■第119話 深層の戦闘と、完成された実力派パーティ
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『平凡な道場』の師範から教わった(物理的に走らされただけの)「脱力」の真意を理解し、完璧な受け流しを身につけた僕は、『はじまりの迷宮』のさらに奥深く、真の深層エリアへと足を踏み入れていた。
「ふむ……やっぱり力が抜けてると、周りの状況もよく見えるな」
現れるハイオークやオーガといった強力な上位種の群れも、相手の力を利用して体勢を崩し、最小限の力で急所をスッと断ち切る。バケモノじみた筋力に頼り切っていた頃よりも、はるかに静かで、かつ洗練された戦いができていた。
そんな時だった。
ズドォォォォンッ!!
前方の巨大な広間から、空気を震わせるような激しい爆発音と、統率の取れた怒号が聞こえてきた。
以前助けた初心者パーティのような、悲痛な叫び声やパニック状態の騒ぎではない。熟練の冒険者たちが、命懸けの戦場を正確にコントロールしている『プロの音』だ。
僕は気配を殺し、通路の物陰から広間の様子を窺った。
「そこ、押し込まれないで! タンク、斜めに弾いて! 剣士、右の遊撃を潰して!」
声の主は、パーティの最後方で指揮を執っている魔法使いのリーダーだった。
手にした立派な杖から次々と強力な炎や氷の魔法を放ち、敵の陣形を崩しながら、的確な指示を飛ばしている。その魔力操作の精度と判断の速さは、素人目に見てもかなりの使い手であることが分かった。
そして、その指示を受けて動く前衛の二人。
敵の猛攻を一身に受けているタンクの男は、見た目こそどこにでもいる『平凡な重戦士』だ。特別な魔法の盾を持っているわけでもない。
しかし、彼の動きを見た僕は思わず目を見張った。
(……すごい。正面から受けるんじゃなくて、盾の角度を微調整して、オーガの棍棒の威力を『横に流して』るんだ!)
まさに僕が今日、道場の師範の教えから実戦で掴み取ったばかりの『受け流し』の技術。それを、彼は長年の経験から体に染み込ませ、息をするように自然に使いこなしているのだ。
さらに、タンクが作り出した一瞬の隙を縫うように動く剣士。
彼もまた、派手な大技や魔法剣を使うわけではない『平凡な剣士』だ。だが、その足運びには一切の無駄がなく、力が綺麗に抜けた鋭い踏み込みから、敵の装甲の薄い関節や首元だけを正確に切り裂いている。
そして後方では、支援魔法使いが完璧なタイミングで前衛の二人にバフ(強化魔法)を掛け直し、細かな傷を即座に回復させている。
「……お見事だな」
僕は思わず、感嘆の息を漏らしていた。
彼らの個々の力は、決して規格外ではない。
僕のように、レベル28のバケモノ筋力で放つ『飛ぶ斬撃』で数十体を一瞬でミンチにするような、バグめいた暴力は持っていない。魔法使いのリーダーが放つ魔法も、天空ダンジョンの守護神が撃ってきたような天変地異レベルのものではない。
しかし、その「平凡な力」を極限まで練り上げ、四人の役割を完璧に噛み合わせることで、彼らは僕以上の効率と安定感で上位種の群れを次々と処理していく。
個人のステータスの暴力ではなく、積み重ねた経験と戦術によって生み出される『総合力の結晶』。
間違いなく、彼らはこの過酷な集団戦の迷宮を生き抜いてきた『本物の実力派パーティ』だった。
やがて、魔法使いのリーダーが放ったトドメの魔法が炸裂し、広間を埋め尽くしていた魔物の群れが完全に沈黙した。
「よし、戦闘終了! 周囲警戒を怠るな。すぐに解体に入るわよ!」
「おう!」
魔法使いのリーダーが凛とした声で指示を出すと、他の三人が流れるような動作で解体用ナイフを取り出し、魔石の回収に取り掛かる。戦闘後の一息つく間すら惜しむ、完璧なルーティンだ。
(初心者のひよっこたちを教えた後だからこそ、あの連携がいかに完成されたものかよく分かるよ)
隠れて覗き見を続けるのも不審者みたいで失礼だろう。
僕は剣を鞘にしっかりと収め、敵意がないことを示すために両手を軽く上げながら、ゆっくりと物陰から広間へと姿を現したのだった。
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