■第64話 雲根の宿と、ふかふかの『雲含有率』
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
お茶屋の縁台で温かいお茶と『雲海まんじゅう』を堪能した僕は、すっかり観光気分に浸っていた。
せっかくこんなに情緒あふれる宿場町があるのだ。初日から無理をして夜通し階段を登る必要はない。
「おばちゃん、この辺りで一泊していこうと思うんだけど、おすすめの宿ってある?」
「それなら、あそこの角を曲がった先にある『白雲亭』がいいよ。飯も美味いし、なんといっても寝具が自慢の宿だからね!」
おばちゃんにお礼を言い、僕は教えられた宿の暖簾をくぐった。
木造の温かみと白亜の石の清潔感が調和した、立派な老舗旅館のような造りだ。女将さんに案内された部屋に入ると、僕はすぐさま重厚な純銀の鎧と剣を外し、部屋の隅に置いた。
「ぷはぁっ……! やっぱ鎧を脱ぐと体が軽いな!」
バケモノ級の筋力があるとはいえ、常に金属の塊を着込んでいるのは肩が凝る。
宿の絶景露天風呂でゆっくりと汗を流し、眼下に広がる夕焼けの雲海を眺めた後、僕はポカポカに温まった体で部屋へと戻った。
部屋の中央には、すでに真っ白で分厚い布団が敷かれていた。
「おおっ、ふかふかだ」
僕は迷わず、その真っ白な布団に向かってダイブした。
ボフッ! という心地よい音と共に、体が優しく包み込まれる。単なる綿や鳥の羽とは違う、不思議な弾力と、底抜けの柔らかさがあった。
「なんだこれ、めちゃくちゃ気持ちいい……」
「ふふっ、お気に召したようで何よりです」
ちょうど夕食の御膳を運んできた女将さんが、布団に顔を埋めている僕を見て嬉しそうに微笑んだ。
「この布団、すごく柔らかいですね。普通の綿じゃないみたいだ」
「ええ。当宿の寝具には、この空で採取された『雲綿』が織り込まれておりますから。もっとも、この第一宿場町では雲含有率は10パーセントほどですが」
「雲含有率?」
聞き慣れない単語に首を傾げると、女将さんは夕食の準備をしながら丁寧に説明してくれた。
天空の浮島へと続くこの大階段では、標高が上がるにつれて、寝具に使われる「雲」の割合が変わっていくのだという。
◆下層の宿場町(雲根など):雲含有率 10〜20%
周囲の雲がまだ薄いため、地上の高級綿や鳥の羽とブレンドして作られる。しっかりとした反発力があり、旅の疲れを癒やすのに最適。
◆中層〜上層の宿場町:雲含有率 50〜80%
濃厚な雲が採取できるようになり、体が深く沈み込むような独特の浮遊感が味わえる。まるでマシュマロに包まれているかのような極上の柔らかさ。
◆天空の浮島(最上部):雲含有率 ほぼ100%
純度100パーセントの雲で練り上げられた究極の寝具。重力を一切感じさせず、文字通り「空に浮かんでいるかのような感触」に包まれて眠ることができる。
「なるほど……! 階段を登れば登るほど、布団のスペックまで上がっていくのか!」
僕は感心して布団をポンポンと叩いた。
含有率10パーセントの今の状態でも、バベルの街やアクアリアの宿の安ベッドとは比べ物にならないほど快適だ。これが50パーセント、100パーセントと上がっていったら、一体どれほどとろけるような寝心地になるのだろうか。
「浮島の純度100パーセントの雲布団……それは是が非でも味わってみたいですね」
「ええ、それはもう極楽の寝心地だそうですよ。ですが、あまりに気持ちよすぎて、浮島に辿り着いた旅人がそのまま何日も起き上がれなくなる『雲酔い』という言葉もあるくらいですから、お気をつけて」
女将さんはくすくすと笑いながら、部屋を後にした。
美味しい山の幸を使った夕食を平らげ、僕は再びふかふかの布団に潜り込んだ。
これまでは、いつ魔物に襲われるか分からないヒリヒリとした野営や、硬いベッドでの仮眠ばかりだった。しかし今は、不思議な弾力を持つ雲の布団が、僕のバキバキの筋肉を優しく解きほぐしてくれる。
「……最高だな、この旅」
ただひたすらに上を目指すだけの単調な道のりかと思いきや、そこには「寝心地の進化」という極上のロマンが待っていた。
次に待つ第二の宿場町では、どんな名物と、どれほど含有率の上がった布団に出会えるのだろう。
そんな期待に胸を膨らませながら、僕は10パーセントの雲の感触に抱かれ、泥のように深い眠りへと落ちていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆(解体作業)のモチベーションが爆上がりします!
ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!




