■第117話 無言の最終テストと、新たなる伝説の誕生
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それから数日。
僕の保護下に入った六人のひよっこパーティは、見違えるほどの成長を遂げていた。
「右からゴブリン三体! タンクくん、カバーお願い!」
「任せろ! 『シールドバッシュ』!」
「支援魔法くん、前衛二人に筋力アップを!」
「はいっ! 『パワー・ライズ』!」
薄暗い『はじまりの迷宮』の浅い階層。
三十体ほどのゴブリンとオークの混成部隊を前に、彼らは僕からの指示を待つことなく、自分たちで声を掛け合いながら完璧な陣形を維持していた。
タンクくんが大盾で敵の突進を止め、支援魔法くんが的確なバフを撒く。弓使いちゃんと魔法使いちゃんが後方から牽制し、できた隙に剣士くんと双剣使いくんが飛び込んで致命傷を与える。
前衛と後衛、そして物理と魔法。
見事なまでにバランスの取れた王道構成のフルパーティは、互いの長所を活かし、短所を補い合うことで、かつては手も足も出なかった集団戦を危なげなく処理できるようになっていた。
「……うん。これならもう、僕が口出しする必要はないな」
広間の隅で腕を組み、彼らの戦いぶりを眺めながら、僕は小さく頷いた。
彼らの実力は、すでにこの浅い階層を安全に踏破できるレベルに達している。これ以上僕が付きっきりで保護していては、かえって彼らの自立心を損なってしまうだろう。
全ての魔物を倒し終え、手際よく解体を済ませて息をつく六人に、僕は歩み寄った。
「みんな、お疲れ様。すごくいい連携だったよ」
「ありがとうございます、銀騎士さん! 俺たち、もう三十体くらいの群れなら全然怖くないっす!」
自信に満ちた笑顔を見せる双剣使いくんに、僕は静かに告げた。
「うん、その実力は本物だ。だから……次の部屋で、君たちに『最終テスト』を課すことにする」
「「「最終……テスト?」」」
六人がゴクリと息を呑む。僕は真剣な表情を作って言った。
「次の広間で魔物の群れと遭遇したら、僕は『一言も声を出さない』。一切の指示も出さないし、もちろん手助けもしない。君たち六人だけで、状況を判断して、指揮を執り、完全に自力で群れを殲滅してほしい。……それが出来たら、君たちは僕のサポートから『卒業』だ」
卒業。
その言葉の重みに、六人の顔つきがスッと引き締まった。
頼れる壁であり、指示を出してくれる師匠がいなくなる。完全な自分たちだけの力試し。
「……分かりました。俺たち、絶対にやり遂げてみせます!」
剣士くんがパーティを代表して力強く頷き、他の五人も決意に満ちた目で僕を見た。
そして、次の広間。
待ち構えていたのは、オークを主体とした四十体近い群れだった。
浅い階層にしては、かなり規模の大きな集団だ。
「グルルォォォッ!!」
魔物たちが一斉に咆哮を上げ、怒涛の勢いで押し寄せてくる。
僕は宣言通り、広間の入り口で腕を組み、口を真一文字に結んで完全に沈黙を貫いた。
(さあ、どう動く?)
