■第70話 天空の大農地と、二人乗り雲カートの見学ツアー
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含有率40パーセントの和室布団。その底なしの包容力にすっかり骨抜きにされた僕は、それでもなんとか強い意志で起床し、朝の巨大な第五宿場町へと繰り出した。
「よし、出発の前にこれだけはやっておかないと!」
昨日借りた『雲カート』に乗り込み、朝の澄んだ空気の中をスイスイとドライブする。風車を回して宙を滑る心地よい疾走感を心ゆくまで堪能した後、僕はレンタル屋にカートを返却し、次なる第六の宿場町を目指して再び白亜の大階段へと足を踏み出した。
どこまでも続く真っ白な大雲海の景色を眺めながら階段を登っていくと、やがて平坦で広大なエリアへと出た。
しかし、そこはいつものような建物が並ぶ宿場町ではなかった。
「……うおっ、なんだこれ。見渡す限りの畑じゃないか!」
僕の目の前に広がっていたのは、地平線の彼方まで続く広大な『農地』だった。
ふかふかの雲の大地が耕され、その中で数え切れないほどの人々がクワを振るったり、収穫作業をしたりと汗を流している。空の上のダンジョンに、こんな巨大な農業エリアがあるなんて想像もしていなかった。
思わず足を止めてその壮大な光景に見とれていると、近くで作業をしていた麦わら帽子のお姉さんが、笑顔で声をかけてきた。
「あら? 珍しいわね。こんな重武装の冒険者さんが農地に見とれてるなんて」
「あ、こんにちは。いや、あまりにも見事な畑だったから、つい」
「ふふっ、すごいでしょ? ここはね、下の第四階層から上の第七階層までの宿場町の食材をすべて賄っている大農地なのよ」
「ええっ! 四つもの階層の胃袋を支えてるんですか。すごいな」
「野菜だけじゃないわ。あっちでは酪農もやっててね。これから先の宿場町で出てくる最高級……『雲5等級』の雲鹿や雲猪なんかも飼育されてるのよ」
「雲5等級の……雲鹿に雲猪!」
そのパワーワードを聞いた瞬間、僕の胃袋がギュルルと期待の音を鳴らした。
「あはは! お兄さん、いい食べっぷりしそうね。よかったら少し見学していく? ここは広すぎるから移動は『雲カート』なんだけど、私のカートに乗せていってあげるわ」
「本当ですか!? ぜひお願いします!」
お姉さんが案内してくれたのは、座席が前後に並んだ『二人乗りの雲カート』だった。
僕が助手席(もちろん雲製でフカフカだ)に乗り込むと、お姉さんがレバーを引いた。背後の大きな風車が勢いよく回り出し、二人乗りカートは広大な農地の上を滑るように走り出した。
「わぁっ、風が気持ちいいですね!」
「でしょう? ほら、右に見えるのが小麦とトウモロコシ! 左の赤いのがトマトで、あっちの丸いのがマメネギよ!」
風を切りながら進む農園ツアー。
黄金色に輝く小麦畑や、大人の背丈ほどもある立派なトウモロコシ。そして、豆のように丸く膨らんだ根元とネギの葉を併せ持つ不思議な作物『マメネギ』など、多種多様な作物が栽培されている。そこかしこで沢山の農家の人たちが和気あいあいと作業をしており、カートで通り過ぎる僕たちに笑顔で手を振ってくれた。
そんな活気あふれる農地エリアを抜けると、パッと視界がさらに開け、今度は青々とした牧草が広がる果てしない『酪農地』へと出た。
「おおおっ! 動物がいっぱいいる!」
そこには、見覚えのある『雲海牛』たちの群れはもちろんのこと、透き通るような白い毛並みと立派な角を持った『雲鹿』や、丸々と太って力強い『雲猪』が、元気いっぱいに走り回っていた。
さらには、地面をつついている鳥たちもいる。
「お姉さん、あの鳥……ウズラみたいな模様ですけど、サイズが完全にニワトリじゃないですか!?」
「ああ、あれは『空ウズラ』よ。栄養満点の雲の草を食べてるから、あんなに大きくなっちゃうの。お肉も卵も絶品よ!」
「なるほど! 前の宿場町で食べた殻ごと食べられる卵は、あの子たちが産んでたのか!」
全てがスケール違いで、それでいて活気と生命力に満ち溢れている。
過酷なダンジョンの中にあって、これほどまでに豊かな空の恵みが、人々の丁寧な手仕事によって育まれているのだ。
一通りの見学を終え、カートは再び大階段のルート付近へと戻ってきた。
「お姉さん、案内してくれて本当にありがとうございました! 空の食べ物が美味しい理由がよくわかりました」
「どういたしまして! 次の第六宿場町までは、ここからもう少しよ。うちの農場で育てた美味しいお肉と野菜、お腹いっぱい食べていきな!」
「はい! 絶対に食べます!」
お姉さんに大きく手を振って別れを告げ、僕は再び白亜の大階段へと足を踏み出した。
「雲5等級の雲鹿の肉……!」
見学したおかげで、僕のモチベーションはすでに限界突破していた。
次の第六宿場町には、間違いなくあの最高級の鹿肉が待っているはずだ。
頭の中を極上の肉汁で満たしながら、僕はバケモノ級の筋力をフル回転させ、弾丸のような猛ダッシュで次なる街を目指して駆け上がっていくのだった。
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