拾遺2-2 探る者の足音
アウレリウスが受付室に戻ってくると、ちょうど見学者がセティと話しているところだった。
まず目に入ったのは、その大きな鞄だ。
真鍮の眼鏡をかけた男。
瞳の色は、どこにでもいそうな焦げ茶色。一見すると無個性で、記憶に残りにくい顔立ちをしている。
けれど、眼鏡越しに目を細めた瞬間。
切れ長の瞳が、妙に鋭く光った。
――何かを見定めようとする視線。
セティが受付室を回り、男のもとへ足早に向かっている。
「セティ」
階段を降りてきたアウレリウスに気づき、セティが顔を上げた。
「あ……アウル。案内に行ってきます」
男はアウレリウスを見るなり、一瞬だけ目を見張り、すぐに面白そうに口角を上げた。
「こんにちは。見学かな?」
「お邪魔します。もしや、あなたがこの城の持ち主の方で?」
「そうだよ」
アウレリウスは、ゆったりと歩いて、見学者とセティの間に立った。
「アウル?」
「セティ、案内は僕が行くよ」
「え……はい」
男は、にんまりと笑った。
「私はヘンリー・モートンと申します。新聞記者をしておりまして」
アウレリウスは小さく笑う。
「そうじゃないかな、と思った。ずいぶん大きな荷物だね」
ヘンリーは鞄を開き、蛇腹式の折りたたみカメラを取り出した。
木製のボディに、前面に据えられたレンズ。
「いやあ、城主様。お美しいですね。男性にしておくのは、もったいないくらいだ。 ――写真を撮っても?」
アウレリウスは、変わらぬ柔らかさで微笑んだ。
「お断りするよ」
「えっ」
「城の外観は撮ってもいい。でも、中と、僕たちは撮らないでね」
「えぇ……」
「取材なの?」
「……はい」
「なら、断るよ」
セティは落ち着かない様子で、二人のやり取りを見守っていた。
「はぁ……。この城は“不思議な城”として有名でして。ぜひお話を伺いたかったのですが……」
「見学はしてもいいよ」
「取材は……」
「“見学”なら、ね」
アウレリウスから放たれる、目に見えない圧を感じ取ったのか、ヘンリーは、わずかに肩を落とした。
鞄の中で、小さく――カチャリ、と音がする。
「……見学します」
「うん。行こっか」
アウレリウスはヘンリーの横に立ち、自然な仕草で腰に手を添えて歩き出した。
「うわぁ……。近くで見ると、本当に肌が綺麗ですねぇ」
「あはは。君、変な人だね」
「よく言われるでしょう? 美しいって」
「ほら、ここが玄関ホール。あのステンドグラス、皆感動してくれるんだ」
「ああ……確かに、あれも美しい」
歩くたび、鞄の中で、カチャ……と小さな音が鳴る。
腰に添えた手の下で、ヘンリーの身体がわずかに強張っているのが分かる。
表向きは卒がないが、足運びは慎重だ。
ちらり、ちらりと向けられる、探るような視線。
アウレリウスが振り返ると、セティはまだ玄関扉の前に立ち、心配そうにこちらを見ていた。
安心させるように微笑むと、セティは小さく頷く。
ステンドグラスから落ちる柔らかな光が、大階段を曖昧に包んでいる。
ヘンリーは、わずかに目を細めて、その光を見上げた。




