■第112話 平凡な寺院の頼み事と、ひよっこ二人組
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上位種がうごめく迷宮の奥地で、泥と魔物の返り血にまみれながらの過酷な解体作業を終えた僕は、ずっしりと重い麻袋を担いで地上へと帰還した。
冒険者ギルドでハイオークやホブゴブリンの極上魔石を換金すると、受付嬢は「ついに上位種の群れまでお一人で……」と頭を抱えていたが、僕は苦笑いでそれを受け流し、いつものように町のはずれにある『平凡な寺院』へと向かった。
「こんにちは、神官ちゃん。今日も寄進に来たよ」
カラン、と控えめなベルの音を鳴らして中に入ると、おさげ髪の素朴な神官の少女が、パタパタと小走りで出迎えてくれた。
「あ、銀騎士様! お疲れ様です、お待ちしておりました!」
「うん。今日も体力回復ポーションにお世話になったよ。ストックの補充をお願いできるかな」
僕が麻袋から魔石を取り出そうとすると、神官ちゃんは「はい、もちろんです!」と頷きつつも、どこか言い淀むようにチラチラと僕の背後――いや、寺院の隅にある長椅子の方へと視線を向けた。
「……ん? どうしたの?」
僕が振り返ると、そこには見慣れない二人組の若い冒険者が、肩を落としてどんよりと座り込んでいた。
使い込まれて刃こぼれした鉄剣を腰に下げた、いかにも新米といった風貌の少年。そして、安物のローブを着て、身の丈に合わない木の杖を抱きしめている少女だ。二人とも泥だらけで、どこかひどく疲弊しているように見える。
「あの……実は、銀騎士様にお願いしたいことがありまして」
神官ちゃんが声を潜め、困ったような眉をして僕に耳打ちをしてきた。
「あの子たち、この町に来たばかりの駆け出しの冒険者なんですけど……『はじまりの迷宮』の集団戦にすっかり心を折られてしまって。ポーションを買いに来るたびに、傷だらけで泣きそうになっているんです」
「ああ、なるほど……」
僕は納得して頷いた。
あの迷宮は、個々の魔物は平凡でも、三十、五十という異常な数の暴力で押し潰してくる過酷な場所だ。初心者の二人組では、最初の広間を抜けることすら至難の業だろう。
「ギルドが推奨している六人パーティを組めばいいんじゃないの?」
「それが、あの子たちまだレベルも低くて装備も貧弱なので、他の中堅パーティからは『足手まといになる』と断られてしまうらしくて……。でも、二人ともすごく真面目でいい子たちなんです」
神官ちゃんはギュッと両手を握りしめ、僕を上目遣いで見つめた。
「銀騎士様は、あの迷宮をたったお一人で奥深くまですいすい進まれていると伺っています。もしよろしければ……あの子たちの迷宮探索の面倒を、少しだけ見てあげていただけないでしょうか?」
「面倒を、僕が?」
僕は思わず自分の顔(兜)を指差した。
初心者の面倒を見る。
その言葉を聞いて、真っ先に脳裏をよぎったのは、先日『お試し』で組んだ四人組のパーティのことだった。僕のバケモノ級の殲滅スピードと、それに伴う膨大な解体作業の負担に耐えきれず、彼らはメンタルを壊して去っていってしまった。
(また他人を巻き込んだら、同じことの繰り返しになるんじゃないか……?)
僕は断ろうとして、口を開きかけた。
だが、その時。迷宮の奥深くで一人、硬いハイオークの死体を解体していた時にふとよぎった、あの感情が胸の奥に蘇ってきたのだ。
『……こんな時、肩を並べて戦ってくれる仲間がいたら、もっと楽なんだろうな』
前衛の僕と、完璧な連携でサポートしてくれた、あの小さな相棒(魔法少女ちゃん)の記憶。
(……待てよ。前回のパーティが失敗したのは、僕が『自分のペース』を相手に強要して、作業を押し付けたからだ)
もし、僕が前に出てすべてを殲滅するのではなく、彼らのペースに合わせたらどうだろうか?
僕が前衛で強固な『盾』となって魔物の群れを食い止め、安全な状況を作り出した上で、彼ら自身に魔物を倒させる。僕はあくまで『サポート役』に徹するのだ。
そうすれば、僕自身の無駄なスタミナ消費も抑えられるし、彼らも安全に実戦経験とレベルを積むことができる。何より、大量の死体の山が築かれることもないから、解体地獄で精神を壊すこともない。
「(……彼らをサポートする側に回れば、僕の『省エネ戦闘』の新しい糸口(発見)が見つかるかもしれないぞ)」
論理的に考えて、試してみる価値は十分にある。
「……分かりました。僕でよければ、彼らの面倒を見ましょう」
「本当ですか!? ありがとうございます、銀騎士様!」
神官ちゃんがパァッと顔を輝かせる。
僕は長椅子で項垂れている二人組の元へと歩み寄った。
「君たち、迷宮の集団戦で苦労してるんだって?」
僕が声をかけると、少年と少女はビクッと肩を揺らし、僕の『飛竜の雲海鎧』の威圧感に少しだけ後ずさった。
「あ、はい……。俺、剣士をやってて……こっちは魔法使いなんですけど……。あの、もしかして、あなたが噂の銀騎士さん、ですか?」
「そんな大層なもんじゃないけどね。神官ちゃんから頼まれたんだ。明日から、君たちの迷宮探索に僕も同行するよ」
僕がそう告げると、剣士くんと魔法使いちゃんは信じられないものを見るように目を丸くした。
「ほ、本当ですか!? あの銀騎士さんが、俺たちのパーティに!?」
「でも……私たち、本当に弱くて、すぐにゴブリンに囲まれちゃって……足手まといに……」
不安そうに俯く魔法使いちゃんに、僕は優しく(兜越しだが)首を横に振った。
「足手まといになんてさせないよ。僕は君たちの敵を全部倒してあげるわけじゃない。君たちが自分たちの力で群れを突破できるように、僕が『壁』になって全力でサポートする。だから、安心して戦えばいい」
「銀騎士さん……っ!」
剣士くんと魔法使いちゃんの顔に、希望の光がパッと灯った。
ただの圧倒的な暴力で迷宮をすり潰すソロ冒険者から、新米を導くサポート役へ。僕の泥臭い原点回帰の旅に、新たな仲間たちとの、少し新鮮な共同戦線が幕を開けようとしていた。
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