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■第84話 乱気流の脅威と、ポジティブな迷子

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


翌日。黒猫のお姉さんの魔道具と新しい『雲海』シリーズの装備で身を固めた僕たちは、いよいよ天空ダンジョンの「中層階」へと足を踏み入れた。


「すごい……! 下の階層よりも、島と島の間がずっと離れてますね……!」


見上げるような青空の中に浮かぶ浮雲の島々は、低層階とは比べ物にならないほど高低差があり、足場同士の距離も遠かった。

おまけに、ギルドの職員さんが言っていた通り、目に見えない強い風が吹き荒れている。


「魔法少女ちゃん、『風詠みのゴーグル』を着けて。風の切れ目を狙って飛ぶよ」

「はいっ!」


僕たちがゴーグルを装着すると、視界に青や緑の淡い光の帯が浮かび上がり、乱気流の軌道が手に取るように分かるようになった。


「今だ、ジャンプ!」


風が凪いだタイミングを見計らい、僕たちは次の浮島へと跳躍した。

着地と同時に、足元の雲が激しく渦を巻き、中層特有の魔物たちが姿を現す。低層階の魔物よりも一回り大きく、風を纏った『ストーム・シープ』や、鋭い風の刃を飛ばしてくる『エアロ・ホーク』だ。


「いきますっ! 『ファイアボルト』!」


魔法少女ちゃんが『空風の杖』を振りかぶる。新しい杖の魔力増幅効果のおかげで、彼女の放つ火の玉は低層階の頃よりも明らかに大きく、スピードも速くなっていた。


ポンッ!

火の玉がエアロ・ホークの翼にクリーンヒットし、体勢を大きく崩させる。


「ナイス! そぉいっ!」


僕がすかさず踏み込み、『雲海の剣』を一閃する。

風の壁ごと魔物を両断し、瞬時に光の粒子へと変えて魔石を回収する。


「やりました! 新しい杖、すっごく使いやすいです!」

「いい連携だ。この調子でガンガン進もう!」


僕たちの役割分担は完璧だった。

強力な乱気流もゴーグルで読み切り、魔物が出現しても魔法少女ちゃんの的確な牽制と僕の近接攻撃で危なげなく討伐していく。中層階の過酷な環境にもしっかり適応し、僕たちは順調に島から島へと渡り歩いていった。


しかし――天空の迷宮が牙を剥くのは、常に「順調だ」と油断したその一瞬だった。


「お兄さん、次の島、少し遠いですね。……あ、風が止まりました! いまです!」


魔法少女ちゃんがゴーグルの情報を頼りに踏み切り、次の浮島へ向かってふわりと跳躍した、その直後だった。

ゴーグルの視界にも映らなかった、下から突き上げるような局地的な『突発乱気流マイクロバースト』が、彼女の小さな体を真下から強烈に打ち上げたのだ。


「えっ……きゃあああぁぁぁっ!?」

「魔法少女ちゃん!!」


風に煽られた彼女は、本来の着地地点である浮島を大きく飛び越え、そのまま足場のない大空の彼方へと吹き飛ばされてしまった。


「妖精の落下傘を開け!」と叫ぼうとしたが、突然の強風にパニックになった彼女は空中で錐揉み回転し、アイテムを取り出す余裕すらない。


「クソッ!」


僕は躊躇することなく、彼女が吹き飛ばされた方向に向かって、浮島の縁を全力で蹴り飛ばした。

バケモノ級の筋力と『雲海の鎧』の跳躍補正を限界まで引き出した、文字通りの大跳躍。


空中で猛烈な風の抵抗を受けながらも、僕は一直線に彼女の小さな背中へと手を伸ばす。


「届いてくれ……っ!」


指先が彼女のローブをかすめ、そのままグッと力強く腕を回して、彼女の体を抱き寄せた。


「お、お兄さん……っ!?」

「大丈夫だ、捕まえた!!」


空中で彼女をしっかりと抱き抱えた僕は、すぐさま腰のポーチから『妖精の落下傘パラシュート』を引き抜き、魔力を込めて展開した。


ボフゥゥゥンッ!!

頭上に巨大な光のパラシュートが開き、僕たちの猛烈な落下速度がグンッと引き上げられる。同時に『雲海の鎧』の衝撃吸収効果も働き、僕たちはフワフワと風に流されながら、見知らぬ巨大な浮雲の島へとドスンと不時着した。


「はぁ、はぁ……っ。怪我はないか、魔法少女ちゃん!」


僕が腕の中で震える彼女の顔を覗き込むと、彼女は涙目で僕の胸にギュッとすがりついてきた。


「こ、怖かったですぅ……っ! もうダメかと思いました……!」

「ごめん、僕がもっと早く風の変化に気づくべきだった。でも、もう大丈夫だよ」


彼女の背中をポンポンと叩いて落ち着かせながら、僕は立ち上がって周囲を見渡した。


「……で、ここはどこだ?」


僕たちが不時着したのは、予定していたルートから大きく外れた、広大で鬱蒼とした雲の森のような浮島だった。

見上げても、さっきまで僕たちがいた浮島群はずっと上の空の彼方に霞んで見え、周囲の景色には全く見覚えがない。


「お兄さん……どうしよう、完全に迷子になっちゃいました……」


涙を拭いながら不安そうに見上げてくる彼女。

普通なら絶望するような状況だろう。しかし、僕はダンジョンゲーマーとしての特有の思考回路をフル回転させていた。


「いや、大丈夫だ。全く問題ない」

「えっ? 問題ないんですか?」


僕がニヤリと笑って言い切ると、彼女はきょとんとして首を傾げた。


「ここは天空の立体ダンジョンだ。ってことは、今僕たちがいる場所から下へ下へと降りていけば、いずれは『中層階の入り口(最下階)』に辿り着くはずだろ?」

「あ……はい。確かに、そうですね」

「だったら、そこからもう一度、島を一つ残らずマッピングし直しながら登ってくればいいだけさ。むしろ、取りこぼしがなくなって好都合だよ!」

「マ、マッピング……?」


僕のあまりにポジティブ(かつ面倒くさいゲーマー気質)な発想に、魔法少女ちゃんは目を丸くした後、「ふふっ」と吹き出してしまった。


「あはは……! お兄さん、本当にマイペースですね。あんなに怖かったのに、なんだか安心しちゃいました」

「だろ? だから泣く必要なんてない。さあ、気を取り直して、二人で下まで降りよう!」


遭難という絶体絶命のピンチを、「マッピングのやり直し」という謎のポジティブ変換で乗り切った僕たち。

未知の浮島で、お互いの無事を確かめ合った僕と小さな相棒は、中層階の入り口を目指して、再び二人三脚の冒険をスタートさせるのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、

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