初の街の草原から始まり、迷宮都市バベルの地下、そして海溝の迷宮と、これまで数え切れないほどの魔物を狩ってきたが、実は『宝箱』というものをダンジョンで発見したのはこれが初めてだったのだ。


「すげえ! ファンタジーのお約束(宝箱)って本当にあったんだな! 中に何が入ってるんだろう。伝説の武器か、それとも金塊か……」


僕はワクワクしながら宝箱の前にしゃがみ込み、留め金に手をかけた。


「気をつけてくださいね、お兄さん。トラップが仕掛けられてるかもしれませんから」

「分かってるよ。……いくぞ」


ゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る、ゆっくりと宝箱の蓋を押し開ける。


パカッ。


「……えっ?」


箱の中には、眩い金銀財宝……ではなく。

鋭い牙を剥き出しにした、四角い箱型の魔物『ミミック』が、ギチギチと音を立てて身を潜めていた。


「ギガァァァッ!!」

「うわあああっ!? 中身ごと魔物かよ!!」


宝箱から勢いよく飛び出してきた魔物が、僕の顔面めがけて噛み付いてくる。


「そぉいっ!」


ガキンッ! ズバァァァンッ!

僕は反射的に『雲海の剣』を抜き放ち、飛びかかってきたミミックを空中で真っ二つに両断した。


「はぁ、はぁ……っ。びっくりした……。初めての宝箱がハズレ(魔物)だなんて、運が悪いな」

「お、お怪我がなくてよかったです……。宝箱に擬態してる魔物もいるんですね」


光の粒子となって消えていくミミックを見送りながら、僕はガックリと肩を落とした。

しかし、魔物が完全に消滅した後、パカッと開いたままの宝箱の底に、コロンと『何か』が残されているのに気がついた。


「ん? 待てよ、空っぽじゃないぞ」


手を伸ばして拾い上げてみると、それは鈍い銀色に光る、意匠の凝らされた『不思議なブレスレット』だった。

魔力のような微かな光を帯びており、ただの装飾品ではないことがわかる。


「おおっ! ハズレかと思ったら、ちゃんとドロップアイテムがあった! 魔法少女ちゃん、見てよこれ!」


僕が嬉々として振り返り、彼女にブレスレットを見せた、その瞬間だった。


「――ッ」


ブレスレットを見た魔法少女ちゃんの顔から、スッと血の気が引き、一瞬にして真っ青になったように見えた。

いつもは杖を両手でギュッと握っている彼女の手が、微かに震えている。


「えっ……? 魔法少女ちゃん、どうかした? 顔色が……」


僕が心配になって声をかけると、彼女はハッとして数回瞬きをし、パタパタと両手を振った。


「え!? あ、いえ、なんでもないです! 宝箱から急に魔物が出てきたから、ちょっとびっくりしちゃって……えへへ」


彼女はいつもの太陽のような笑顔を作って、コトリと首を傾げた。


「……そうか。僕もびっくりしたよ」


見間違いだったのだろうか。

彼女の笑顔は普段と変わらないように見えたし、確かにあの不意打ちは心臓に悪かった。僕も気を取り直して、手元のブレスレットを彼女に向かって差し出した。


「これ、魔法少女ちゃんが装備しなよ。僕の鎧はガチガチでこういう装飾品は着けられないし、こういう魔道具って、魔法使いの魔力とかを上げる効果があるのが定番だからさ」


パーティメンバーの強化は、今後の攻略のためにも重要だ。

しかし、彼女は一歩だけ後ろに下がり、困ったように眉を下げて首を横に振った。


「ありがとうございます、お兄さん。でも……私、『ブレスレットはしない主義』なので」

「……え? 主義?」


思わず聞き返してしまった。


「魔法の邪魔になるから」とか「サイズが合わないから」といった理由ではなく、「主義ポリシー」という随分とハッキリとした、そして少し不自然な断り方だった。


「……そうなんだ。じゃあ、仕方ないね。僕のアイテムポーチに入れておくよ」


彼女がそこまで言うなら、無理強いするわけにはいかない。

僕はブレスレットをポーチの奥深くにしまい込み、再び『雲海の剣』を構え直した。


「よし、気を取り直してマッピングの続きだ! 今日もガンガン進むよ!」

「はいっ! お兄さん!」


いつも通り元気よく返事をして、僕の後をついてくる小さな相棒。

しかし、僕の胸の奥には、彼女の一瞬の青ざめた表情と、「ブレスレットはしない主義」という言葉が、小さな引っ掛かり(違和感)として残っていた。


(……考えすぎかな)

首を振り、僕は再び天空の乱気流へと立ち向かうべく、次の浮島へ向かって跳躍するのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、

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