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グレイブハル城の観測者  作者: かも ねぎ
拾遺 第二章『知られなかったものたち』
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拾遺2-5 境界を測る言葉


 一通り見学順路を巡り終え、二人は回廊を戻っていた。


「それにしても、貴方は本当に美しいですねぇ」


 アウレリウスが横に並ぶヘンリーを見る。

 焦げ茶の瞳が、愉快そうに細められていた。


「人気俳優のセシル・アッシュフォードより、よほど美しいのでは?」

「……それは、ありがとう」

「私、彼に取材したこともあるんですがね……。

 やはり、貴方のほうが上だ」

「上、とは?」

「格、というのでしょうか。

 肌艶も、顔立ちも、立ち居振る舞いも。  こんなに“完成された人”は、そうそういません」


 ヘンリーは鞄を抱え直し、興奮気味に続ける。


「髪の一本でさえ美しい。

 神というのは不公平ですねぇ。

 見てください、私の凡庸な瞳を!」


 眼鏡を押し上げ、顔を寄せられて、アウレリウスは一歩下がった。


「切れ長で、知性のある瞳だと思うよ。

 ものを見るための、いい瞳」

「……性格まで良いときましたか。

 これだから創造神オルドは信用ならない」


 ヘンリーは鞄をぎゅっと抱きしめ、声を立てて笑った。

 アウレリウスも、つられるように笑う。


「あはは。不信心すぎない?」

「記者ですから。疑うところから始まる仕事です」

「……大変だね」

「受付にいた黒髪の少年も、とても美しかったですね」

「……彼に伝えておくよ」


 回廊には、ヘンリーの声だけがやけに響いていた。


「もっと表に出られればいいのに。

 きっと大人気になりますよ」

「そういう性分じゃないんだ。僕たちは」

「写真を撮っても?」


 ヘンリーは鞄を開け、またカメラを取り出す。


「最初にも話したけど、外観以外はお断り」


 両手で大事そうにカメラを持ったまま、ヘンリーはため息をついた。

 アウレリウスは、その様子を見て小さく笑う。


 気を取り直したように、ヘンリーは再び顔を上げ、アウレリウスの横顔を眺めた。


「ご結婚は?」

「してないよ」

「婚約者様は?

 これほど美しい方なら、お相手もさぞ……」

「……秘密」


 アウレリウスが人差し指を唇に当てて微笑むと、ヘンリーは、はっとしたように息を呑んだ。


「今の仕草で、どれほどのご令嬢が気を失うか……!」

「何を言ってるの」

「では、ご趣味は?」

「読書だよ。

 ……君は、何が知りたいの?」

「貴方のことを、すべて」


 アウレリウスは、笑った。


「お城を見に来たんでしょ?」

「ええ。グレイブハル城の“すべて”を」

「さっきは、僕のことを知りたいって言ってたよね?」


 階段に差し掛かり、ヘンリーは鞄とカメラを抱えたまま、慎重に足を運び始める。


「では、受付にいた黒髪の少年とは、どのようなご関係で?

 お二人ともお美しいですが、そこまで似てはいませんよね」

「……親戚の子を預かってる。いい子だよ」 「そうですか、そうですか」

「これも最初に言ったけど、取材はお断りだよ」


 ヘンリーがぱっと顔を上げる。

 アウレリウスは、その瞳を静かに見つめ返した。


「いやいや、私はただ……お友達になりたくて」

「そうは見えないけど」

「おや、そうですか?」


 玄関ホールへ戻る。


 アウレリウスが先に階段を降り、ヘンリーはゆっくりとその後を追った。


 ステンドグラスの複雑な色が、

 二人の頬を、同時に淡く染めていた。



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