■第104話 百の軍勢と、気力勝負の大乱戦
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「おおおおおっ!!」
僕は血に濡れた『雲海の剣』を構え、百体の魔物がひしめく絶望的な包囲網の中心へと自ら飛び込んだ。
先陣を切って突っ込んでくるのは、丸太のような腕を振り回すオークと、素早い動きで足元を狙うコボルトの混成部隊だ。
だが、僕の心は驚くほど冷静だった。ダンジョンゲーマーとしての思考が、この大乱戦の『セオリー』を瞬時に弾き出していた。
(落ち着け。例え百体が一度に襲ってきたとしても、僕の周囲を取り囲んで『同時に攻撃してこられる』のは、物理的なスペースの限界でせいぜい三体程度だ!)
「ふっ!」
正面から棍棒を振り下ろしてくるオークの攻撃を半歩のステップで躱し、そのまま刃を返し、横から飛びかかってきたコボルトごと一刀両断にする。
ズバァァッ! と生々しい血飛沫が上がり、二体の魔物が重い音を立てて石畳に倒れ込んだ。
僕が倒した魔物の死体が障害物となり、後続の魔物たちの進軍ペースがほんの一瞬鈍る。
(そうだ、ただただこの波状攻撃を乗り切るだけだ。押し潰されさえしなければ、勝機は十分にある!)
さらに、僕が敵陣のど真ん中に突っ込んで完全な『乱戦』状態に持ち込んだことで、もう一つの大きなメリットが生まれていた。
「ギギャァァッ!」
「グォォォンッ!」
奥で弓を構えていたゴブリン・アーチャーや、呪術の詠唱を始めていた後衛の魔物たちが、完全に動きを止めて右往左往しているのだ。
敵味方が入り乱れる極限の乱戦の中では、遠距離からの攻撃は味方に当たる危険が大きすぎて、全く狙いが定まらないのである。
後衛の無力化に成功した今、残るは目の前に次々と押し寄せる肉の壁を切り崩すのみ。
あとはもう、純粋な『気力の勝負』だ。
「そぉいっ! はぁっ! そこだっ!」
斬って、弾いて、また斬る。
『飛竜の雲海鎧』の防御力に任せて多少の掠り傷は無視し、僕はひたすらに剣を振り続けた。
骨を断ち切り、分厚い筋肉を裂く。光になって消えることのない魔物たちの死体が足元に積み上がり、足場は血と泥でぬかるんでいく。
「グォォォォォッ!!」
群れの奥から、ひときわ巨大なトロールが、仲間の死体ごと僕をすり潰そうと巨大な棍棒を振り下ろしてきた。
「甘いっ!!」
僕はバケモノ級の筋力を脚に込め、血まみれの床を蹴って跳躍。棍棒を躱し、トロールの無防備な太い首へ向かって、全体重を乗せた一撃を叩き込んだ。
ゴシャァァァンッ!!
「……ギ、ガ……」
トロールの巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。
それを最後に、僕を取り囲んでいた魔物たちの動きがピタリと止まった。
リーダー格を失い、さらに自分たちの半数以上がただの肉塊に変えられた現実を前に、残った魔物たちの本能が「恐怖」を訴えたのだ。
「……次、来るなら容赦しないぞ」
僕が血に染まった剣を横に振り払い、低く凄みのある声で威嚇すると、残党のゴブリンやコボルトたちは蜘蛛の子を散らすように洞窟の奥へと逃げ去っていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
静寂が戻った広間に、僕の荒い息遣いと、剣先から滴り落ちる血の音だけが響く。
「終わった……」
僕は『雲海の剣』を杖代わりにして、その場にどっかりと座り込んだ。
足元には、数十体もの魔物の死体が折り重なり、凄惨な血の海を作っている。
「……さすがに、キツいな」
レベル28のステータスと『上級バフポーション』の恩恵があっても、これだけの数の実体を持った魔物と真っ向から殺し合うのは、精神的にも肉体的にも尋常ではない疲労を伴う。
天空ダンジョンのように、数回剣を振るえば綺麗な魔石だけが残るスマートな戦闘とはわけが違うのだ。
「最初の波を乗り切ったことだし、一度ここで休憩しよう……」
僕は血の付いていない比較的綺麗な岩場を見つけ、背中を預けて大きく息を吐き出した。
この調子で連戦しては、いくら僕でも体力が持たない。
それに、目の前にはこれから処理しなければならない数十体分の『解体作業』が山積みになっているのだ。
ポーチから水筒を取り出し、乾いた喉を潤しながら、僕は静かに呼吸を整える。
ごまかしのきかない、泥臭くて生々しい『はじまりの迷宮』の洗礼。王道にして過酷なダンジョンの洗礼を乗り越えた僕は、次の波と解体地獄に備え、暗い洞窟の中で静かに体を休めるのだった。
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