■第114話 はじめての殲滅と、疲労困憊の帰還
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「ふぅ……これで、最後だっ!」
剣士くんが鋭くなった鋼の剣を振り下ろし、最後の一匹だったゴブリンがドサリと石畳に倒れ込んだ。
静寂が戻った広間。僕たちが迷宮に入って最初にエンカウントした三十匹のゴブリンの群れは、見事に全滅していた。僕からは一切攻撃をしていない。すべて、彼ら二人の力(と、僕の壁役としての受け流し)だけで突破したのだ。
「やった……! やりましたよ、銀騎士さん!」
「私、魔法を無駄撃ちせずに全部当てられました……!」
二人は歓喜の声を上げたのも束の間。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……っ!」
「も、もう……魔力、空っぽですぅ……っ」
剣士くんは剣を杖代わりにしてガクンと膝から崩れ落ち、魔法使いちゃんはペタンと床に座り込んで、肩で激しく息をし始めた。
無理もない。僕が壁役として攻撃を完全に逸らしていたとはいえ、レベル一桁の初心者の彼らにとって『三十匹』という数は異常だ。極度の緊張状態の中で、全速力で剣を振り、魔法の狙いを定め続ける。それは彼らの体力と精神力を、スポンジから水を絞り出すように完全に搾り取っていたのだ。
(ここでいきなりスタミナ無限の無双ができるようになるわけがない。これが本来の、普通の冒険者のリアルな限界だよな)
彼らがご都合主義的に覚醒するようなことはない。この疲労困憊の姿こそが、命がけの実戦を乗り越えた何よりの証拠だ。
「二人とも、よく頑張ったね。初めての集団戦にしては完璧な立ち回りだったよ」
僕が労いの言葉をかけると、二人は汗と泥にまみれた顔で、嬉しそうに、けれど力なく笑った。
「さあ、戦闘が終わったら『解体』の時間だ。魔石を回収しないとね」
「あ、はい……っ! やり、ます……!」
フラフラと立ち上がって解体用ナイフを握ろうとする二人を、僕は手で制した。
「いや、今日は僕がやるから、二人はそこで息を整えてて。初めての実戦で極限まで疲労してる時に生々しい解体作業までやらせたら、さすがにトラウマになっちゃうからね」
「す、すみません……お言葉に甘えます……」
僕は血の海となった広間でナイフを取り出し、手慣れた手つきでゴブリンたちの胸から魔石を素早くえぐり出していった。天空のイレギュラー魔物や、下層のアンデッドで鍛えられた僕の解体スキルにかかれば、下級ゴブリンの解体など流れ作業のようなものだ。
あっという間に三十個の魔石を回収し、血で汚れた手を布で拭う。
「よし、今日の探索はここまでにして、一度ダンジョンから出よう。町に戻って休憩だ」
僕がポーチを腰に下げてそう告げると、息も絶え絶えだった剣士くんが、ハッとして顔を上げた。
「えっ!? で、でも、まだ最初の広間を一つクリアしただけですよ……? 俺たち、もっと頑張れ……」
「ダメだ」
強がる剣士くんの言葉を、僕は優しく、しかし毅然とした態度で遮った。
「今の君たちは体力も魔力も完全に限界だ。そんな状態で奥に進めば、集中力が切れて致命的なミスをする。次は確実に命を落とすよ」
僕はしゃがみ込み、彼らの目線に合わせて真っ直ぐに言った。
「冒険者にとって一番大切なのは、魔物をたくさん倒すことじゃない。『絶対に生きて帰る』ことだ。自分たちの限界を正確に見極めて、勇気を持って撤退するのも、立派な実力のうちだよ」
「……限界を、見極める」
「そう。今日、君たちは自分の実力で三十匹の群れを突破した。それはものすごい経験値になってるはずだ。まずはしっかり休んで、また明日挑戦すればいい」
僕の言葉に、二人は悔しそうにしながらも、自分たちの体の重さを自覚しているのか、素直にコクリと頷いた。
「わかりました。……銀騎士さんの言う通りにします」
「ご迷惑をおかけして、すみません……」
「迷惑なんてとんでもない。僕も『力の受け流し』のいい特訓になったからね」
僕は立ち上がると、疲労で足元がおぼつかない二人に肩を貸した。
「さあ、帰ろうか。町に戻ったら、美味しいご飯を食べてゆっくり休むんだ」
こうして僕たちは、最初の広間をクリアしただけで『はじまりの迷宮』を後にした。
歩みは遅くとも、確実な一歩。
泥臭くも論理的な連携の第一歩を踏み出した僕たちの、新しいパーティでの冒険が少しずつ形になり始めていた。
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