■第66話 天空の遊園地と、冷たくて甘い氷菓子
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「あ、パパ、お兄さん! 見て、あそこ! なんかクルクル回ってる!」
僕の頭の上で、ミーナちゃんが歓声を上げて前方を指差した。
白亜の階段がさらに大きく開けた踊り場――いや、ひとつの巨大な「島」と言ってもいいほどの広大な面積を持つエリアに、僕たちは足を踏み入れた。
そこは、色鮮やかなテントや青い暖簾が立ち並ぶだけでなく、空の風と魔法を利用して作られた、規格外の巨大施設だった。
「おおっ……なんだこれ! すごいな!」
僕の視界に飛び込んできたのは、見たこともないようなアトラクションの数々だ。
◆雲海観覧車:雲の塊で作られたゴンドラが、巨大な風車のようにゆっくりと空を回っている。
◆風乗りコースター:目に見える気流(風のレール)の上を、木造のトロッコが猛スピードで駆け抜けていく。
◆空毛獣のメリーゴーランド:モフモフの獣を模した木馬たちが、楽しげな音楽と共にふわりふわりと宙を浮き沈みしている。
「パパ、お兄さん! 氷菓子もいいけど、ここ、遊園地だよ!? わたし、あれ乗りたい!」
ミーナちゃんは僕の頭の上でピョンピョンと跳ね(僕の首の筋肉は微動だにしないが)、大興奮でコースターを指差した。
「ええと……お父さん。ここは宿場町なんですよね?」
「は、はい。第二宿場町『風花』は、もともと風車小屋が並ぶ休憩所だったんですが……上を目指す旅人や子供たちを楽しませようと商人たちが色々と作り足していくうちに、いつの間にかこんな『天空の遊園地』になってしまったんです」
父親が苦笑いしながら説明してくれた。
「なるほど、それは最高ですね! よし、ミーナちゃん。パパは荷物のおろし作業があるから、お兄さんと一緒に遊園地を探検しようか!」
「わーいっ!! お兄さんだいすき!!」
父親から「すみません、何から何まで……!」と感謝されつつ、僕はミーナちゃんを肩車したまま、賑やかな天空の遊園地へと繰り出した。
まずは手始めに、一番目立っていた『風乗りコースター』の列に並ぶ。
木造のトロッコにミーナちゃんと並んで乗り込むと、ガコンッ! という音と共に気流のレールに押し出された。
ゴオオオオオオオオッ!!
「きゃあぁぁぁぁっ! はやいー!!」
「うおおおおっ!! なんだこれ、すげぇスピードだ!!」
予想以上の猛烈な風圧と加速に、僕は思わず声を上げた。
後で知ったことだが、どうやら僕の着ている「純銀の鎧(数十キロ)」と「バケモノ級の筋肉」による規格外の重量のせいで、下り坂での物理的な位置エネルギーが暴走し、通常の三倍ほどのスピードが出てしまっていたらしい。
「あははははっ! お兄さん、お顔がブルブルしてるよ!」
「ミーナちゃんこそ、髪の毛が爆発してるぞ!」
□□□
「あー、面白かった! でも、大声出したらちょっと喉が渇いたな」
「お兄さん、あそこ! 氷菓子屋さんだよ!」
ミーナちゃんが指差した先には、『天空の氷菓子』と書かれた青い暖簾の屋台があった。大きな氷の塊を、店主のおじさんが専用のカンナでシャッシャッと削っている。
「おじさん、これ二つちょうだい! シロップは……ミーナちゃん、何味がいい?」
「わたし、お空の色のやつ!」
「じゃあ、青い『空色シロップ』と、赤い『夕焼けシロップ』で」
受け取った氷菓子は、ガラスの器にこんもりと盛られ、透き通るような青と赤に染まっていた。
縁台に座り、木のスプーンで一口すくって口に入れる。
「……んんっ!? なんだこれ、一瞬で溶けたぞ!」
普通の氷のようなガリガリとした食感がない。冷たい雪、いや「冷やした雲」をそのまま食べているような、極上のフワフワ食感だ。頭がキーンと痛くなることもなく、果実の濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。
「おいしーい! あまくて、つめたくて、ふわふわ!」
「うん、これは階段登って火照った体には最高だな!」
夢中で氷菓子を平らげた後、ふとミーナちゃんが僕の顔を見てケラケラと笑い出した。
「あはははっ! お兄さん、ベロがまっかっか!」
「おっ? ミーナちゃんこそ、お化けみたいに真っ青だぞ。ほら」
僕はアイテムポーチから磨き上げられた純銀の盾を取り出し、鏡代わりにしてミーナちゃんに見せた。盾に映った自分の青い舌を見て、ミーナちゃんは「わぁっ!」と目を丸くし、また二人でお腹を抱えて笑い合った。
夕暮れ時。
舌をカラフルに染めたまま、僕たちは巨大な『雲海観覧車』の頂上から、茜色に染まる雲の海と、はるか上空に霞んで見える「天空の浮島」のシルエットを眺めた。
「……すごく、綺麗だね。お兄さん」
「うん、絶景だね」
隣に座るミーナちゃんが、遊び疲れたのかとろんとした目で僕の銀の鎧にもたれかかってきた。
観覧車を降りると、荷物の納品を終えたお父さんがホッとした顔で待っていた。
「騎士様、本当にありがとうございました。ささやかですが、今夜の宿は私が手配させていただきました。この街で一番、お布団の質が良いと評判の宿です」
「おおっ、ついに……! ありがとうございます、お言葉に甘えさせてもらいますね」
案内されたのは、風車が回る丘の上に建つ立派な宿屋だった。
美味しい夕食を三人で囲み、絶景の露天風呂で遊園地ではしゃぎすぎた筋肉をほぐした後、僕は自分の部屋へと案内された。
部屋の中央には、すでに真っ白な布団が敷かれている。
「さあ、見せてもらおうか。雲含有率30パーセントの実力を……!」
僕は純銀の鎧を部屋の隅に置き、少しの緊張と共に、その分厚い布団へと倒れ込んだ。
ボッフゥゥゥゥンッ……!!
「っ……!? な、なんだこれぇぇぇっ!!」
10パーセントの時の「ふかふか」とは次元が違った。
体が沈み込むと同時に、下からまるで水の上に浮いているような、強い『反発力(浮力)』が全身を包み込んできたのだ。布団というよりも、極上の巨大なマシュマロの中に全身を埋めているような感覚。重力という概念が、半分ほど消え失せている。
「や、ヤバい。気持ちよすぎる……。体が……溶ける……」
バフポーションの反動と、遊園地で遊び倒した心地よい疲労感。
そこにこの「雲含有率30パーセント」の浮遊感が合わさった結果、僕の意識は文字通り「雲散霧消」するように、あっという間に深い眠りの底へと引きずり込まれていった。
「……むにゃ。100パーセントになったら、僕、どうなっちゃうんだ……」
第二の宿場町『風花』の夜。
大階段の旅路は、上に登れば登るほど、確実に僕をダメ人間(物理)へと近づけつつあった。
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