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■第110話 解体地獄の限界と、ソロへの原点回帰

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


「おーい、皆さん! また奥の部屋でオークとトロールの群れを百体ほど片付けましたよ! 解体、お願いしまーす!」


僕が爽やかに声をかけると、血の海と化した広間の奥から、四人の冒険者たちがゾンビのような足取りで現れた。


お試しで結成した分業制パーティでの迷宮探索、三度目の挑戦。

僕にとって、この数日間はまさに『天国』だった。戦闘で息が上がれば『体力回復ポーション』で一瞬にしてスタミナを全快させ、また次の群れへと飛び込んでいく。面倒な死体の処理はすべて後ろの四人がやってくれるため、僕はただ純粋に「剣を振るうこと」だけに集中できたのだ。


「……ぎ、銀騎士、さん……」


リーダーのガルドが、力なく僕の前に歩み寄ってきた。


初日は「最高の条件だ!」と喜んでいた彼の顔は、今や土気色に染まり、目の下には深いクマが刻まれている。他の三人も同様で、魔法使いの女性に至っては、魔物の返り血と泥で元のローブの色が分からないほどドロドロになり、虚ろな目で虚空を見つめていた。


「どうしました? まだ半分も進んでませんよ。もっとペース上げましょうか?」

「…………む、無理だ」

「え?」


ガルドは持っていた解体用ナイフを、カラン……と石畳に落とした。

そして、その場にガックリと両膝をつき、絞り出すような声で言ったのだ。


「もう……限界だ……。頼む、銀騎士さん……これ以上は、俺たちの精神メンタルが保たねえ……っ!」

「ええっ!? だって皆さん、後ろで安全に解体してるだけじゃないですか。怪我もしてないし……」


僕が驚いて尋ねると、後方でへたり込んでいた斥候シーフの青年が、半泣きで叫んだ。


「その『解体』が地獄なんだよ!! 普通のパーティなら、一日の探索で倒す魔物はせいぜい数十体だ! それをみんなで手分けして解体するから保つんだよ!」


「でもアンタ……」と、魔法使いの女性がうわ言のように続ける。


「ポーション飲んで、一瞬でスタミナ回復して……休む間もなく、百体、二百体って平気で魔物の山を築き上げていくじゃない……。私たち、冒険者であって、魔物の食肉加工業者じゃないのよぉぉっ……!」


彼女の悲痛な叫びに、僕はハッとした。

確かに、物理的なスタミナは『体力回復ポーション』で無限にリセットできる。僕自身は戦闘の疲労を全く感じていない。

だが、彼らにはそんなチートポーションはない。それに、何百体もの生々しい魔物の死体を切り裂き、血と内臓の悪臭にまみれながら魔石をえぐり出し続けるという作業は、人間の精神を確実に、そしてゴリゴリと削り取っていくのだ。


「銀騎士さん……あんたの強さは本物だ。だが、あんたのペースに付き合ってたら、俺たちは魔物に殺される前に、血の匂いと過労で頭がおかしくなっちまう……!」


ガルドは深く頭を下げた。


「本当に申し訳ない……! パーティの話は、なかったことにしてくれ……!」

「あ……」


土下座せんばかりの彼らを見て、僕はようやく自分の『常識のズレ』を完全に理解した。


天空ダンジョンで光になって消える魔物に慣れきっていたせいで忘れていたが、僕が倒しているのは実体のある魔物であり、それを処理するのは普通の人間なのだ。僕の「永久機関」のペースに、普通の人間の精神力が追いつけるわけがなかった。


「……いや、謝るのは僕の方です。皆さんの負担を軽く見積もりすぎてました。本当にごめんなさい」


僕は剣を鞘に収め、彼らに向かって深く頭を下げた。

これ以上、彼らに僕の異常なペースを強要するのは酷というものだ。


「分かりました。パーティの話はここで終わりにしましょう。今日のドロップ品は、慰謝料として皆さんが全部持っていってください」

「ぎ、銀騎士さん……! うぅっ、すまねえ……! あんた、バケモノだけど本当にいい人だ……!」


四人は涙ぐみながら感謝の言葉を口にし、そそくさと(しかしホッとしたような顔で)迷宮の出口へと帰っていった。


静まり返った広間に、僕一人だけが残された。

周囲には、まだ魔石を回収していない数十体の魔物の死体が転がっている。


「……ふぅ。結局、振り出しに戻っちゃったな」


僕は誰にも聞こえない独り言を呟きながら、ため息をついた。

分業システムは理論上は完璧だったが、僕という『前衛の火力がバグっている』せいで、後衛の処理能力が完全にパンク(オーバーフロー)してしまったのだ。


「やっぱり、他人に頼ろうとしたのが間違いだったんだ」


僕は腰のポーチから、自分の解体用ナイフを静かに取り出した。

他人のペースを気にすることなく、気兼ねなく限界まで暴れ回り、その責任(解体)もすべて自分で背負い込む。

それが、泥にまみれてステータス一桁から這い上がってきた僕の、唯一にして絶対の『最適解』なのだ。


「よーし……やるか!」


僕は気合を入れ直し、血の海へと膝をついた。

たった一人で魔物の胸を裂き、魔石をえぐり出す。臭いも汚れも、すべて独り占めだ。でも、不思議と先ほどまでの「煩わしさ」は消え去っていた。


「自分の手で稼いだ魔石だと思うと、やっぱり愛着が湧くよな」


一人でコツコツと解体作業を続けながら、僕は泥臭い笑顔を浮かべた。

結局のところ、僕はどこまでいっても『ソロ冒険者』なのだ。

気楽な寺院で貰ったポーションの力と、バケモノ級のステータス、そしてこの純銀の相棒があれば、他に何もいらない。


完全なるソロへの原点回帰。

吹っ切れた僕は、終わりの見えない解体作業を黙々とこなしながら、次なる階層での大乱戦に向けて、静かに闘志を燃やすのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、

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