■第61話 迷宮踏破の報告と、天文学的なオークション
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
海神の使いから『天空の浮島』への鍵を受け取った僕は、再び大水門へと向かって浮上を開始した。
行きは未知の暗闇に警戒しながら進んだ深層も、帰り道となればただの長いプールだ。『水流推進のブーツ』を全開にし、ドロドロの第5層から一気に海面へと飛び出した。
「ぷはぁっ! 終わった終わった!」
心地よい潮風を胸いっぱいに吸い込み、僕は足取りも軽く冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの扉を蹴り開けると、相変わらず大勢の冒険者たちで賑わっていたが、僕の銀の鎧を見るなり、酒場からピタッと音が消え去った。
「あ、銀騎士のお兄さん……! お、おかえりなさい!」
カウンターの奥から、日焼け肌の受付嬢がどこか引きつった笑顔で出迎えてくれた。その後ろから、ギルドマスターが血相を変えてすっ飛んでくる。
「おお、戻ったか! ちょうどいいところへ! ジュエルタートルのオークションだが、とんでもないことになったぞ……!!」
「おっ、結果が出たんですね。どれくらいになりました?」
僕が呑気に尋ねると、ギルドマスターは額の汗をハンカチで拭いながら、声を震わせて言った。
「当初は王都の貴族や大富豪たちの間で競り合っていたんだが……途中で『王家』が直々に介入してきてな。最終的に、王国の国庫から直接支払われることになった」
「王家直買いですか。さすがは生きた神獣」
「それで、落札額なんだが……」
ギルドマスターは周囲の冒険者たちに聞こえないよう、カウンター越しに僕の耳元へ顔を寄せ、信じられない桁の数字を囁いた。
「……は?」
「金貨や白金貨で渡されても持ち歩けんレベルだ。だから、王家直属の『特級無制限ギルドカード』を発行してもらった。これさえあれば、世界中どの街のギルドや商会でも、城をいくつ建てようが一生涯使い切れないほどの支払いが可能になる」
そう言って渡されたのは、鈍く輝く黒金で出来た一枚のカードだった。
「……えっと、つまり僕、もう冒険者やらなくてもいいくらいの大富豪になっちゃったってことですか?」
「『大富豪』なんてチャチな言葉で収まる額じゃない。その気になれば、この水上都市アクアリアを丸ごと買い取ることもできるぞ」
周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちが、その言葉のニュアンスから察したのか、「ひぃっ」と息を呑んで一歩後ずさった。
一攫千金のロマンを求めて釣りをしてみたら、まさかの国家予算レベルの資産を釣り上げてしまったらしい。
「まぁ、お金があるに越したことはないですけど、僕の目的は迷宮探索ですからね。ありがたく貰っておきます」
僕は黒金のカードを、国宝級の『七色の真珠』が入っているポーチにポイッと無造作に放り込んだ。
「そ、それだけか!? 普通なら腰を抜かすか、狂喜乱舞するところだぞ!?」
「いや、実はこっちの方が重要でして」
僕は腰のポーチから、海神の使いから受け取った『青色の鍵』を取り出し、カウンターにコトリと置いた。
「これ、第5層の奥にいた『海神の使い』から貰った、次の迷宮へ進むための鍵です。ということで、海溝の迷宮の踏破報告をお願いしますね」
その瞬間、ギルドマスターと受付嬢の動きが完全に停止した。
酒場にいた冒険者たちも、彫像のように固まっている。
「……第5層の、奥……?」
「ええ。ドロドロの単細胞生物の海域を抜けた先に、綺麗な石の扉がありまして。そこでテストに合格したら貰えました」
数秒の恐ろしい沈黙の後。
「た、たたた、単独で海溝の迷宮の最深部を完全踏破ぁぁぁっ!?」
ギルドマスターの絶叫が、アクアリアの街中に響き渡る勢いで爆発した。
「ば、馬鹿な! あそこは数十人の特級パーティーが何ヶ月もかけて挑むような死地だぞ!? それを、たった数日で……しかも生きたジュエルタートルを引きずり帰りながら!?」
「いやぁ、バフポーションを重ね掛けして、筋力でゴリ押したら意外となんとかなりました」
僕が笑って答えると、受付嬢は白目を剥いてカウンターに突っ伏し、ギルドマスターは天を仰いでブツブツと何事か(おそらく現実逃避)を呟き始めた。
「あ、あの! 銀騎士様……!!」
すると、奥の酒場から一人の冒険者が震える声で立ち上がった。
「その青い鍵は、伝説に聞く『天空の浮島』へ至るための転移鍵……! まさか、次は空へ向かわれるのですか!?」
「おっ、詳しいですね。ええ、そのつもりです」
僕が頷くと、冒険者たちは一斉に「おおおおっ!!」と地鳴りのような歓声を上げた。
バベルの下層を踏破し、海溝の迷宮の深淵を暴き、そして生きた神獣を釣り上げた規格外の銀騎士。そんな男が次に目指すのが「天空」だと知れば、彼らのテンションが上がるのも無理はない。
「……ふふっ、本当に規格外なお兄さんですね」
気を取り直した受付嬢が、尊敬と呆れが入り混じったような笑顔で僕のギルドカードに『海溝の迷宮・完全踏破』の刻印を打ち込んだ。
「これでお兄さんは、名実ともにこの大陸でトップクラスの冒険者です。天空の浮島は、海よりも過酷な環境だと聞いています。どうか、お気をつけて」
「ありがとう。この街の魔道具とコーティングのおかげで、本当に助かりました」
僕はギルドの皆に軽く手を振ると、無限の資産が入った黒金のカードと、空への鍵を胸に、ギルドを後にした。
向かう先は一つ。
この街を離れる前に、僕の最大のスポンサーである『気楽な寺院』の神官ちゃんに、一番の報告とお別れの挨拶をしに行かなければならない。
海風が心地よく吹き抜ける中、僕の足取りはどこまでも軽かった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆(解体作業)のモチベーションが爆上がりします!
ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!




