■第102話 平凡な寺院と、集団戦の迷宮
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町に足を踏み入れた僕は、まずは情報収集も兼ねて、この町に神様が用意してくれているはずの『補給所(寺院)』を探すことにした。
「手頃、適当、気楽、怠惰、と来たら……この町はどんなネーミングなんだろうな」
活気ある市場を抜け、少し落ち着いた住宅街の奥に、こぢんまりとしたレンガ造りの建物を見つけた。入り口に掲げられた看板には、特にクセのない普通の文字でこう書かれている。
『平凡な寺院』
「……うん。ある意味、一番神様らしくない普通の名前だな」
僕は扉を開けて中に入った。
中は木目調で清潔感があり、祭壇にはごく普通の女神像が祀られている。お香の匂いも強すぎず、弱すぎず、まさに『平凡』そのものだ。
「いらっしゃいませ。当寺院へようこそ」
奥から現れたのは、これまでの個性強めの神官ちゃんたちとは違い、どこにでもいそうな村娘といった風貌の、おさげ髪の素朴な神官の少女だった。
「あ、こんにちは。別の街から来た冒険者なんですけど、寄進したらポーションって貰えますか?」
「はい、もちろんです! 神様から『チート能力のない一般人様』のことは伺っておりますよ。この町での冒険にお役立てください!」
彼女はニコッと笑うと、祭壇の奥から見慣れた『上級バフポーション』と『特級回復薬』の入った木箱を持ってきてくれた。
「よかった、ちゃんとシステムは生きてるみたいだ。……あれ? この町特有の特殊なポーションはないの?」
これまでは『水棲』や『フライ』『浄化』など、ダンジョンの環境に合わせた特殊なポーションが用意されていたが、今回は見当たらない。
「ええ。この町にある『はじまりの迷宮』は、魔法のギミックや特殊な地形などがない、本当に平凡な洞窟ダンジョンですから。特殊なポーションは必要ない、と神様が仰っていました」
「なるほど、純粋な物理戦闘になるってことか。それはそれで分かりやすくていいな」
僕はバベルの道中で狩った魔石をいくつか寄進し、たっぷりとポーションのストックを確保して、平凡な寺院を後にした。
次に向かったのは冒険者ギルドだ。
建物の造りこそ第一部の辺境の街と似ているが、中にいる冒険者たちの数は多く、活気に満ち溢れていた。
「すみません、この町のダンジョンに潜りたいんですけど」
「いらっしゃいませ! ギルドカードの確認を……えっ!?」
カウンターの受付嬢に黒金のギルドカード(天空ダンジョン踏破の刻印入り)を提示すると、彼女は目を丸くして驚愕の声を上げた。
「て、天空の浮島を踏破された、あの銀騎士様ですか!? なぜこのような辺境の平凡な町へ!?」
「いや、王道RPGみたいな平凡なダンジョンで、ちょっと原点回帰したくて。それで、ここのダンジョンってどんな感じなんですか? 前のギルドで『環境が過酷』って聞いたんですけど」
僕が尋ねると、受付嬢はハッとして姿勢を正し、真剣な顔つきで説明を始めた。
「はい。この町にある『はじまりの迷宮』に出現する魔物は、ゴブリン、オーク、コボルトといった、どこにでもいる平凡な亜人種や獣ばかりです。一体一体の強さは、銀騎士様からすれば取るに足らないでしょう」
「ふむ。じゃあ、何が過酷なんだ?」
「……『数』と『連携』です」
彼女はダンジョンの見取り図を広げ、指を指した。
「ここの魔物たちは、個々の弱さを補うために、異常なほどの集団行動(群れ)を取るのです。一部屋に数十、時には百を超える魔物が密集し、前衛、弓兵、さらには呪術師までが完璧な陣形を組んで襲いかかってきます」
「なるほど……軍隊みたいな連携をしてくるってことか」
「ええ。そのため、いくら個人のステータスが高くとも、多勢に無勢で押し潰されてしまう冒険者が後を絶ちません。当ギルドでは、この迷宮の探索は『最低でも六人以上のフルパーティ』を推奨しており、ソロでの挑戦は原則として禁止……」
そこまで言いかけて、受付嬢は僕のギルドカードの『レベル28』『全ステータス300超え』というバケモノ数値を二度見し、大きくため息をついた。
「……禁止、しているのですが。銀騎士様の実績とステータスであれば、こちらから止める権限はありません」
「ありがとうございます。とりあえず、明日は1度ソロで様子見に行ってみますよ」
僕はニヤリと笑ってカードを受け取った。
集団戦。多勢に無勢。
確かに、普通の冒険者にとっては脅威だろう。第一部で、角ウサギの大群にボコボコにされて死にかけた時の僕なら、間違いなく逃げ出していた。
だが、今の僕には『飛竜の雲海鎧』の圧倒的な防御力と、レベル28のバケモノ筋力、そして何より、あの天空で習得し、隠し続けてきた『飛ぶ斬撃』という広範囲殲滅技があるのだ。
「平凡な魔物の大群か……。どれだけ連携してきても、僕の物理のゴリ押しで突破してやるさ」
王道にして過酷な『はじまりの迷宮』。
原点回帰となる第六部の冒険は、かつてない規模の大乱戦から幕を開けようとしていた。
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