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■第63話 天を穿つ白亜の大階段と、第一の宿場町『雲根(くもね)』

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


気楽な寺院で開かれた『青色の鍵』による光のポータル

その門をくぐった僕を待っていたのは、大空へのダイブでも理不尽な罠でもなく、途方もない規模の『道』だった。


「……すごいな、これ」


視界が晴れると、僕は巨大な山のふもとのような場所に立っていた。


そして目の前には、見上げる首が痛くなるほどの高みへと続く『大階段』がそびえ立っていたのだ。

階段は、大理石のように滑らかで美しい白亜の石で造られている。幅は馬車が三台並んで走れそうなほど広く、両脇には長い年月をかけて無数の旅人に撫でられ、角が丸く艶やかになった石の欄干が続いている。


その巨大な白い螺旋は、はるか上空の分厚い雲海を突き抜け、さらにその先にあるだろう『天空の浮島』を目指して、天の柱のように堂々とそびえ立っていた。

入り口の古い立て札には、達筆な字でこう書かれている。


『これより天への大階段。浮島まで、徒歩にて約十日の道のり。足元と息切れにご注意を』

「十日間の階段登りか……。体力勝負の超長距離登山だな」


僕は重厚な純銀の鎧を鳴らし、白亜の階段に足を踏み出した。

この道を行き交うのは、僕のような冒険者だけではない。大きな背負子を下ろして汗を拭う行商人、杖をつきながら一歩一歩踏みしめる巡礼者のような老夫婦、そして「雲の上の街に行くんだ!」とはしゃぐ子供の手を引く家族連れ。


荷運び用なのか、アルパカとヤギを合わせたような巨大でモフモフした獣(空毛獣というらしい)が、のんびりと首のベルを鳴らしながら歩いている。


過酷なダンジョンではなく、一般の人々が空と地上を行き来するための「生活の道」なのだ。

普通の人なら数段登るだけで息が上がるような傾斜だが、バケモノ級に成長した基礎ステータスを持つ僕にとっては、平地を歩くのと何の変わりもない。


周囲の旅人たちが「ひぃ、ふぅ」と荒い息を吐きながら休んでいる横を、全身銀鎧の男が涼しい顔で、時には二段飛ばしでサクサクと登っていく姿は、かなり異様に映ったことだろう。

眼下に広がる地上の景色が徐々に小さくなり、吹き抜ける風が少しずつ冷たさを帯びてきた頃。


「……ん? なんだか、すごくいい匂いがするぞ」


白亜の石の匂いと乾いた風の匂いに混じって、甘く香ばしい醤油の焦げる匂いや、湯気と共に漂う出汁の香りが鼻をくすぐった。

さらに階段を数十段登ると、視界がパッと開けた。

そこは、階段の途中が巨大な踊り場――いや、ちょっとした広場のように横に大きくせり出したエリアだった。


「いらっしゃい、いらっしゃい! 焼きたての『雲海まんじゅう』だよー!」

「浮島行きの旅人さん、宿は空いてるかい? 絶景の足湯で疲れを癒やしていきな!」

「おおっ……! まるで時代劇の宿場町じゃないか」


そこは、白亜の大階段の途中にへばりつくようにして築かれた、第一の宿場町『雲根くもね』だった。

木と石を組み合わせて作られた二階建て、三階建ての風情ある建物が、階段の傾斜に沿ってズラリと軒を連ねている。


店先には赤や青の鮮やかな提灯が風に揺れ、色とりどりの日除けオーニングが張られている。道端では、階段を登り疲れた旅人たちが縁台に腰掛け、モフモフの空毛獣たちが水飲み場で喉を潤していた。


ダンジョンの途中に、こんなにも活気と生活感にあふれる商店街があるなんて。

常に殺伐とした魔物との死闘を繰り広げてきた僕にとって、この温かい情景は新鮮な驚きだった。


「そこの立派な銀の鎧のお兄さん! 階段登ってきて疲れただろ? お茶でも飲んでいきな!」


湯気を立てる大きな蒸し器の前に立つ、割烹着姿のふくよかなおばちゃんに声をかけられ、僕は吸い寄せられるようにお茶屋の縁台に腰を下ろした。


「おばちゃん、その『雲海まんじゅう』を一つと、温かいお茶をちょうだい」

「あいよっ! 出来立ての熱々だから、火傷しないようにね!」


竹の皮に乗せて出された『雲海まんじゅう』は、その名の通り雲のように真っ白でフワフワの生地だった。一口かじると、中から上品な甘さの熱い餡子あんこがトロリと溢れ出し、冷え始めた体にじんわりと染み渡る。


「はぁ〜……美味い。ポーションの味気なさとは大違いだ」


温かいお茶をすすりながら、僕は賑わう宿場町の景色を眺めた。

ここから天空の浮島に至るまで、こうした宿場町が第二、第三といくつも存在し、それぞれに名物や特色があるという。


「天空の物語(第五部)の前に、まずはこの『天への道中』を存分に楽しませてもらうとしようか」


一攫千金や命がけの死闘は少しお休みだ。

美味しいものを食べ、様々な人とすれ違い、空へと続く無限の階段を登っていく。僕の第四部の冒険は、かつてないほど穏やかで、情緒あふれる「観光旅行」として幕を開けたのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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