■第133話 泥だらけの洗礼と、夜の街での甘い経験
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念願の『根こそぎのお手軽スコップ』を手に入れ、意気揚々と魔道具屋を後にした僕は、その足で冒険者ギルドへと向かった。
「受付ちゃん、今日の換金をお願いするよ」
カウンターに麻袋をドンッと置く。中身を確認した受付ちゃんは、最初は「ひゃっ!?」と短い悲鳴を上げた。
「こ、これは『千年樹の根』に、伝説の『微睡みマンドラゴラ』!? しかも傷一つない完璧な状態じゃないですか! は、初めての探索でこんな激レア素材を掘り当ててくるなんて、やっぱり銀騎士様は規格外すぎます……っ!」
興奮気味に身を乗り出す受付ちゃん。しかし、彼女の視線が僕の全身――泥だらけのガントレットや、あちこちに土がこびりついた純銀の鎧――へと移ると、その表情はクスリと微笑ましいものに変わった。
「ふふっ……でも、その泥だらけのお姿。さてはスコップを持たずに素手で掘りましたね? そして、帰りの道中でまったりオーラに当てられて『寝落ち』しましたね?」
「うっ……なんで分かるのさ」
図星を突かれて僕がたじろぐと、受付ちゃんはクスクスと笑いながら換金の手続きを進めてくれた。
「この街に来たばかりの初心者さんが必ず通る『洗礼』ですからね。素手で泥だらけになって、ポーションの配分を間違えて道で寝っ転がるのは、ギルドでもよくある笑い話なんです。でも、次からはバッチリですね!」
「うん、さっき一番いいスコップを買ってきたところだよ」
ギルドでの換金を終え、桁違いの金貨を受け取った僕は、続いて『平和な寺院』へと向かった。
「一般人様ぁ……お待ちしておりましたぁ」
「神官ちゃん、今日の寄進だよ。あと、採取してきた薬草のお裾分け」
僕が金貨と『星屑草』などの珍しい薬草を渡すと、神官ちゃんはとろんとした目で微笑んだ。
「わぁ……ありがとうございますぅ。でも一般人様、お顔に泥がついてますよぉ……ふぁぁ。洗礼、お疲れ様でしたぁ。新しい『気付けのポーション』、たっぷりお渡ししておきますねぇ」
ここでも完全にバレバレだった。
どうやら、泥だらけで帰還する冒険者は、この街ではすっかり見慣れた「微笑ましい光景」らしい。気恥ずかしさを感じながらも、僕は神官ちゃんから新しいポーションを受け取り、宿屋へと帰還した。
宿屋に戻った僕は、すぐさまお湯を張った木桶の風呂に飛び込み、鎧の汚れと全身の泥、そして疲れをさっぱりと洗い流した。
「ふぅ……サッパリした。さて、どうしようかな」
まだ日は落ちたばかりだ。
戦闘の疲労(筋肉痛や怪我)はないものの、精神的なまったりオーラとの戦いで妙な気疲れはしている。
せっかく新しい街に来たのだし、夜の『まったりの街』を少し散策してみるのも悪くないだろう。
僕は鎧を置き、身軽な私服に着替えて夜の街へと繰り出した。
昼間ののどかな雰囲気とは裏腹に、夜のまったりの街は、淡い色のランタンが灯り、どこか艶やかで甘い空気が漂っていた。
特に大通りを一本裏に入った路地――いわゆる『歓楽街』のエリアは、ピンク色や紫色のネオンに似た魔力灯が怪しく輝き、甘ったるい香水の匂いが漂ってきている。
「へえ、平和な街かと思ってたけど、こういう大人の場所もしっかりあるんだな」
物珍しさにキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。
「そこのお兄さん。どこかお店、探してるの?」
声をかけられ振り返ると、そこには露出の多い、透けるようなネグリジェ風のドレスを纏った妖艶な美女が立っていた。
サキュバスの血でも引いているのか、その瞳はとろけるように甘く、豊満な胸元が夜の灯りに艶かしく照らし出されている。
「あ、いや。ただの散歩で――」
「ふふっ、誤魔化さなくてもいいのよ? その歩き方、今日ダンジョンで『まったりオーラ』に当てられて疲れちゃったんでしょ?」
美女はスッと距離を詰め、僕の腕に柔らかい胸を押し付けるようにして絡みついてきた。
「私たちの『ピンクのまったりオーラ』で、ダンジョンの疲れとは違う、もーっと甘くて気持ちいいリラックス……経験していかない?」
耳元で囁かれる艶やかな声。
普段の僕なら、こういう露骨な客引きにはドギマギして逃げ出してしまうところだ。
だが……ふと、あの心優しきボス『ギガント』が言っていた言葉が脳裏をよぎった。
『戦い、打ち倒すことだけが冒険ではない。それを学ぶ、良い機会となるだろう』
(……そうだよな。魔物を倒すことだけが冒険(経験)じゃない。この平和な街の、こういう夜の文化を味わってみるのも、一つの立派な『経験』じゃないか)
バケモノステータスで無双し、泥臭く土を掘り。
ならば今夜は、一人の男として、この街の夜の洗礼を受けてみるのも悪くない。
「……そうだね。それじゃあ、一晩だけ……君たちの『まったり』を教えてもらおうかな」
「嬉しい! それじゃあ、特別にたっぷり可愛がってあげるわね、お兄さん」
美女はパァッと花が咲いたような笑顔を見せ、僕の手を引いてピンク色の灯りが漏れる豪奢な店の中へと案内していった。
こうして僕は、ダンジョンとは全く違うベクトルで理性をとろけさせる、極上の『大人のまったり体験』へと足を踏み入れていった。
戦わないダンジョン攻略の夜は、かくも甘く、深く更けていくのだった。
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