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■第68話 雲海牛の朝寿司と、殻ごと食べる『空たま』

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


第三宿場町での極上の目覚め。


含有率30パーセントの布団から、なんとか強い意志(と食欲)を振り絞って這い出した僕は、宿の食堂でさらなる至福の朝食を迎えていた。


「お待ちどおさま! 朝の特選メニュー『雲海牛の握り寿司』だよ」


目の前に置かれた木下駄には、うっすらとサシの入った美しい桜色の肉寿司が並んでいた。表面が軽く炙られており、香ばしい匂いと共に、肉の脂がツヤツヤと輝いている。


昨夜の暴力的な極上ステーキとは打って変わって、朝にふさわしい繊細な一品だ。


一つ摘んで口に放り込むと、炙られた香ばしさの直後、雲海牛特有の軽やかな脂が舌の温度でスッと溶け出した。ほんのりと甘いツメ(タレ)と、酢飯の爽やかな酸味が完璧なハーモニーを奏でている。


「んんっ……! 朝から肉なのに、全然重くない! なんだこれ、無限に食べられそうだな」


ペロリと肉寿司を平らげた僕は、最高のエネルギー補給を完了し、女将さんに見送られながら意気揚々と第三宿場町を出発した。


白亜の大階段をさらに登っていくと、周囲を覆っていた薄い霧が徐々に濃くなり、やがて視界全体が真っ白なベールに包まれた。

これが昨夜、温泉の行商人が言っていた「大雲海」の層だ。

純銀の鎧に細かな水滴をつけながら、真っ白な世界をさらに駆け上がること数時間。


――パァァァァッ!!

突如として、頭上から強烈な陽光が降り注ぎ、視界が一気に開けた。

分厚い雲の層をついに突き抜けたのだ。


「うおおおっ……! すげぇ!」


見上げれば、遮るもののない抜けるような青空。

そして振り返って眼下を見下ろすと、そこには地上の景色は一切なく、太陽の光を反射して輝く『真っ白な雲の絨毯』がどこまでも果てしなく広がっていた。


ついに僕は、完全に「雲の上の世界」へと足を踏み入れたのだ。

絶景に胸を打たれながらさらに階段を進むと、やがて雲海の上に浮かぶようにして築かれた第四の宿場町が見えてきた。


街を歩いていると、一件の定食屋の店先からふわりと良い匂いが漂ってきた。


「そこの立派な銀の鎧のお兄さん! 雲の上に来たなら、まずは名物の『空たま』を食べていきな!」

「空たま?」


威勢のいいおばちゃんに声をかけられ、僕は店先を覗き込んだ。

そこには、ソフトボールくらいの大きさの、真っ白でフワフワした見た目の卵が山積みになっていた。


「この先の宿場町からなら、どこにでも普通にある定番食材さ。なんとね、この卵の殻は『雲』でできてるから、殻ごと食べられちゃうんだよ!」

「殻ごと!? 雲の殻って、どんな食感なんだ?」

「ふふふっ、いろんな食感が楽しめるのさ! 油で揚げれば『パリッと』。出汁で煮込めば『しっとり』。そしてなんと言っても、そのまま食べれば『ふんわり』さ! どれにするかい?」

「うーん……迷うな。じゃあ、まずは『揚げ』と『そのまま』を一つずつ!」


おばちゃんから渡された、生の『空たま』を両手で持ち、ガブリと齧り付く。

すると、雲でできた真っ白な殻は、綿あめのように口の中で「ふんわり」と溶けて消え、中から濃厚で甘い黄身がトロリと溢れ出してきた。


「美味っ! なんだこの不思議な食感! 殻がシュワって消えたぞ!」

「あはは! 面白いだろう? 次はこっちの『揚げ空たま』だ!」


続いて渡された揚げたての卵に噛み付くと、今度は雲の殻が極薄のパイ生地のように「パリッ!」と軽快な音を立てて砕け、中のホクホクの白身と黄身が口いっぱいに広がった。


「こっちも最高だな! スナック感覚でいけちゃう。おばちゃん、煮込んだ『しっとり』のやつも……」


そこまで言いかけて、僕はハッと手を止めた。


(いや待てよ。ここはまだ第四宿場町。この『空たま』は上に行っても普通に食べられるんだよな)


「……おばちゃん、煮込んだやつはまた今度にするよ。ここで全てを試さなくても、逃げやしないからね」

「ああ、ここから上ならどこの宿場町でも食べられるからね! 慌てることはないさ!」


僕は満足げにお腹をさすり、おばちゃんに銀貨を渡した。

魔法のような食材を前にしても、少しずつ楽しみを残しながら旅を進めるという心の余裕。これが長旅の醍醐味だ。


夕暮れ時。

雲の上の美しい夕焼けを堪能した後、僕は第四宿場町の宿屋へとチェックインした。


「ふぅ……。今日もたくさん登って、美味いものを食った。さて、いよいよお楽しみの……」


部屋に敷かれた真っ白な布団を前に、僕は案内してくれた宿の主人に期待を込めて尋ねた。


「ご主人! 雲の上に出たことだし、ここのお布団の『雲含有率』はいよいよ50パーセントくらいに……!」

「お客さん、残念ですが当宿の雲含有率は『30パーセントのまま』でございます」

「……ええっ!?」


主人の申し訳なさそうな言葉に、僕はガクッと肩を落とした。


「このあたりの標高だと、まだ雲が少し水気を含んでいてですね。寝具に練り込める限界が、第三宿場町と同じ30パーセントなんですよ。もっと上に行けば、もっとフワフワになりますが」

「なるほど……。十日間のペース配分の壁がここにも」


少しだけ残念だったが、鎧を脱いで布団へダイブした瞬間、体をふわりと浮き上がらせるようなあの極上の「反発力と柔らかさ」が全身を包み込んだ。


「はぁぁぁ……やっぱ最高だ、これ。30パーセントでも十分すぎるくらい寝心地は最高だわ……」


含有率がキープされているということは、まだこの先の上昇の余地インフレがたっぷり残されているということだ。

上へ行けば行くほど、美味い食材があり、そして究極の『100パーセントの雲布団』が待っている。


「次を楽しみにしておこう……明日はどんな景色かな……むにゃ」


僕は次の街への期待と、少しずつ空の環境に順応していく心地よさを感じながら、極上のマシュマロ布団に身を委ね、深い眠りへと落ちていくのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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