■第113話 身の丈に合った装備と、壁となる銀騎士
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
翌朝。
『はじまりの迷宮』へ向かう前に、僕は剣士くんと魔法使いちゃんを町の大通りにある武具屋へと連れてきていた。
「あの……銀騎士さん。迷宮に行くんじゃなかったんですか?」
「その前に行くところがあるって言っただろ。二人とも、武器を見せてみて」
僕が促すと、剣士くんは恥ずかしそうに腰の鉄剣を抜き、魔法使いちゃんは抱えていた木の杖を差し出した。
見れば、鉄剣の刃はボロボロに欠けており、もはや「斬る」というより「叩く」ことしかできなさそうなナマクラになっていた。魔法使いちゃんの杖も、ただの木の枝に近く、魔力を増幅させるような機能は皆無だ。
「やっぱりな。昨日見た時から気になってたんだ。そんな刃こぼれした剣じゃ、倒せるはずのゴブリンも倒せないよ」
「うっ……それは、そうなんですけど……。俺たち、ポーションを買うのに精一杯で、装備を買い替えるお金なんてなくて……」
俯く二人に、僕はアイテムポーチから金貨を取り出してニヤリと笑った。
「心配するな。初期投資(パーティの経費)として、僕が立て替えてあげるよ。迷宮で稼いだ魔石で、少しずつ返してくれればいいから」
「えっ!? い、いいんですか!?」
「ああ。ただし、買うのは最高級品じゃなくて、今の君たちの『身の丈に合った装備』だ」
僕は武具屋の店主に声をかけ、二人に見合った装備を見繕ってもらった。
剣士くんには、刃こぼれしにくい頑丈な『鋼の剣』と、軽くて動きやすい『強化革鎧』を。魔法使いちゃんには、小ぶりだが純度の高い魔石が埋め込まれた『見習い魔導士の杖』と、サイズがピッタリと合った『防魔のローブ』を買い与えた。
「うわぁ……! すっげえ、刃がピカピカだ! 軽いのにしっかりしてる!」
「杖から、魔力がじんわり伝わってきます……! ローブも動きやすくて、すごくいいです!」
真新しい装備に身を包み、二人は目をキラキラと輝かせている。
「銀騎士さん、本当にありがとうございます! でも……銀騎士さんくらいお金持ちなら、もっとすごい魔法の剣とかも買えたんじゃないですか?」
剣士くんの無邪気な疑問に、僕は首を横に振った。
「今の君たちに、僕の持ってるような純銀やミスリルの武器を持たせたら、武器の切れ味に頼りきって『剣の振り方』が雑になる。まずは鋼の剣で、しっかり魔物の急所を狙って斬る感覚を体に覚えさせるんだ。それが、後々絶対に活きてくるからね」
それは、先日『平凡な道場』の師範から見放され、自分のゴリ押し戦闘を省みた僕だからこそ言える、実感を伴ったアドバイスだった。
「なるほど……! 深いです、銀騎士さん!」
「私たち、この装備で絶対に強くなります!」
「よし、準備は完璧だな。それじゃあ、行こうか」
真新しい装備でモチベーションが限界突破している二人を引き連れ、僕たちはいよいよ『はじまりの迷宮』へと足を踏み入れた。
洞窟の奥へ進むと、さっそく三十匹ほどのゴブリンの群れが奇声を上げて襲いかかってきた。
これまでの僕なら、バフポーションを飲んで真っ先に飛び込み、巨大な『飛ぶ斬撃』で一掃していただろう。だが、今日は違う。
僕は『雲海の剣』を鞘に収めたまま、前に出て両腕を構えた。
「いいかい、二人とも。僕からは攻撃しない。僕が一番前で敵の攻撃をすべて受け止めて弾くから、剣士くんはその隙を突いて確実に一匹ずつ倒すんだ。魔法使いちゃんは、剣士くんの死角から来る敵を魔法で牽制してくれ」
「は、はいっ!」
「わ、わかりました!」
「来いっ!」
「ギギャァァッ!」
ゴブリンたちの錆びた剣や棍棒が、雨あられと僕に降り注ぐ。
ガキンッ! カンッ!
『飛竜の雲海鎧』の圧倒的な防御力により、ダメージは皆無だ。だが、ただ棒立ちで受けていては後ろの二人に隙を作れない。
僕は迫り来る武器の軌道を見極め、最小限の動きでガントレットを使い、敵の攻撃を『逸らす』ことに集中した。
「いまっ! 剣士くん!」
「うおおおおっ!」
僕が棍棒を弾いて体勢を崩したゴブリンの懐へ、剣士くんが飛び込んで鋼の剣を突き刺す。新しい剣の鋭い切れ味が、ゴブリンの急所を確実にとらえた。
「魔法使いちゃん、右から三匹回るぞ!」
「ええいっ! 『ファイアボルト』!」
魔法使いちゃんの新しい杖から放たれた火の玉は、以前よりもひと回り大きく、回り込もうとしたゴブリンの顔面に命中して完全に足止めに成功する。そこをすかさず剣士くんが切り伏せた。
「すごい……! 剣がスッと入るし、銀騎士さんが前にいてくれるだけで、敵の動きがすごくよく見える!」
「私でも、落ち着いて魔法が当てられます……!」
彼らは決して才能がないわけではなかった。ただ、粗悪な装備と数の暴力に圧倒されてパニックになり、実力を発揮できていなかっただけなのだ。
身の丈に合った確かな装備と、強固な『壁(安心感)』があるだけで、二人の動きは見違えるように良くなっていった。
そして、僕はただ防御に徹している中で、あることに気がついていた。
(……あれ? 敵の攻撃を『逸らす』のって、力任せに弾き返すより、相手の力のベクトルに少しだけこちらの力を添えるようにした方が、はるかに楽に体勢を崩せるぞ?)
これまでは「100の力で殴られたら、200の力で弾き返す」という超脳筋な戦い方しかしてこなかった。
だが今、彼らが倒しやすいように「敵の体勢を崩す」ことだけを目的として、最小限の力で攻撃の軌道をズラすことに集中した結果――あの平凡な道場の師範が教えてくれなかった『力の受け流し(パリング)』の感覚を、図らずも実戦の中で掴みかけていたのだ。
「よし、二人ともその調子だ! 僕はどんどん敵の体勢を崩していくから、落ち着いて確実に仕留めていこう!」
「はいっ!!」
僕の『省エネ戦闘』への新たな発見と、ひよっこ二人組の確かな成長。
一人きりで孤独にすり潰していた迷宮の群れが、今は少し違った景色に見えていた。広間にゴブリンの死体の山が築かれていく中、僕たちの息の合った連携は、確かな手応えとともに深まっていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆(解体作業)のモチベーションが爆上がりします!
ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!




