■第109話 銀騎士の噂と、お試しパーティ結成
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
大量の魔石が入った麻袋を担ぎ、僕は冒険者ギルドの扉を押し開けた。
その瞬間、ギルド内のざわめきがピタッと止まり、数十人の冒険者たちの視線が一斉に僕の純銀の鎧へと突き刺さった。
「……出たぞ! 噂の銀騎士だ!」
「おい、マジであの三人組が言ってた通り、血の匂いが染み付いてるぜ……!」
どうやら、僕が護衛(という名の解体アシスタント)をして無事に地上へ送り届けたあの三人組が、酒場で盛大に僕の武勇伝を語りふけっていたらしい。
『信じられるか!? あの銀の鎧の兄ちゃん、百体の軍勢のど真ん中に一人で突っ込んでいって、息一つ切らさずに全部ミンチにしちまったんだぞ!』
『俺たちはただ後ろを付いて歩いて、ひたすら死体の山から魔石をえぐり出させられたんだ……! あの人は騎士なんかじゃない、無尽蔵の体力を持った迷宮のバケモノだ!』
そんな尾ヒレ(事実だが)のついた噂が、たった数時間でギルド中に知れ渡っていたのだ。
「あー……また悪目立ちしちゃったな」
僕が小さくため息をつきながらカウンターへ向かおうとすると、周囲のテーブルから屈強な冒険者たちが次々と立ち上がり、僕の前に立ち塞がった。
「おい、銀騎士! あんた今、固定のパーティは組んでないんだろ!? 俺たちの『鉄牛の牙』に入らねえか! 報酬の取り分はあんたを一番多くしてやる!」
「待て待て! うちのパーティには優秀な回復術師がいるわよ! 前衛でいくら無茶しても、絶対に死なせないからうちに入りなさい!」
「いや、うちの『黒狼団』こそ……!」
あっという間に、僕の周りには人だかりができ、右からも左からも熱烈なパーティへの勧誘の嵐が巻き起こった。
(うわぁ、面倒くさいことになったぞ……)
これまでの僕なら、人間関係の煩わしさを嫌って「ソロなんで結構です」と即座に全て断っていただろう。
しかし、今日ばかりは少しだけ考えが違った。
(いや、待てよ。ソロの気楽さは最高だけど、あの数百体規模の『解体作業』の精神的苦痛は、どう考えても僕一人のキャパシティを超えている……)
物事には必ず原因と結果、そして最適解がある。
スタミナの問題はポーションで解決できたが、作業効率(解体)の問題はソロである以上どうしても解決できない。ならば、完全に論理的かつ合理的な判断として、「前衛での殲滅作業」と「後衛での解体・サポート作業」を完全に分業化するシステムの構築が必要だ。
要するに、試しにどこかのパーティに所属して『テスト稼働』してみるのも、今後の効率化を考えれば決して悪い手ではない。
「ええと、皆さん。少し静かにしてもらえますか」
僕が両手を上げて制止すると、冒険者たちは唾を飲み込んで静まり返った。
「誘っていただいて光栄なんですが、僕の戦い方はかなり特殊です。とりあえず、一日だけ『お試し』で組んでみて、お互いのやり方が合うかどうかテストしてみませんか?」
僕が『お試し加入』を提案すると、冒険者たちは色めき立った。
その中から、僕はあえて一番バランスの取れていそうな、男女四人組の中堅パーティを指名した。盾役、魔法使い、弓使い、斥候が揃っているが、火力を出す純粋なアタッカーが不足していそうな構成だ。
「よし、じゃあそこの四人組の皆さん。明日一日、よろしくお願いします」
「ほ、本当に俺たちでいいのか!? ありがてえ! 俺はリーダーのガルドだ。よろしく頼むぜ、銀騎士!」
リーダーのガルドと固い握手を交わし、僕はさっそく彼らとギルドの隅のテーブルで『役割分担(システム要件の定義)』のすり合わせを行った。
「それじゃあ、迷宮での動き方を確認しておきましょう。基本的には、僕が単独で敵陣に突っ込んで、すべての魔物を殲滅します」
「……え? 俺たち前衛が盾になって、銀騎士の負担を減らすんじゃないのか?」
「いえ、連携しようとすると僕の剣の射線が塞がって、逆に効率が落ちるんです。皆さんは安全な後方から、魔法や弓で漏れた敵を牽制してください。そして一番重要なのは……」
