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■第72話 美人の案内人と、含有率50パーセントの悶絶ナイト

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


翌朝。第六宿場町の正門前には、占い師や衛兵隊長をはじめ、街中の人々がズラリと並んでいた。


「銀騎士様! どうか、どうかこの街にもうしばらくご滞在を!」

「我が街の守護神として、ぜひともお力を……!」


口々に引き止める声が飛ぶが、僕の決心は固かった。

究極の『雲含有率100パーセント』の布団で寝るという野望がある以上、こんなところで立ち止まっている暇はないのだ。


「悪いが、俺には空の頂を目指す使命(※お布団)がある。長居はできない」


僕が兜の奥から低く響く声で(なるべくカッコよく)告げると、占い師が進み出て深々と頭を下げた。


「……承知いたしました。せめてものお詫びと感謝の印として、次の第七宿場町までの道中、当街で一番の案内人を同行させます。どうかお連れください」


そう言って占い師の後ろから現れたのは、透き通るような白い肌と、風に揺れる亜麻色の髪を持つ、息を呑むほど美しい女性だった。


「ご、ご案内を務めさせていただきます……」


彼女は恐縮しきった様子で、僕の純銀の鎧をチラチラと見上げながら身をすくませている。無理もない。僕は昨日、理不尽に投獄された挙句、呪われた黒騎士をワンパンで粉砕した「歩く暴力」のような存在として見られているのだから。


(……絶世の美女と、二人きりの空の旅……!)

兜の中で、僕は思い切りガッツポーズを決めていた。

不機嫌そうな雰囲気を出しつつ「……ふん、まあ道案内がいるなら助かる。承知した」と不承不承を装って頷いたが、内心のテンションはすでに大気圏を突破している。


こうして、美人の案内人を連れた、次なる宿場町への旅が始まった。


「あの……銀騎士様。歩くペース、速すぎませんか……?」


白亜の大階段を登り始めてしばらく。案内人さんが息を切らし始めたので、僕は慌てて立ち止まり、兜をスポンと脱いだ。


「あ、ごめんごめん! つい自分のペースで歩いちゃって。ここで少し休憩しようか」

「えっ……?」


兜の下から現れた、黒髪で平凡な(しかし愛想の良い)青年の顔を見て、エリスさんは目を丸くした。


「銀騎士様って……もっと、こう、厳ついお髭のおじ様か、恐ろしい顔つきの方かと……」

「はははっ、よく言われるよ。中身はただの一般人だから、敬語も『様』もいらないよ。案内人さん」


僕が水筒の水を渡し、ニコッと笑いかけると、彼女の顔からスッと緊張が抜け落ちた。

そこからは、驚くほど会話が弾んだ。


歩きながら、下界の海でバカでかいカメを釣った話や、遊園地でコースターを暴走させた話をすると、案内人さんはお腹を抱えて笑ってくれた。最初は僕を怖がっていた彼女が、花が咲くように楽しげに笑う姿は、大雲海の絶景よりも眩しかった。


お昼時。階段の広い踊り場に腰を下ろし、案内人さんが作ってきてくれた『雲海牛のサンドイッチ』と『空たまのオムレツ』の入ったお弁当を二人でつつく。


「美味しい! 案内人さん、料理上手だね!」

「ふふっ、よかった。たくさん食べてくださいね」


美しい女性と、空の絶景を眺めながらのピクニック。

過酷なダンジョン探索の中で、こんなにも心安らぐ青春のような時間が訪れるとは。僕たちはすっかり打ち解け、仲良く並んで大階段を登っていった。


夕暮れ時。

僕たちは無事に第七の宿場町へと到着した。


「私は一度、この街の代表の方に長老からの手紙を届けてきますね!」

「了解。じゃあ、俺は先に最高級の宿を探しておくよ」


手を振って別れた後、大通りを歩いていると、息を切らした第七宿場町の代表と案内人さんが駆け寄ってきた。


「おお、銀騎士様! 第六宿場町を救っていただいた武勇、しかと伺っております! ささっ、当街で一番のVIP宿へご案内いたしますぞ!」


手紙の力は絶大だった。

そのまま超高級宿の特別室へと案内され、豪華絢爛な大広間で、代表から「第七宿場町特製・雲海牛と空ウズラの極上フルコース」を振る舞われる。案内人さんも同席し、僕たちは最高級の食事を堪能した。

