■第74話 お姫様抱っことお座敷遊び、含有率80パーセントの甘いお仕置き
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翌朝。
第八宿場町の食堂で出された『雲海牛の朝定食』は、間違いなく絶品だったはずである。
しかし、僕の舌はその味を一切感知していなかった。
「ふふっ……」
「あはは……」
テーブルを挟んで向かい合い、箸を持ったまま互いの顔を見つめ合い、ただひたすらにニッコリと微笑み合う二人。
昨夜、含有率65パーセントの雲のベッドで完全に一線を越え、身も心も結ばれた僕たちの脳内は、見事なまでにお花畑状態だった。どんな極上肉を食べても「案内人さん可愛い」「銀騎士様かっこいい」という感情に上書きされてしまい、味覚が完全にログアウトしてしまっていたのだ(笑)。
幸せな朝食(味不明)を終え、僕たちは次なる第九の宿場町へと出発した。
ここから先は天空の浮島にかなり近づいてきたこともあり、白亜の大階段の傾斜が目に見えて急になってきた。
「はぁっ……ふぅっ……」
案内人さんが額に汗を浮かべ、少し辛そうに息をつく。
僕はすかさず彼女の前に立ち、スマートに両手を差し出した。
「ここは俺に任せて。お姫様抱っこで行こう」
「えっ!? そ、そんな! ここは他の旅人さんもたくさんいるのに、恥ずかしいです……っ!」
「大丈夫。俺の腕の中が一番安全で快適だからさ」
抵抗する彼女をふわりと抱き上げ、純銀の鎧越しでも伝わる彼女の温かさを胸に抱きながら、僕はバケモノ級の筋力で急な階段をサクサクと登り始めた。
すれ違う一般の旅人や冒険者たちが、目を丸くしてこちらを見ている。
『なんだあの重装備の騎士……すげぇ美人をお姫様抱っこしたまま、涼しい顔で坂道を登ってやがる……』
『ちくしょう、羨ましい……!』
そんな周囲からの嫉妬と羨望の入り混じった視線がビシビシと突き刺さってくるが、今の僕にとってそれは最高のスパイスだった。
(へへん、いいだろう。この絶世の美人は俺の恋人(仮)だ!)
僕はすっかり得意気になり、鼻高々で急斜面を駆け上がっていった。
道中、イチャイチャと甘い言葉を交わしながら第九の宿場町に到着した僕たちは、今回も代表の屋敷へ手紙を届けに向かった。
すると、またしても手紙の効果は絶大だった。
「おおおっ! 噂の銀騎士様と、美しいお連れ様! 当街へようこそ! 今夜は街を挙げての大宴会を開かせていただきますぞ!」
代表の豪快な号令により、僕たちは街で一番の高級料亭の、広大な大広間へと案内された。
用意されたのは、これまでの食事をさらに凌駕する豪華絢爛な料理の数々と、この階層の澄んだ雲の湧き水でしか造れないという、透き通るような上品な味わいの特別なお酒だった。
「銀騎士様、お酒、お注ぎしますね」
「ありがとう。うわっ、この酒、水みたいにスルスル飲めるのに香りが凄いな!」
気分良くお酒を堪能していると、襖が開き、色鮮やかな着物をまとった美しい女性たちがゾロゾロと入場してきた。この宿場町名物の『空の舞妓さん』たちだ。
三味線と小太鼓の優雅な生演奏が始まり、舞妓さんたちが華麗な舞を披露してくれる。
すると、お酒が入って少し上機嫌になっていた案内人さんが「私も踊っていいですか?」と立ち上がり、なんと舞妓さんたちの輪の中に混じって踊り始めたのだ。
プロの舞妓さんたちの美しさもさることながら、亜麻色の髪を揺らして楽しそうに舞う案内人さんの姿は、息を呑むほど美しく、僕は完全に目を奪われていた。
そんな僕の横に、代表がすり寄ってきて、こっそりと耳打ちをしてきた。
「へっへっへ……銀騎士様。当街の舞妓たちは皆、絶世の美女揃いでしてな。どうです? もし『他でいいの』がおりましたら、今夜お部屋に手配いたしますが……?」
「――ッ!?」
僕は持っていたお猪口を落としそうになりながら、ブンブンブンブンッ!と首がもげるほどの勢いで横に振った。
「い、いやいやいや! 結構です! 間に合ってます!!(殺される! 絶対に殺される!)」
僕の全力の拒絶を見て、代表は「おや、それは残念」と肩をすくめて引き下がっていった。
その後、宴席は『夜の大人の時間』へと突入した。
舞妓さんたちとのお座敷遊び(ちょっと色っぽい罰ゲーム付きのゲームや、ギリギリの距離感での駆け引き)が始まり、男の悲しい性で、僕の心臓は別の意味でドキドキが止まらなくなってしまった。
もちろん手など出していないし、ただゲームに巻き込まれてドギマギしていただけなのだが――踊りを終えて席に戻ってきた案内人さんが、その様子をジィィィッと無言で見つめていたことに、僕は気づいていなかった。
宴会も終わり、恒例となった絶景の温泉で火照った体を冷ました後。
僕たちが案内された部屋の中央には、これまでとは比較にならないほど分厚く、まるで本物の積乱雲をそのまま四角く切り取ったかのような、巨大なベッドが用意されていた。
「お客様。当宿のベッドは、雲含有率80パーセントでございます……ふふっ」
宿の主人が意味深な笑みを残して去っていく。
僕が「つ、ついに80パーセントか……!」と感動していると、背後から底冷えのする声が聞こえてきた。
「……銀騎士様」
「は、はいっ!」
「さっき、お座敷遊び……とっても楽しそうでしたね?」
振り返ると、案内人さんが腕を組み、ニコリともしない笑顔で僕を見据えていた。
その視線は、純銀の鎧を貫通して僕の心臓を射抜くほどに痛く、そして冷ややかだった。
「ち、違うんだ! あれは代表が勝手に……! 俺はただ巻き込まれただけで……っ!」
「ふーん……? でも、お顔、真っ赤でしたよ?」
彼女はジリジリと距離を詰め、僕の胸ぐらを掴むと、そのまま含有率80パーセントのベッドへと押し倒した。
ボッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ……!!!
含有率80パーセント。
それはもう、重力という概念が完全に崩壊する領域だった。体が果てしなく深く沈み込み、極上の雲の海に全身が飲み込まれる。
身動きが取れなくなった僕の上に、案内人さんが馬乗りになる形で密着してきた。
「ぎ、銀騎士様は、私だけを見ていればいいんです……」
「あ、案内人さん……」
嫉妬で少し目を潤ませた彼女の顔は、たまらなく可愛かった。
底なしの柔らかさを持つ雲のベッドの中で、僕たちはお互いの体温だけを頼りに身を寄せ合う。
「……お仕置き、ですからね」
甘い囁きと共に落とされた口づけを合図に、僕たちの二度目の夜が始まった。
嫉妬からの少し強気な彼女と、それに翻弄される僕。含有率80パーセントの究極の寝心地の中で、僕たちはその夜もしっかりと二人で愛を確かめ合い、甘く濃密な時間の中で朝を迎えるのだった。
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