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■第65話 大階段の座り込みと、銀の頭上遊園地

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


雲含有率10パーセントの極上の布団で一晩ぐっすりと眠った僕は、すっかり体力を回復させて第一の宿場町『雲根』を出発した。


「よし、今日もガンガン登るぞ! 目指すは第二の宿場町だ!」


朝の澄んだ空気の中、白亜の大階段を軽快なペースで駆け上がっていく。標高が上がるにつれて少しずつ空気が薄く、冷たくなってきているはずなのだが、気楽な寺院の『上級バフポーション』による基礎代謝の底上げのおかげで、寒さも息苦しさも全く感じない。


何十段も飛ばしながらサクサクと登り続け、昼過ぎに差し掛かった頃。

ふと前方の階段で、進行方向の端に寄って立ち往生している二人組の姿が目に入った。


「もーやだ! 足いたい! もう一歩も歩けないぃ!」

「こらこら、わがまま言わないの。ここで座り込んだら、暗くなる前に第二商店街に着けなくなっちゃうだろ?」


背中に身の丈ほどもある大きな荷物(おそらく上の宿場町へ運ぶための商品だろう)を背負った父親が、階段にペタンと座り込んでしまった小さな女の子を必死に宥めていた。

しかし、女の子の方は完全にスタミナ切れのようで、首をぶんぶんと横に振ってテコでも動こうとしない。父親も重い荷物のせいで子供を抱っこしてやる余裕がなく、途方に暮れてハンカチで汗を拭っている。


「徒歩十日の道のりだもんな。そりゃあ小さな子供にはキツいよな」


僕は立ち止まり、カチャカチャと銀の鎧を鳴らしながら親子の元へと近づいた。


「こんにちは。お困りのようですね」

「ひぇっ!? ぎ、銀の騎士様!?」


突如現れた重武装の男に父親がビクッと肩を揺らしたが、僕は兜のバイザーを上げて、できるだけ人の良さそうな笑顔を作った。


「第二商店街まで行くんですか? よかったら、僕が娘さんを運んでいきましょうか。ついでにその荷物も半分持ちますよ」

「えっ!? い、いえ、そんな! 騎士様に荷物持ちや子守りをさせるなんて、とんでもない!」

「気にしないでください。どうせ同じ方向ですし、僕、無駄に体力だけは有り余ってるんで」


僕は父親が背負っていた巨大な背負子の中から、特に重そうな木箱をヒョイッと片手で持ち上げ、自分のアイテムポーチに放り込んだ(もちろん後で返せるように一番上に)。

そして、ポカンとしている女の子の前にしゃがみ込み、自分の肩に分厚い旅の外套マントをクッション代わりにふわりと掛けた。


「さあ、お嬢ちゃん。銀騎士の特等席に乗っていくかい? 階段を歩かなくて済むし、景色もすごくよく見えるぞ」

「ほんと!? のる!」


女の子の顔がパッと輝き、僕の肩にちょこんと乗っかってきた。バケモノ級の筋力ステータスを持つ僕にとって、小さな子供一人の重さなど、羽が一枚肩に乗った程度の感覚でしかない。


「よし、出発進行!」


僕は立ち上がり、女の子を肩車したまま、再び白亜の大階段を登り始めた。


カン、カン、カンッ。

歩き出してすぐ、僕の頭上で小気味よい金属音がリズミカルに鳴り響き始めた。


「おじちゃん、あたまカッチカチだね! ピカピカしてて、鏡みたいにお顔が映ってるよ!」

「こらミーナ! 騎士様の兜を太鼓みたいに叩くんじゃない! ほんっとうに申し訳ありません……!」

「あはは、全然痛くないんで平気ですよ。むしろいい暇つぶしです」


肩車されたミーナちゃんは、すっかり僕の頭の上がお気に入りになったらしい。小さな両手で僕の純銀の兜をペチペチと叩いたり、頬ずりして冷たい金属の感触を楽しんだりしている。


