■第124話 野盗との知恵比べと、囮の囮作戦
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「いっそのこと、諦めますか?」
ギルドの会議室。広げられた地図と被害状況の報告書を前に、僕がふと漏らした一言に、熟練パーティの面々と受付ちゃんは目を丸くした。
「あ、諦めるって……銀騎士様! 討伐の依頼を放棄されるということですか!?」
「いやいや、違うよ。受付ちゃん」
僕はニヤリと口角を上げ、机の上にドンッと両手をついた。
「『諦めたように見せかける』んだよ」
「……どういうことだい?」
魔法使いのリーダーが、興味深そうに身を乗り出してきた。
「今回の空振りで分かったのは、野盗どもはギルドや町の動き、つまり『僕たちの作戦』を監視し、完全に把握できる情報網を持っているってことだ。どこに囮がいるか、どこに討伐隊が伏せているか、全て筒抜けだったから、まんまと裏をかかれた」
「ああ、間違いないね。だからこそ厄介なんだが」
「だったら、その『情報網』を逆に利用してやるんだよ。奴らに『討伐隊はお手上げ状態で、警戒を解いた』と思い込ませる」
僕は地図の上の、今回被害に遭った裏ルートと、主要な街道の二箇所を指差した。
「まず、ギルドで大々的に『野盗討伐の作戦は失敗。ギルドは討伐を断念した』と噂を流す。同時に、僕や熟練パーティのみんなは、わかりやすく町で飲み歩いたり、別のダンジョンに潜ったりして『野盗から完全に手を引いた』アピールをするんだ」
「なるほど……。奴らの警戒を解かせるわけね」
魔法使いのリーダーが頷く。
「でも、それだけじゃ奴らは出てこない。だから、決定的な『エサ』を撒くんだ。……商人ギルドにお願いして、今度こそ本物の、超特大の『貴重な物資を積んだ商隊』を主要な街道に出発させる」
「ええっ!? 本物の物資をですか!? もしまた襲われたら、大損害になってしまいます!」
受付ちゃんが悲鳴を上げる。
「大丈夫だよ。その商隊の護衛には、いかにも『頼りなさそうな素人の冒険者』を配置しておく。野盗からすれば、討伐隊は解散し、護衛は素人、しかも積荷は超豪華。これ以上ない絶好のターゲットだ。確実に本隊を率いて襲いかかってくる」
「……なるほど。そこを一網打尽にするって寸法か。でも、銀騎士。俺たちが町で遊んでるアピールをしてたら、誰がその商隊を守って、野盗を捕まえるんだ?」
タンクの大男が首をひねる。
僕は、ニヤリと悪魔のような笑みを深めた。
「『僕が』だよ」
「は……?」
「町で遊んでいるアピールをする僕は『影武者』だ」
僕は自分の装備である『飛竜の雲海鎧』をコンコンと叩いた。
「この鎧は目立ちすぎる。これさえ誰かに着せて町を歩かせておけば、野盗の偵察係は『銀騎士は町にいる』と完全に錯覚する。そして本物の僕は、顔を隠して……そうだな、あの『頼りなさそうな素人の護衛』の一人として、商隊に紛れ込むんだ」
熟練パーティの四人が、ハッと息を呑んだ。
「囮の囮……! 討伐を諦めたと見せかけて、一番美味しい獲物の懐に、最高戦力を潜ませておくってわけね……!」
魔法使いのリーダーが、戦慄したように呟く。
「そういうこと。相手が知恵を回してくるなら、こっちはさらにその裏の裏をかいて、完全に油断したところを叩き潰す。これが、ダンジョンゲーマー流の『対人トラップ』だよ」
作戦の全貌を理解したギルドの面々は、興奮と緊張の入り混じった顔で強く頷いた。
「……面白いわね。やってやろうじゃない!」
「よし、俺がその重てえ銀の鎧を着て、町で豪遊してやるぜ!」
「商人ギルドへの手配と、噂を流す手はずは私が整えます!」
ギルドと熟練パーティの全面的な協力を得て、野盗を欺くための壮大な「騙し合い」の幕が上がった。
数日後。
ギルドの思惑通り、「討伐隊の解散」と「豪華な商隊の出発」の噂は、町中に、そして間違いなく野盗の情報網にも行き渡った。
そして決行の朝。
山間を抜ける主要な街道を、豪華な荷台を連ねた商隊がゆっくりと進んでいく。
その商隊の脇を歩く護衛の中には、薄汚れたフードを目深に被り、ボロボロの鉄剣を腰に下げた、いかにも冴えない新米冒険者――『変装した僕』が混ざっていた。
(さあ、来い……。今度こそ、逃がさないぞ)
僕はフードの下で鋭く目を光らせ、街道の周囲の森から放たれる『僅かな殺気』を、静かに待ち構えていた。
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