食後。宿のエントランスで、案内人さんが少し申し訳なさそうに言った。


「それでは銀騎士様、私は近くの安宿を探して泊まりますので、また明日の朝に……」

「えっ? ちょっと待ってよ。こんなに頑張って案内してくれたのに、安宿なんてダメだよ。俺が宿代出すから、案内人さんもここに泊まりなよ」


僕は王家直通の『黒金のカード』をチラつかせて引き止めた。


「そ、そんな! この宿の宿泊費なんて、私の一年分の生活費よりも高いんですよ!?」

「いいからいいから。恩ある銀騎士からのお願い、聞いてくれるよね?」

「うぅ……そこまで仰るなら、お言葉に甘えさせていただきます……」


普通なら一生縁のない超高級宿に泊まれるとあって、案内人さんは恐縮しつつも嬉しそうだった。

しかし、彼女がいざ案内された部屋の豪華さにガチガチに緊張し始めているのを見て、僕はつい気を回してしまった。


「案内人さん、そんなに緊張するなら、俺の泊まってる『特別室』を使えばいいよ。ベッドも無駄に二つあるし、俺が一緒なら安心でしょ?」

「えっ……! そ、そうですね。一人であんなに広い部屋にいるより、銀騎士様と一緒の方が心強いです。……お邪魔、してもいいですか?」

「もちろん!」


僕としては、純粋に彼女を安心させるための紳士的な提案だった。


……しかし、これが大いなる悲劇の始まりだった。

夜。

第七宿場町・超高級宿の特別室。


「案内人さん、ここのベッド、雲含有率50パーセントだって。ついに半分が雲だよ!」

「ふふっ、本当ですね。フワフワで……体が浮いてるみたい」


部屋の明かりが消され、広々とした部屋に置かれた二つの巨大なベッドに、僕たちはそれぞれ潜り込んだ。


含有率50パーセントのベッドは、もはや天国そのものだった。

背中を預けると、重力が完全に消滅し、極上のマシュマロの海に浮かんでいるような究極の浮遊感に包まれる。本来なら、数秒で気絶するように眠りに落ちるはずの寝心地だ。

しかし。


(…………寝られん)

僕の目は、暗闇の中でギンギンに冴え渡っていた。


すぐ隣のベッドから、微かに聞こえてくる「スゥ……スゥ……」という案内人さんの規則正しく可愛らしい寝息。

ほのかに漂ってくる、彼女の髪の甘い香り。

同じ部屋の、すぐ数メートル先に、絶世の美女が無防備な姿で眠っているのだ。


(落ち着け……俺は紳士だ……。銀騎士だ……!)

目を閉じても、脳裏に彼女の顔が浮かんでしまう。

寝返りを打とうとするが、含有率50パーセントのベッドが「ポヨンッ」と優しく体を跳ね返し、無重力空間にいるかのように僕の体をホールドしてくる。

快適すぎるがゆえに、ベッドの中で身悶えすることすらままならない。


「うぅぅ……」


極上の布団(天国)の上で、健康的な青年の煩悩(地獄)に焼かれる時間が、永遠のように続いた。

翌朝。


「おはようございます、銀騎士様! 含有率50パーセントのベッド、最高でしたね! ぐっすり眠れました!」

「……お、おはよう……」


朝日を浴びてキラキラと輝く案内人さんの隣で、僕は一人、目の下にクマを作り、完全に死んだ魚の目をしていた。


「あ、あれ? 銀騎士様、なんだかお疲れですか……?」

「いや……ちょっと、空の空気が合わなかっただけだよ……」


天国で地獄を味わった悶絶ナイト。

超極上のベッドで一睡もできなかったという理不尽すぎる悲劇を胸に秘めながら、僕はひどい寝不足の頭を抱え、フラフラとした足取りで次なる宿場町へと出発するのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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