■第108話 絶体絶命のパーティと、最高の解体アシスタント
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『体力回復ポーション』という名の永久機関を手に入れた僕は、スタミナ切れの不安から完全に解放され、はじまりの迷宮を意気揚々と突き進んでいた。
「ふっ! はぁっ! そぉいっ!!」
現れる数十体の群れなど、もはや立ち止まる理由にすらならない。
バケモノ級の筋力で放たれる『飛ぶ斬撃』で前衛の肉の壁ごと後衛のアーチャーを吹き飛ばし、息が上がればオレンジ色のポーションを呷って疲労をリセットする。
まさに「力こそパワー」を体現したゴリ押しの快進撃だ。
だが、その進軍の途中で、僕は前方から聞こえてくる激しい剣戟の音と、悲痛な叫び声を耳にした。
「くそっ、数が多すぎる! 魔法使い、魔力はまだ保つか!?」
「もう限界よ……! 囲まれた、陣形が崩れるっ!」
薄暗い広間へ駆け込むと、そこには三人組の冒険者パーティ(剣士、魔法使い、斥候らしき身軽な青年)が、百体近いゴブリンやオークの軍勢に完全に包囲されていた。
剣士の盾はひしゃげ、魔法使いの杖からは弱々しい火の粉しか出ていない。典型的な「数の暴力」に押し潰される寸前の、絶体絶命の状況だ。
(ギルドが六人以上のフルパーティを推奨する迷宮に、三人で挑んで囲まれたのか。無茶しやがって)
とはいえ、目の前で人が魔物の群れにすり潰されるのを見過ごすわけにはいかない。
僕はポーチから『上級バフポーション』を抜き出して一気飲みし、全身の筋肉を爆発的にパンプアップさせた。
「そこ、伏せて!!」
僕が広間の入り口から大声を張り上げると、三人組は驚きつつも条件反射でその場にしゃがみ込んだ。
「飛べぇぇぇぇっ!!」
僕はバケモノ筋力のすべてを乗せ、『雲海の剣』を真横に思い切り振り抜いた。
純白の刀身から放たれた超巨大な三日月型の『飛ぶ斬撃』が、三人組の頭上を通り抜け、彼らを包囲していたオークとゴブリンの群れをまとめて真っ二つに薙ぎ払った。
ズバァァァァァァンッ!!!
生々しい肉の裂ける音と共に、数十体の魔物が一瞬にして血を噴き出して崩れ落ちる。
突然現れた銀色の重戦士が、たった一振りで軍勢の半数を消し飛ばした光景に、残った魔物たちはパニックを起こして蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
「ふぅ……間一髪だったな。大丈夫ですか?」
僕が『雲海の剣』の血糊を払いながら近づくと、へたり込んでいた三人組は、信じられないものを見るような目で僕を見上げた。
「あ、あんた……たった一人で、この大群を……?」
「命の恩人です……! 本当に、ありがとうございます……っ!」
彼らは土下座せんばかりの勢いで感謝の言葉を口にした。
見れば、三人の装備はボロボロで、体力も魔力も完全に底を突いている。この状態で迷宮の奥へ進むのは自殺行為だし、自力で地上へ帰還するのすら難しいだろう。
「この迷宮は集団戦が基本ですからね。三人じゃキツいでしょう。出口まで僕が護衛しますから、一緒に帰りましょうか」
僕がそう提案すると、三人は安堵の表情を浮かべた。
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます……! でも、俺たちもうポーションも尽きてて、戦う力が残ってなくて……」
「護衛の足手まといになっちゃうわ」
申し訳なさそうに俯く彼らを見て、僕は広間に散乱する『数十体の魔物の死体』に目を向けた。そして、これ以上ないほど邪悪で(そして僕にとっては最高に合理的な)名案を閃いた。
「いや、戦わなくていいんです。その代わり……出口まで送る条件として、一つだけ『お手伝い』をお願いできませんか?」
「お手伝い……ですか? 俺たちにできることなら何でもやります!」
剣士の青年が力強く頷くのを確認し、僕はニヤリと笑って、腰のポーチから『解体用ナイフ』を三本取り出して彼らに手渡した。
「この迷宮、魔物を倒しても光になって消えないんですよね。だから、出口まで僕が魔物を全部倒す代わりに……『素材の回収(解体)』、全部やってもらえませんか?」
これこそが、僕の最大の悩みだったのだ。
体力回復ポーションのおかげで物理的なスタミナは無限だが、何百体もの魔物を血と泥にまみれて解体する『精神的疲労』だけはどうにもならなかった。
だが、彼らが解体を請け負ってくれるなら、僕はただ何も考えずに剣を振るうだけでいいのだ!
「えっ……こ、この数を、全部ですか?」
「出口まで倒した分も全部です。もちろん、ドロップした魔石は半分譲りますから」
「や、やります!! 命には代えられません!!」
かくして、利害関係が完全に一致した僕たちの奇妙な帰還行が始まった。
「グルルォォォッ!!」
帰り道、血の匂いに釣られて新たなオークやトロールの群れが次々と襲いかかってくる。
だが、解体作業という精神的苦痛から完全に解放された今の僕は、かつてないほど絶好調だった。
「はははっ! さあ来い! 今日はいくらでも叩き斬ってやるぞ!!」
ズバァァッ! ズバァァァァンッ!!
「飛ぶ斬撃」を惜しげもなく連発し、群れを文字通り「ミンチ」に変えていく。息が上がれば即座に『体力回復ポーション』を呷り、一瞬で疲労をリセットしてまた突撃する。
一切のペース配分を無視した、暴走機関車のような大立ち回りだ。
その後ろでは、助けた三人組が顔を真っ青にしながら、僕の通った後にできる死体の山にナイフを突き立てていた。
「ひぃぃっ……! な、なんだあの銀の騎士は!? 全然止まらないぞ!」
「魔力も体力もどうなってるの!? 早く解体しないと、次の死体の山が積み上がるわよ!」
「うえぇぇっ、もう血の匂いで鼻が曲がりそうだ……!」
彼らは文字通り頭から血と泥を被りながら、必死で魔石と素材をえぐり出していた。
命の危険こそないものの、それはそれで別のベクトルの『地獄』だったに違いない。
「おーい、後ろの三人! 次の群れ片付けたから、解体よろしくー!」
「は、はいぃぃっ! すぐ行きますぅぅっ!」
数時間後。
迷宮の出口に辿り着いた時、僕の足取りは驚くほど軽かった。
ポーチの中には彼らと山分けした大量の魔石が詰まっており、しかも自分で解体をしていないため、精神的な疲労度は実質ゼロだ。
一方で、護衛対象だった三人組は、魔物の血と体液で全身ドロドロになり、ゲッソリと頬をこけさせて地面にへたり込んでいた。
「お疲れ様! 最高の解体アシスタントだったよ。おかげですごく助かった!」
僕が爽やかに笑いかけると、彼らは虚ろな目で力なく頷いた。
「あ、ありがとうございました……生きて帰れただけでも、感謝……します……ガクッ」
精も根も尽き果てた彼らを見送りながら、僕は満面の笑みで大きく伸びをした。
無尽蔵の体力と、面倒な作業をアウトソーシングできる最高の環境。
『はじまりの迷宮』での泥臭い集団戦も、こうして僕なりの「力と効率の最適解」を見つけたことで、ますます痛快な無双劇へと変わっていくのだった。
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