ポーションでドーピングされた僕の首の筋肉は、子供一人が上でどれだけ暴れようが1ミリもブレることはない。完全に安定した「歩く頭上遊園地」状態だ。


「ねえねえ、おじちゃん。こんな重そうなの着てて、疲れないの? ロボットさんなの?」

「おじちゃんじゃなくて、お兄さんな。ロボットじゃないけど、変なポーションをいっぱい飲んでるから力持ちなんだよ」

「へんなおくすり! にがい?」

「いや、なんか無駄に甘いんだよな、あれ」


僕が苦笑しながら答えると、ミーナちゃんは僕の頭の上から身を乗り出すようにして、兜のバイザーの隙間から僕の顔を覗き込んできた。


「お兄さんは、すっごく強いの? お空の上の『ドラゴン』とか、やっつけに行くの?」


子供らしい、キラキラとした期待に満ちた目だ。銀の鎧を着た大男が天へ続く階段を登っているのだから、当然、恐ろしい魔王やドラゴンを討伐しに行く勇者に見えるのだろう。


「うーん、ドラゴンはまだ戦ったことないなぁ。でも、海で小型船くらいあるバカでかいカメなら、釣り竿で一本釣りしたことがあるぞ」

「えっ、カメさん!? 釣り竿で!? ……うそだぁ!」

「本当だって。しかも七色に光るカメだったんだぞ」

「わぁっ! じゃあ、お空の島では、お空を飛ぶお魚さんを釣るの?」


ミーナちゃんがワクワクした声で尋ねてくる。子供の夢を壊すのも悪いかと思ったが、僕は正直に答えることにした。


「いや? 僕は『雲含有率100パーセントの、超ふかふかのお布団で寝る』ために登ってるんだ」

「……えっ?」

「昨日の宿の10パーセントのお布団も最高だったけど、一番上に行けばもっとすっごいフワフワのお布団があるって聞いたからね。お兄さんの今の目標はそれだ」


それを聞いたミーナちゃんは、数秒間きょとんとした後――。


「あははははっ! なにそれぇ! お兄さん、強そうなのに、おねむなだけなんだ! おっきな赤ちゃんみたい!」

「おっ、言うねぇ。じゃあ罰として、お馬さんダッシュだ!」

「きゃあああっ! はやい、はやーい!」


僕が少しだけ歩くペースを上げて階段を駆け上がると、ミーナちゃんは歓声を上げて僕の兜に抱きついた。その後ろ姿を見て、ハラハラしていた父親もようやく緊張が解けたのか、ふっと柔らかい笑みをこぼした。


「……騎士様は、本当に優しいお方ですね。最初は、いかつい鎧姿を見て震え上がってしまいましたが……今は、娘がすっかり懐いてしまって」

「まあ、中身はただの冒険好きの一般人ですからね。一人で黙々と登ってたら気が滅入っちゃいますし、賑やかで楽しいですよ」


僕は肩の上のミーナちゃんが落ちないように片手で支えながら、眼下に広がる雲海を指差した。


「ほら、ミーナちゃん。あそこの雲、ウサギみたいな形してるぞ」

「ほんとだ! あ、あっちはおっきなソフトクリーム!」

「じゃあ次は、あのソフトクリーム雲より美味しそうな雲を探すゲームな」


殺伐とした魔物との死闘も、一攫千金の駆け引きもない。ただ、雲の形を笑い合いながら、子供を肩車して階段を登っていく。そんな平和で穏やかな道草の時間は、僕の心にあったダンジョン探索の緊張感を、心地よく解きほぐしてくれた。

それからしばらく雲当てゲームで盛り上がっていた時のことだ。


「あ、パパ、お兄さん! 見て、あそこ! なんかヒラヒラしてる!」


ミーナちゃんが前方を指差して声を上げた。

視線の先、白亜の階段がさらに大きく開けた踊り場に、風に舞う色鮮やかな青い暖簾のれんと、幾つもの風車がカラカラと回る美しい光景が見えてきた。


「ああ、あれが第二の宿場町『風花かざはな』ですよ! 騎士様、ありがとうございました。おかげで明るいうちに着くことができました!」

「おおっ、氷菓子と、含有率30パーセントの布団の街か!」


僕は足取りも軽く、父親とミーナちゃんと共に、第二の宿場町へと元気よく足を踏み入れるのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、

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