■第77話 魔法少女ちゃんとの共闘と、スローペースな空の旅
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「そおぉいっ!」
タァンッ! と足元の『浮雲の島』を蹴り飛ばすと、僕の体はフワリと数メートル先の次の島へと弧を描いて飛び移った。
「おおっ、本当に体が羽根みたいに軽い! この『雲海』シリーズ、ジャンプ力への補正が凄まじいな!」
天空のダンジョンは、見渡す限りの青空の中に無数の浮島が点在する立体迷宮だ。
ドワーフの親父さんが打ってくれた『純銀の装備』では重力に負けて落下してしまったが、この空の特産である『雲海の剣』と『雲海の鎧』の圧倒的な軽さと跳躍補正のおかげで、僕は空中の島々をウサギのように軽快に飛び移ることができていた。
「お兄さん、待ってくださいーっ! 『フライ』のポーション、飲みますからぁっ!」
背後から、一生懸命に杖を握りしめながら後を追ってくる小さな女の子の声がする。
魔法使いのローブを着た彼女は、ギルドから押し付けられる形で一時的にパーティを組むことになった駆け出しの冒険者だ。
魔法少女ちゃんがフライのポーションを口に含み、数秒間だけ宙に浮いて、僕のいる浮島へと必死にしがみついて這い上がってきた。
「ふぅ、ふぅ……。お兄さん、身軽すぎますよぉ……」
「ごめんごめん、新しい装備が快適すぎてつい。ほら、魔物が来るぞ」
僕たちが着地した浮島の雲が不自然にモコモコと盛り上がり、中から真っ白な毛玉のような魔物『クラウドシープ』が現れた。
「あ、魔物! 私に任せてくださいっ!」
魔法少女ちゃんはやる気を見せて前に進み出ると、杖を両手で構えて一生懸命に詠唱を始めた。
「ええと、炎よ、集まって……えいっ! 『ファイアボルト』!」
ポムッ!
彼女の杖の先から放たれた小さな火の玉が、クラウドシープのモフモフの毛に命中する。しかし、チリッと焦げ跡を作っただけで、魔物を倒し切るには全く火力が足りていない。
怒った魔物が「メェェェッ!」と頭突きを仕掛けてこようとする。
「あわわっ! こ、こないでっ! 『ファイアボルト』! ……あれ、効かない!?」
涙目で杖を振り回して四苦八苦している魔法少女ちゃんを見て、僕は苦笑いしながらスッと前に出た。
「うん、頑張ったね。あとは僕に任せて」
僕はバケモノ級の筋力を込めて、真っ白な『雲海の剣』を一閃した。
ズバァッ!
金属の剣とは違う、風を圧縮したような鋭い刃がクラウドシープを真っ二つに両断し、瞬時に光の粒子へと変えた。
「……すごーい!! 一撃だぁ……!!」
魔法少女ちゃんが、信じられないものを見るように目をまん丸にして僕を見上げた。
「私の魔法、全然効かなかったのに……! お兄さん、本当に強かったんですね!」
「ふふん、まあね。これでも結構修羅場は潜ってきてるからさ」
彼女の純粋な尊敬の眼差しに、僕は兜の下で少しだけ顔を綻ばせ、得意気になってしまった。
そして、魔物が消えた後にコロンと魔石が落ちると、魔法少女ちゃんの手元のギルドカードが微かに発光した。
「わぁっ! ギルドカードの『経験値』が増えてる! 私、トドメ刺してないのに!」
「パーティを組んでるから、僕が倒した分の経験値が分配されてるんだね。よかったじゃん」
この異世界では、パーティメンバー間で経験値が共有されるシステムになっているらしい。魔法少女ちゃんは「これで私もレベルアップできます!」と大喜びで跳ね回っていた。
それから、僕たちはジャンプでいくつかの島を移動しながら、空の魔物を狩って魔石を回収していった。
ここのエリアは天空ダンジョンのまだ低層階にあたるため、ドロップする魔石はそれほど貴重なものではない。ソロの時なら、バフポーションをガブ飲みして猛ダッシュで島を駆け抜け、数百匹の魔物を乱獲して大量の魔石を一気に回収するところだ。
しかし、今は魔法少女ちゃんがいる。
彼女の体力やポーションの効果時間、そしてジャンプの飛距離に合わせなければならないため、どうしても進行ペースはゆっくりになってしまう。
(うーん、いつもの十分の一も狩れてないな。効率で言えば最悪だ)
そう思いつつ、隣で「お兄さん、あそこに魔石落ちてます!」と一生懸命にサポートしてくれる小さな相棒の姿を見ると、不思議と嫌な気はしなかった。
「ま、こんなのんびりした冒険も、たまには悪くないさ」
常に死と隣り合わせだった下層の探索から一転して、抜けるような青空の下、誰かの成長を見守りながらゆっくりと進むダンジョン。
僕はすっかり保護者のような気分で、魔法少女ちゃんの歩幅に合わせて空の旅を楽しんだ。
夕暮れ時。
空が美しい茜色に染まり始めた頃、僕たちは迷宮を後にして市街地へと戻った。
冒険者ギルドで魔石を換金し、分配されたお金を受け取った魔法少女ちゃんは「初めてこんなにお金もらえました!」と感極まっていた。
その後、『怠惰な寺院』へ立ち寄り、半分寝ている神官ちゃんに寄進をしてフライのポーションを補充する。
「さて、それじゃあ宿に行こうか」
僕が向かったのは、天空の浮島の中でも一際立派な、白亜の宮殿のような最高級宿だった。
「ええっ!? お、お兄さん! 私、こんないい宿に泊まるお金なんて持ってませんよ!?」
「いいからいいから。宿代は僕が奢るからさ。一緒に頑張ったお祝いだよ」
「そ、そんなぁ……申し訳ないですっ」
王家直属の無限カードを持つ僕にとって、宿代など誤差にもならない。それ以上に、ここ天空の浮島に来たからには絶対に譲れない目的があったのだ。
そう、雲含有率100パーセントの、あの究極の寝具である。
「案内人さんと一緒に寝た、あの完全に無重力のフワフワ感……! 今夜もたっぷり堪能してやるぞ!」
案内された広い部屋には、見事なまでに枠組みすらない「本物の雲」のベッドが二つ、ポッカリと宙に浮いていた。
「うわぁぁぁっ! なにこれ、フワッフワです! 雲がベッドになってる!」
「だろ? ここの寝具は最高なんだ」
含有率100パーセントのベッドにダイブした魔法少女ちゃんは、あっという間に雲の海に沈み込み、重力から解放された極上の柔らかさに「ふにゃぁぁ……」とだらしない声を漏らした。
僕も純白の鎧を脱ぎ、自分の雲ベッドへと倒れ込む。
「はぁぁぁ……やっぱこれだわ」
心地よい疲労感と、新しい相棒との新鮮な冒険の余韻に包まれながら。
僕と魔法少女ちゃんは、含有率100パーセントの究極の寝心地の中で、泥のように深い眠りへと落ちていくのだった。
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