■第125話 袋のネズミと、影からの無力化
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「――来やがったな」
見通しが悪く、周囲を鬱蒼とした木々に囲まれた、山道の中で最も目立たない暗がり。
商隊の足が不自然に緩んだその瞬間、前後の森から不気味な口笛の合図が響き渡った。
「へっへっへ……! 動くなよ、荷物を置いていけば命だけは助けてやる!」
ガサガサと笹藪を分けて姿を現したのは、数十人の野盗集団だった。
手に刀や斧、槍を握りしめ、獲物を完全に追い詰めたと信じ切っているニヤニヤ顔。彼らは僕たちの「討伐断念」の噂を完全に真に受け、護衛が冴えない新米冒険者数人しかいないと踏んで、油断しきった様子で距離を詰めてくる。
(……良し、誘い込みは完璧だ。だが、問題は『タイミング』だな)
僕は薄汚れたフードを目深に被り直し、息を殺して獲物の引きつけを待った。
今すぐ飛び出して正体を明かせば、彼らは「銀騎士がいる!?」とパニックを起こし、蜘蛛の子を散らすように山の中へ逃げ出してしまうだろう。広大な森林に散らばられれば、どれだけ足が速くても全員を捕まえるのは困難だ。
だからこそ、正体は決して明かさない。
野盗どもが商人や荷馬車に気を取られ、完全に『密着』するまで限界まで引きつける。
「おいおい、なんだこの腰抜けの護衛どもは! 震えて声も出ねえのか!?」
「手頃な獲物だったな! 荷物を改めろ!」
野盗たちがニヤつきながら、手の届く距離――僕たちの目と鼻の先まで完全に雪崩れ込んできた。
(――今だ!!)
相手の警戒心が完全にゼロになり、逃げ出す隙すらなくなったその瞬間。
僕は腰に下げていたボロボロの『ナマクラの鉄剣』には手を伸ばさず、素手で最前の野盗の懐へ潜り込んだ。
「なっ……!?」
野盗が驚愕の声を上げる間もなく、僕は先日身につけた『脱力と受け流し』を応用し、相手の突進の勢いをそのまま利用して腕を取り、くるりと支点にして地面へと叩き落とした。
ドスッ!
「ガハッ……!?」
人間離れした筋力など出していない。ただ相手の体重と勢いをそのまま石畳に叩きつけただけの、見事な投げ技。一瞬で脳揺れを起こした野盗は、白目を剥いて沈黙した。
「おい、何をやって――」
隣の男が慌てて刀を振り下ろしてくる。
僕はフードの影で冷たく目を光らせ、振り下ろされる刃の側面をガントレットの手甲で『ツン』と軽く弾いた。
キィン!
「うわっ!?」
完璧なパリング。刀はあらぬ方向へ跳ね上がり、がら空きになった男の顎下へ、最小限の力で手刀をトンッと滑り込ませる。
「……ッ!」
男は声も出せずに膝から崩れ落ちた。
殺さず、正体も明かさず、派手な大技(飛ぶ斬撃など)も使わない。
ただ「冴えない新米冒険者」を装ったまま、群がってくる野盗たちを、最小限の身体操作と受け流しで、まるでドミノ倒しのように次々と無力化(気絶)させていく。
「ひ、ひぃぃっ!? なんだこいつ、めちゃくちゃ強いぞ!?」
「逃げろ! 奴はただの駆け出しじゃ――」
異常事態に気づいた後方の野盗たちが、慌てて森へと引き返そうと踵を返した。
だが――遅い。
「逃がすわけないだろ!」
あらかじめ配置されていた熟練パーティの面々が、森の影から一斉に姿を現した。
「そこまでよ! 『アース・ウォール』!」
魔法使いのリーダーの魔法によって、野盗たちの背後の地面から巨大な土の壁が隆起し、退路が完全に遮断される。
「ガハハハ! 逃げ道はねえぞ、大人しくお縄につきな!」
タンクの大男が巨大な盾で退路を塞ぎ、支援魔法使いの遅延魔法が逃げ遅れた野盗たちの足を泥のように重くする。
「な、なんだと……!? 討伐隊は解散したんじゃ……っ!?」
完全に袋のネズミとなった野盗たち。
前からは「正体不明の謎の素手ゴロ新米」が無慈悲に仲間を気絶させていき、後ろは「熟練のプロたち」によって完全に封鎖されている。
「さあ、年貢の納め時だ」
僕はフードを軽く押し下げ、ニヤリと口角を上げた。
完璧な罠と手加減の受け流し。
逃げ場を完全に失った野盗集団は、一人として山へ逃げ込むことも叶わず、こうして一網打尽に捕縛されていくのだった。
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