■第129話 まったり空気と、気力勝負の奥地へ
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それでは、本編をお楽しみください!
黒猫の魔道具屋のお姉さんに乗せられるまま、僕は二つの素晴らしい(そして怪しい)魔道具を買い込んだ。
一つは、近くに珍しい鉱石があるとピコンピコンと光って震える『反応のツルハシ』。
もう一つは、珍しい薬草や植物の気配を察知すると、まるで磁石のようにそちらへぐいぐい引っ張ってくれる『誘導のハサミ』だ。
「これさえあれば、僕も今日から超一流の採取家だな!」
ホクホク顔で買い物を終えた僕は、ギルドで勧められた宿屋へと向かった。
宿の部屋は陽当たりが良く、ふかふかのベッドからは日向干ししたお日様の匂いがする。窓を開けると、街の人々がのんびりと挨拶を交わす声が聞こえてきた。街全体がどこかまったりとしていて、居心地が最高だ。
「はぁ……なんて居心地がいい街なんだろう……」
天空ダンジョンの緊迫感や、はじまりの迷宮の泥臭い集団戦が嘘のように、心が角の取れた丸いものになっていく気がした。僕はそのままベッドに倒れ込み、最高の心地よさの中でぐっすりと眠りについた。
翌朝。
スッキリと目覚めた僕は、買い込んだツルハシとハサミを背負い、いよいよ『まったりダンジョン』の探索へと繰り出した。
洞窟の入り口を抜けて内部へ足を踏み入れる。
薄暗いダンジョン内を警戒しながら進んでいくと――さっそく曲がり角の先で、何頭かのオークやスライムの群れとエンカウントした。
僕は反射的に『雲海の剣』の柄に手を伸ばそうとし……そして、ピタリと動きを止めた。
「……ん?」
オークたちは、地べたにゴロンと寝転がり、お腹を叩きながらフワーッとあくびをしている。スライムもぷよぷよと日陰で気持ちよさそうに揺れているだけだ。こちらに気づいても、チラッと見て「あ、人間か」とばかりにまた目を閉じてしまった。一切の殺気も、襲ってくる気配すらない。
そして、何より異常だったのは『僕自身』だった。
(……あれ? なんだか、剣を抜くの……すごく面倒くさいな)
胸の奥から湧き上がってくるのは、猛烈な「どうでもよさ」と、ポカポカとした幸福感だった。
戦うなんて野蛮だし、疲れるし、別に倒さなくても向こうも襲ってこないし、このまま横になってお昼寝したいな……そんな甘やかな思考が、頭の中をピンク色の雲のように満たしていく。
「……なるほど!!」
僕はぬるま湯に浸かったような頭で、ハッと理解した。
受付ちゃんが「討伐する必要がない」と言っていた理由。神官ちゃんが「目を覚ますためのポーション」をくれた理由。
このダンジョン全体に満ちているのは、挑戦者の戦意を根こそぎ奪い去る、恐ろしいまでの『まったり空間オーラ』なのだ! 魔物が襲ってこないから戦う必要がないのではない。人間も魔物も、全員がまったりしすぎて『戦う気分に全くなりえない』のだ!
「ははぁ……これはすごいな。平和そのものじゃないか……」
僕はすっかり毒気を抜かれ、鼻歌でも歌い出しそうなポカポカした気分のまま、観光気分でダンジョンの奥へとブラブラ歩いていった。
しかし、しばらく歩いたところで、僕は重大な問題にぶち当たった。
右手で持っている『反応のツルハシ』はシーンと静まり返ったままだし、左手の『誘導のハサミ』もピクリとも引っ張ってくれない。
「あれ……? おかしいな」
壁の岩肌や草むらを見渡してみるが、どこもかしこも削られた跡や、綺麗に摘み取られた痕跡ばかりだ。
(あ、そうか! 浅い階層の珍しい鉱石や植物は、他の冒険者たちに全部採取され尽くしちゃってるんだ!)
平和で安全なダンジョンだからこそ、誰でも浅い場所なら散歩感覚で入ってこられる。だから、入り口付近の貴重な資源は完全に狩り尽くされてしまっているのだ。
「うぅ……このままじゃ、ただのピクニックで終わっちゃうぞ……」
油断すると、今にもその場に座り込んでお昼寝を始めてしまいそうな強力な『まったりオーラ』が、僕の体と心を重く引っ張る。
「だ、ダメだ……! 頑張れ、僕! 呼吸を整えろ……!」
僕はほっぺたを両手でパンパンッ! と強く叩き、気合いを入れ直した。
天空の浮島を踏破し、百の軍勢をすり潰してきたこのバケモノ級の精神力を総動員して、強烈な脱力感に必死で抗う。
「くっ……! 負けるか! 珍しい素材を手に入れるまでは、引き返せないぞ……!」
忍び寄る猛烈な「まったり」の誘惑を振り払い、僕は気力をギリギリまで振り絞りながら、誰も踏み込んでいないであろうダンジョンのさらなる奥地を目指して、重い(けれど居心地の良い)一歩を踏み出すのだった。
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