■第103話 平凡な宿の温もりと、血みどろの大乱戦
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それでは、本編をお楽しみください!
ギルドでの情報収集を終えた僕は、町で一番評判の良いという『木漏れ日亭』という宿屋にチェックインした。
天空の高級宿や和風旅館のような派手さはないが、よく磨かれた木の床と、清潔なシーツが敷かれた質素なベッドが心地よい、いかにも「冒険者の宿」といった風情の部屋だ。
「よし、まずは腹ごしらえだな」
食堂に降りて注文したのは、この町近郊で採れた野菜とオーク肉をじっくり煮込んだ『平凡なシチュー』と、焼き立ての黒パン。
雲海牛のような口の中でとろける暴力的な旨味はないが、野菜の甘みと肉のしっかりとした歯ごたえが、疲れた胃袋にじんわりと染み渡る。
「美味い……。こういう素朴な味も、たまには悪くないな」
食後は宿の共同浴場(当然ながら混浴などではない、普通の男湯だ)で汗を流し、部屋に戻ってベッドに身を投げる。
「うおっ……硬っ!」
含有率100パーセントの無重力雲ベッドに慣れきっていた体にとって、地上の普通の綿のベッドは「板間」のように硬く感じられた。
しかし、土と木の匂いがするこの硬い感触が、僕に「地上に帰ってきたんだ」という確かな実感を湧き上がらせ、不思議と深い安心感を与えてくれた。
「明日は、いきなり集団戦か……楽しみだな」
僕は少しだけ痛む背中をさすりながら、目を閉じて静かな眠りについた。
翌朝。
万全の準備を整えた僕は、町の郊外にある巨大な洞窟――『はじまりの迷宮』の入り口に立っていた。
「よし。行くぞ!」
腰のポーチから『上級バフポーション』を取り出して一気に飲み干し、僕は薄暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。
コツ、コツ、と石畳を歩く足音が響く。ダンジョンの内部は、松明の明かりが等間隔で灯る、いかにも王道RPGのダンジョンといった造りだ。
最初の広間に差し掛かった瞬間、奥の暗がりから無数の赤い目がこちらを一斉に見据えた。
「ギギャァァァァッ!!」
鼓膜を劈くような奇声と共に、錆びた剣や棍棒を持った『ゴブリン』の群れが怒涛の勢いで押し寄せてきた。
その数、ざっと三十匹以上。
「いきなり三十匹のお出まし!? 確かに数は多いけど……一匹一匹は最弱クラスだろ!」
僕は『雲海の剣』を抜き放ち、バケモノ級の敏捷性で群れの中心へと飛び込んだ。
「ふっ!」
ズバァァァッ!!
純白の刃が一閃するたびに、ゴブリンたちの緑色の皮膚と骨が断たれ、生々しい鮮血が石畳にブチ撒かれる。天空の魔物のように光の粒子となって消えることはない。僕の剣が通った後には、紛れもない現実の命のやり取りの痕跡――『魔物の死体の山』が築き上げられていった。
「ははっ、カモネギだな! これなら余裕――」
三十匹の群れをあらかた切り伏せ、ホッと息をついたその瞬間だった。
「グルルルォォォッ!!」
「なっ!?」
広間の左右の隠し通路から、今度は丸太のような腕を持つ『オーク』の集団が二十匹ほど、地響きを立てて突進してきたのだ。
しかもその後方には、弓矢を構えた『ゴブリン・アーチャー』たちが陣形を組んで控えている。
「なるほど、これが『軍隊みたいな連携』か!」
最初の三十匹は、僕の体力を削り、隙を作るためのただの『捨て駒(前衛)』だったのだ。
休む間もなく襲い来るオークの突進を剣でいなし、飛んでくる矢の雨を鎧で弾きながら、僕は素早く思考を切り替えた。
(一匹ずつ相手にしてたらキリがない。奥のアーチャーどもごと、まとめて片付ける!)
「そぉいっ!!」
僕はオークの巨体を蹴り台にして高く跳躍し、空中で『雲海の剣』を大上段に構え、バケモノ筋力のすべてを乗せて振り下ろした。
「飛べぇぇぇぇっ!!」
ズバァァァァァァンッ!!!
剣の軌跡から放たれた巨大な三日月型の『飛ぶ斬撃』が、オークの群れと奥のアーチャーたちを巻き込み、広間ごと一掃する。肉の裂ける生々しい音と共に、第二陣の魔物たちも全て物言わぬ骸となって地に伏した。
「ふぅ……。魔法少女ちゃんの前では隠してたけど、やっぱこの技、乱戦じゃクソ便利だな」
血の海と化した広間を見渡し、僕は額の汗を拭った。
だが、安堵したのは本当に一瞬だけだった。
――ドドドドドドドッ!!
「……おいおい、冗談だろ?」
迷宮のさらに奥深くから、洞窟全体を揺るがすような地響きが迫ってきた。
そして、広間の奥の巨大な通路から姿を現したのは――
ゴブリン、オーク、コボルト、そして巨大な棍棒を持ったトロール。
異種族の魔物たちが完全に統制された陣形を組み、僕というたった一人の侵入者をすり潰すために進軍してきたのだ。
その数、およそ百体。
「……ギルドの受付嬢さん、あんたの言ってたこと、完全に理解したよ」
個の力は平凡でも、百の『軍隊』となれば話は全く別だ。
前衛の肉の壁、中衛の槍撃、後衛からの弓矢と呪術。息つく暇もない波状攻撃が、僕を完全に包囲しようとしている。そして何より、これだけの数を倒せば、後には百体分の死体が残り、その全てから魔石を『手作業でえぐり出す』という精神を削る解体作業が待っているのだ。
「六人以上のフルパーティ推奨か……上等じゃないか」
僕はポーチから追加のバフポーションを引っこ抜き、歯で栓を飛ばして一気飲みした。
筋肉が限界を超えて熱を帯び、闘争心が沸点に達する。
「天空を制した俺のステータスのゴリ押しが、数(物量)の暴力にどこまで通じるか……試してやるよ!!」
僕は血に濡れた『雲海の剣』を両手で強く握りしめ、百体の魔物の軍勢が待つ絶望の包囲網へと、一人で歓喜の雄叫びを上げながら突撃していった。
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