僕は身を乗り出し、真剣な顔で四人の目を見つめた。
「戦闘終了後の『魔物の解体と素材回収』を、すべて皆さんにお任せしたいんです。もちろん、ドロップした魔石や素材は規定通り、平等に五等分で構いませんから」
「なっ……! そ、そんな条件でいいのか!? 危険な戦闘は全部あんたが引き受けて、俺たちは後ろで見てて解体するだけで、報酬は平等なんて……!」
ガルドたちは信じられないというように顔を見合わせた。
彼らからすれば、破格すぎる好条件だろう。だが、僕にとっては『最も面倒で精神を削られる作業を完全にアウトソーシングできる』という、理にかなった最高の取引なのだ。
「はい。お互いの利害が一致するなら、これでいきましょう。百の軍勢だろうが、僕が全部切り伏せますから」
「……分かった。そこまで言うなら、俺たちも全力でサポートと解体をさせてもらうぜ!」
こうして、極端なまでに役割を完全に切り分けた『お試しパーティ』が結成された。
翌日。
再び『はじまりの迷宮』の奥深くへ足を踏み入れた僕たちは、さっそくオークとゴブリンの混成部隊、約百体の群れと遭遇していた。
「さあ、テスト稼働の開始だ!」
僕は『上級バフポーション』を呷り、純銀の剣を抜いて敵陣のど真ん中へと単騎で突撃した。
「飛べぇぇぇぇっ!!」
ズバァァァァァァンッ!!
巨大な三日月型の『飛ぶ斬撃』が広間を薙ぎ払い、一振りで二十体以上の魔物が血飛沫を上げて崩れ落ちる。
「おいおい……マジかよ。あんなバケモノみたいな斬撃、人間が出せる威力じゃねえぞ……!」
「す、すごい……! 本当に私たち、何もしなくていいのね……!」
後方で待機していたガルドたちが、呆然と立ち尽くしている。
「皆さん、ぼーっとしてないで! 後ろから回り込もうとしてるコボルトを弓で牽制してください! 陣形を崩されると面倒です!」
「ハッ! お、おう! おい、魔法使い! 右翼を炎で塞げ! 弓使いは足止めだ!」
僕の指示で我に返った彼らが、的確なサポート魔法と弓矢の援護を放つ。
これまでは完全に孤立無援の乱戦だったが、後方からの完璧な牽制があることで、僕の『飛ぶ斬撃』の狙いはさらに研ぎ澄まされ、恐ろしいほどのペースで敵の数を減らしていくことができた。
息が上がれば『体力回復ポーション』を飲み、一瞬でスタミナを全快させて再び剣を振るう。
そして、十数分後。
広間を埋め尽くしていた百体の魔物は、すべて物言わぬ死体の山と化していた。
「ふぅ……よし、戦闘終了! 皆さん、解体作業お願いします!」
僕が剣の血振るいをして鞘に収めると、ガルドたち四人は顔を引きつらせながらも、解体用ナイフを握りしめて死体の山へと向かっていった。
「うおぉぉっ……! 話には聞いてたが、この数の解体を自分たちでやるって、想像以上に地獄だな……!」
「文句を言うな! 銀騎士があれだけ命懸けで戦ってくれたんだ、俺たちは約束通り、完璧に素材を回収するぞ!」
血と泥にまみれながら、必死に魔石をえぐり出していく四人。
その様子を安全な岩場に座って眺めながら、僕は水筒の水を美味そうに飲み干した。
(……最高だ。自分の手を一切汚さずに、スタミナと時間を次の戦闘のためだけに温存できる。このシステム、控えめに言って完璧じゃないか)
ソロの気楽さも捨てがたいが、論理的に構築された分業制のパーティ戦闘も、これはこれで悪くない。
「お試し」で加入したパーティでの迷宮探索は、僕にとって新たな効率化への扉を開く、非常に有意義な実証実験となったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白い!」「次も読みたい!」「ヒョロガリ頑張れ!」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆(解体作業)のモチベーションが爆上がりします!
ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!




