■第122話 山道の野盗と、包囲網の構築
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翌朝。
今日こそ『はじまりの迷宮』の最深部を攻略し、この町のボスを拝んでやるぞと意気込んで冒険者ギルドの扉を叩いた僕を待っていたのは、深刻な顔をした受付ちゃんだった。
「あ、銀騎士様! お待ちしておりました!」
「おはよう。さっそくダンジョンに潜りたいんだけど……どうかしたの? そんな怖い顔して」
僕が首を傾げると、受付ちゃんはカウンターから身を乗り出し、声を潜めて言った。
「実は、銀騎士様に折り入ってお願いしたい『指名依頼』があるのです。ダンジョン攻略でお忙しいところ大変心苦しいのですが……」
「指名依頼? 僕に?」
「はい。最近、この町へ続く山の中の街道に、質の悪い『野盗』の集団が頻繁に出没しているのです」
受付ちゃんが広げた羊皮紙の地図には、山を越える重要な交易ルートの数箇所に、赤いバツ印が書き込まれていた。
「野盗は、町へ物資を運ぶ商人の荷馬車を専門に狙って襲撃を繰り返しています。怪我人も多数出ており、このままでは町の物資が枯渇してしまいかねない甚大な被害が出ています」
「なるほど……それで、僕にその野盗の討伐をしてほしいってことか」
「はい。彼らは非常に統率が取れており、並の冒険者パーティでは返り討ちに遭ってしまいました。ですが、百の軍勢を一人で殲滅し、数々の実績を残された銀騎士様であれば、間違いなく野盗どもを一網打尽にできると、ギルドマスターも判断いたしまして……」
事情を把握した僕は、肘をついて真剣に思考を巡らせた。
「……受けるのは構わないんだけどさ、ただ山に入って探し回るだけじゃダメだと思うよ。野盗だってバカじゃない。僕みたいな重装備の冒険者がうろついてたら警戒して隠れるだろうし、もし僕一人で突っ込んで暴れたら、蜘蛛の子を散らすように山の中へ逃げ出してしまう。広大な森林で何十人も散らばって逃げられたら、僕にどれだけスピードがあっても全員を一人で捕まえるのは物理的に不可能だ」
僕の指摘に、受付ちゃんは「あ……っ」と息を呑んだ。
「おっしゃる通りです……! 逃げ出されたら、また別の場所で被害が出かねませんね……」
「でしょ? だから、ギルドとしてもしっかり作戦を練りましょう。奴らを確実に引きずり出すおとりと、逃げ道を完璧に塞ぐ包囲網が必要だ」
「わかりました! すぐにギルドマスターと、この依頼に協力できる熟練の冒険者たちを召集します!」
受付ちゃんは素早く奥へと走り、ギルドの作戦会議室が手配された。
集まったのは、先日迷宮の深層で僕と共闘した、あの完成された実力派パーティの面々だった。強力な魔法使いのリーダーをはじめ、熟練のタンク、凄腕の剣士、そして支援魔法使い。
「やあ、銀騎士。またあんたと組めるとは思わなかったよ」
タンクの大男が豪快に笑い、魔法使いの女性リーダーが地図を広げながら真剣な表情で言った。
「魔物と違って、人間は知恵が回るし往生際が悪いわ。逃げ足も速いし、手加減しながら全員を捉えるのは並大抵のことじゃない。だからこそ、私たち熟練が逃げ道を完璧に封鎖する役目を引き受けるわ」
「頼もしいね。で、どうやって奴らを誘い出す?」
ギルドマスターと魔法使いのリーダーを中心に、具体的な作戦が組み上げられていった。
まず、商人ギルドに協力を仰ぎ、幌で覆われた大型の荷馬車を用意する。
御者にはベテランの御者役に扮した冒険者を配置し、その外からは見えない荷台の中に、僕が身を潜めて潜伏するのだ。
「荷台の中に潜んでいれば、いくら僕が目立つ重鎧を着ていても外からは一切見えない。野盗どもが『カモが来た』と荷馬車を取り囲み、油断して襲いかかってきた瞬間に、僕が荷台から飛び出して前線を崩す」
「そして、その騒ぎと同時に、あらかじめ森の中に潜伏していた私たちが山道の前後と側面の退路を完全に遮断するわ。逃げようとする奴らは、私たちのタンクと足止め魔法で一切逃がさない」
対人戦の難しさを熟知している熟練パーティだからこそ、隙のない完璧な包囲網のプランが仕上がっていく。
「これなら完璧だね。一人も逃がさず、一網打尽にできる」
「決まりね。明日の早朝、山の街道で奴らを罠にはめましょう」
おとりの荷馬車の手配、潜伏の配置、そして綿密な合図の打ち合わせ。
熟練のプロたちとギルドの協力のもと、野盗集団を完全捕縛するための絶対不可避のトラップが完成した。
「よし、準備は整った。明日、野盗どもを残らず袋のネズミにしてやるとしよう」
ダンジョン最深部はお預けとなったが、プロ同士で緊迫感のある作戦を組み上げるこの感覚もまた悪くない。
僕たちは静かに作戦決行の翌朝を待つのだった。
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