一瞬だけ、彼らの間に緊張が走ったのが分かった。しかし、誰一人としてパニックを起こすことはなかった。
「みんな、落ち着いて! 陣形はいつも通りだ!」
剣士くんが大きな声で指揮を執る。
「まずは俺が止める! 来い、化け物ども!」
タンクくんが大盾を構え、最前線に立って魔物のヘイトを一身に集める。強烈なオークの突進を歯を食いしばって受け止めた。
「後方、撃ちます! 『ファイアボルト』!」
「私の矢に続いて!」
魔法使いちゃんと弓使いちゃんが、タンクくんを回り込もうとする敵の側面に正確な射撃を加え、足を止める。
「双剣使いくん、俺たちは遊撃だ! 崩れたところを叩くぞ!」
「おうよ! 支援魔法くん、バフ頼む!」
「『スピード・アップ』! いけます!」
支援魔法くんの風の魔法で加速した剣士くんと双剣使いくんが、弾丸のように敵陣へと突び込む。タンクくんが受け止め、後衛が崩した敵の死角を突き、確実に首を落としていく。
(……素晴らしい)
僕は声に出さず、心の中で拍手喝采を送っていた。
彼らは僕がいなくても、自分たちで戦況を把握し、お互いを信じて連携している。個々の力は弱くとも、六つの力が完璧に噛み合った時、それは集団戦において圧倒的な『軍隊』として機能するのだ。
数十分後。
誰一人欠けることなく、四十体のオークの群れは完全に沈黙した。
「はぁ……はぁ……っ。た、倒した……!」
「やった、私たちだけで勝てた……っ!」
へたり込みながらも、六人は互いの無事を確認し合い、歓喜のハイタッチを交わしている。
僕はゆっくりと歩み寄り、彼らの前で足を止めた。そして、満面の笑みで告げた。
「見事だったよ。文句なしの合格だ」
「「「銀騎士さん……っ!!」」」
「今日で、君たちは僕のサポートから卒業だ。もう立派な、一人前の冒険者パーティだよ。これからは自分たちの力で、この迷宮を攻略していける」
僕の言葉に、弓使いちゃんや魔法使いちゃんはポロポロと涙をこぼし、男の子たちも目を真っ赤にして、僕に向かって深く、深く頭を下げた。
「銀騎士さん……っ! 本当に、何から何までありがとうございました!」
「俺たち、絶対に強くなって、いつか銀騎士さんの背中に追いついてみせますから!」
「ああ、期待してるよ。君たちなら絶対に上に行ける」
こうして、偶然が重なって生まれたひよっこフルパーティは、見事に自立し、僕の手元から巣立っていったのだった。
だが、この一件は、これで終わりではなかった。
後日、冒険者ギルドはとんでもない騒ぎになっていた。
「おい、聞いたか!? あのゴブリンに泣かされてた連中が、自分たちだけでオークの群れを倒して帰ってきたらしいぞ!」
「あいつら、数日前まで武器の振り方も怪しかったド素人だぞ!? なんで急にあんな統制の取れたフルパーティに化けたんだ!?」
「決まってるだろ……『銀の騎士』だよ! あいつらが、銀騎士のサポートを受けてたんだ!」
ギルドの酒場は、彼らの急成長の話題で持ちきりだった。
バケモノ級のステータスで百の軍勢を一人でミンチにする圧倒的な強さ。
それに加えて――『どんな素人やポンコツの集まりでも、彼が数日サポート(指南)すれば、一瞬にして完璧な連携を見せる一人前のパーティに化ける』という事実。
その結果。
僕の意図しないところで、僕の二つ名に新たな『伝説』が加わってしまっていた。
『無双の戦士にして、超一流の指南役』。
「……あの、銀騎士様! お願いします、俺たちも弟子にしてください!」
「うちのパーティの戦術指導をぜひ! 報酬はいくらでも払いますから!」
「えええええっ……」
ギルドへ足を踏み入れるなり、かつての「パーティに入ってくれ」という勧誘とは全く別ベクトルの、「弟子入り志願」の冒険者たちが群を成して僕に土下座してきたのだ。
(ち、違う! 僕はただ、解体作業が面倒だったり、成り行きで壁役をやってたりしただけなのに!)
「い、いや! 僕はただのソロの一般人ですから! 弟子とか取りませんから!!」
僕は押し寄せる弟子入り志願者たちを丁重に(しかしバケモノ級の敏捷性で強引に)振り切り、逃げるようにしてギルドを後にした。
「はぁ……はぁ……。結局、また目立っちゃったな」
町の路地裏に逃げ込んだ僕は、大きなため息をつきながら、背中の純銀の剣にそっと触れた。
ひよっこたちを一人前に育て上げた達成感は、確かにあった。彼らの輝くような成長を見るのは、僕自身にとっても非常に有意義で楽しい時間だった。
でも、僕の本当の目的は、指導者として町でふんぞり返ることではない。
「さて、お遊び(サポート)はここまでだ。ここからは、また僕一人で……本当の『力の限界』を試しに行こうか」
面倒な後進育成(という名の勘違い伝説)を無事に終え、完全に身軽なソロへと戻った僕は、誰にも頼らず、ただ力と技のゴリ押しで突破する、迷宮のさらなる深淵へと再び足を踏み入れていくのだった。
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